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オランダの在宅勤務は誰が決める?Booking.com判決の「40%出社」から自分の会社を確かめる7項目

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オランダの在宅勤務は誰が決める?Booking.com判決の「40%出社」から自分の会社を確かめる7項目

「オランダは在宅勤務が当たり前の国だと思っていたのに、会社から週2日は出社するよう言われた」。そんな場面で多くの人が最初に調べるのが、会社にそう命じる権限があるのかどうかです。2026年10月28日、アムステルダム地裁がこの問いに関わる決定を出しました。

Booking.com の従業員に、勤務時間の少なくとも40%を出社に充てるよう義務づけてよい、という内容です。在住者向けの媒体が相次いで伝え、「週2日出社はオランダの標準になるのか」という受け止めも広がりました。ただ、決定文を読むと、話はもう少し込み入っています。

この記事では、決定文の原文を起点に、在宅勤務の日数がオランダでどう決まるのかを整理します。雇用契約、ondernemingsraad(オンデルネーミングスラート、従業員代表の協議機関。以下 OR)、法律の順に、読者が自分の会社で確かめられる形にしました。法令と決定文は2026年11月1日に確認した内容です。法律相談に代わるものではない点はご承知おきください。

この記事が主に根拠にしたのは、次の資料です。

先に、読者の疑問ごとの答えを表にまとめます。

知りたいこと 答えの要点
在宅勤務の権利はあるか ない。申請する権利だけ
判決は全社に効くか 効かない。Booking.com の個別判断
会社は一方的に変えられるか OR の同意か裁判所の許可が要る
在宅手当はいくらか 非課税上限は1日€2.45、支払いは任意
自宅が国外ならどうなるか 税と社会保険を別々に判定

このあと、まず決定の事実を確かめ、そのうえで制度の話に進みます。

1. 決定で実際に何が起きたか

報道の見出しは「週2日」ですが、決定文に書かれている基準は勤務時間に対する割合です。ここでは経過と中身を、決定文の認定事実に沿って並べます。

争いの経過

Booking.com は2023年7月1日から、勤務時間の40%以上の出社を「推奨」する方針を取っていました。OR が当初の拒否のあと譲歩を受けて同意した方針です。ところが2024年第3四半期から2025年第3四半期までの集計で、推奨を守っていた従業員は27%にとどまりました。

会社は2025年11月から OR と事前協議を始め、当初の50〜60%案を40%に下げ、6か月の移行期間を加えました。2026年4月10日に正式な同意申請を出しましたが、OR は5月22日に50ページを超える文書で拒否します。会社は6月30日に裁判所へ申し立て、10月6日の審理と当事者協議の決裂を経て、10月28日に決定が出ました。

2023年7月に40%推奨の方針が始まり、2025年11月に事前協議、2026年4月10日に同意申請、5月22日に OR が拒否、6月30日に申立て、10月6日に審理、10月28日に決定。決定後に6か月の移行期間が置かれる。 2023.07 40%を「推奨」する方針 2025.11 OR との事前協議が始まる 2026.04 正式な同意申請(10日) 2026.05 OR が同意を拒否(22日) 2026.06 裁判所へ申立て(30日) 2026.10 審理(6日)、決定(28日) この先 6か月は義務を執行しない
図1:Booking.com の方針をめぐる経過。移行期間の起算日は決定文から確認できませんでした(出典:ECLI:NL:RBAMS:2026:10590、2026年11月1日確認)

新しい方針の中身

決定が許可したのは「40%」の数字だけではありません。方針は複数の部品からなり、裁判官も部品ごとに検討しました。従来の方針と並べると、次のようになります。

項目 2023年からの方針 許可された方針
出社の割合 40%以上を推奨 40%以上を義務化
測る単位 四半期ごと 月ごと
チームの出社日 四半期に6日以上 毎週の固定日
例外 明文の規定なし hardship clause(苛酷条項)
移行 なし 6か月は執行しない

表から分かるとおり、争点は「推奨」が「義務」に変わることと、その測り方です。

月ごとの計算では、休暇や病気などの不在と、認められた国外勤務の日を分母から引きます。決定文の式を当てはめると、月20営業日で全日出勤なら8日、5日休めば6日が目安です。週3日勤務の人なら、月12日に対して5日弱となります。つまり「毎週必ず2日」ではなく、月平均で見る仕組みです。端数の扱いまでは決定文から分かりません。

裁判官が重視したこと

裁判官は、対面で会うことが連携や新人の育成、信頼に役立つのは、厳密な科学的結論でなくても広く共有された前提だと述べました。方針が「必要不可欠」である必要はなく、合理的に採れる判断であれば足りる、という整理です。

そのうえで、40%なら従業員は「bepaald niet overvraagd」(決して過大な要求を受けていない)と評価しました。OR が挙げた通勤の時間と費用、ケアの負担を踏まえても、会社の利益を上回らないという結論です。従業員がアムステルダムを勤務地として採用され、住む場所を自分で選んでいる点にも触れています。

一方で、会社側に宿題も残しました。全員が同時に座れないことは OR の懸念として正当だと認め、チーム日を火曜と木曜に集中させないなどの分散と、必要なら席の増設を求めています。入館パスのデータを管理職に渡す件は、OR との検討が終わるまで待つ必要があります。確認の方法も比例的でなければならない、と釘を刺しました。

2. 媒体の数字は、なぜ食い違うのか

この件は在住者向け媒体が短い間に次々と伝えたため、数字や表現に差があります。読み比べると、差の多くは決定文で解消できます。

項目 媒体の表現 決定文
40%の意味 DutchReview:最大40%(up to) 少なくとも40%(ten minste)
対象人数 DutchNews・DutchReview:約7,000人 本社で6,000人超
27%の意味 DutchNews:平均の出社率 40%を守った従業員の割合
推奨の開始 DutchReview:2022年から 現行方針は2023年7月から
週2日 各紙の見出し 基準は割合。週2日は5日勤務の目安

なかでも重要なのは1行目です。「最大40%」と「少なくとも40%」では、意味が逆になります。決定文の要旨と主文の説明はいずれも ten minste なので、この記事は「少なくとも」で書きます。

27%にも注意が必要です。DutchReview の10月8日の記事は、OR によるとオフィスの稼働率が27%だと伝えました。決定文の27%は、推奨を守った人の割合で、稼働率とは別の数字です。7,000という数字は決定文では席数(7,000席超、うち机3,200席)として出てくるので、混ざった可能性もありますが、理由までは確認できません。

なお、2026年11月1日の時点で、OR が控訴したという報道や公式発表は確認できませんでした。決定は uitvoerbaar bij voorraad(アイトフォールバール・ベイ・フォールラート、仮執行)とされており、控訴があっても会社は方針を進められます。

3. 在宅勤務の日数は4つの層で決まる

ここからが本題です。オランダの法律には「週に何日まで在宅」という基準はありません。日数は、次の4つの層が重なって決まります。自分の状況を確かめるときも、この順に見ると迷いません。

層 根拠 決まること 見るもの
会社の指示権 民法典7:660条 仕事のやり方と場所の指示 就業規則、社内方針
集団のルール WOR 27条 全社の在宅方針の変更 OR の同意記録、CAO
個別の合意 契約、7:613条 その人の在宅の取り決め 契約書、在宅合意書
個人の申請 Wet flexibel werken 勤務場所の変更の申請 申請書と会社の回答

上の層で許されても、下の層で止まることがあります。OR が同意した全社方針でも、その人に個別の合意があれば、別に検討が必要になるという意味です。

会社の指示権(instructierecht)

民法典7:660条は、仕事の遂行や職場の秩序について会社が指示できると定めます。Booking.com の決定はこの条文を出発点にし、働く場所も指示に含まれうると述べました。指示権があるので、在宅勤務は「権利」ではなく、原則としては会社が許す働き方です。

ただし指示権は無制限ではありません。法令の枠内で、かつ次に見る OR の同意権や個別の合意に服します。「指示だから従うしかない」とは言えません。

OR の同意権(instemmingsrecht)

OR は、法律で列挙された労働関係の規則について同意権を持ちます。在宅の規則は条文に名前が出てきませんが、裁判所は「労働環境の規則」(27条1項d号)などに当てはめてきました。Booking.com では会社の申請が d 号と k 号(個人データ)にもとづいていました。

決定文の整理によると、裁判官は双方の利益を比べ、会社の利益が重ければ許可します。OR の利益が重ければ認めません。同じ重さなら、会社が重大な組織上・経済上・社会上の理由を示さない限り認めません。同意を得ずに実行した決定は、OR が書面で無効を主張すれば無効です。期限は条文では1か月で、SER(社会経済評議会)の案内は30日と書いています。

注意したいのは、CAO にすでに実質的な定めがあれば同意権は及ばない点です(同条3項)。そして、規模で権限が変わります。

会社の規模 代表の仕組み 在宅の規則への関与
50人以上 OR の設置が義務 同意権の対象になりうる
10〜49人 任意、過半数の要求で PVT、なければ年2回の集会 PVT なら労働環境に同意権
10人未満 設置の義務は確認できず 個別の話し合いが中心

PVT は personeelsvertegenwoordiging(ペルソネールスフェルテヘンウォールディヒング、従業員代表)で、Rijksoverheid(政府)の案内によれば3人以上で構成します。自分の会社の人数を、まずここに当てはめてください。

個別の合意と「既得権」

在宅が契約書に書かれていれば、それは労働条件の一部です。契約書になくても、長年の実態から労働条件になることがあります。IamExpat の解説(GMW 法律事務所との提携記事、2026年2月)は、エクアドルからの勤務を会社が一方的に打ち切れなかったユトレヒト地裁の事例を紹介しています。

労働条件を一方的に変えるには、民法典7:613条により書面の変更条項と、従業員の利益に優先する重大な利益が必要です。ORnet の解説も、個別の在宅合意は集団の問題とは別に判断が必要だと指摘します。Booking.com の決定はこの点を判断していません。決定文には Wet flexibel werken への言及もありませんでした。

4. 3つの裁判例を並べる

Booking.com の決定だけを読むと、会社が勝つ流れに見えます。しかし、ここ1年半の裁判例を並べると印象が変わります。どれも一審の判断で、ほかの会社を直接拘束するものではありません。

項目 Caterpillar(2025年9月) ASUS(2025年6月) Booking.com(2026年10月)
会社の方針 全日出社に戻す 週2日→3日出社 推奨40%を義務化
OR への同意申請 していない 申請したが拒否 申請したが拒否
結果 実行を禁止 許可せず 許可
分かれ目 手続きを飛ばした 根拠がごく一般的 協議と譲歩が十分

表が示すのは、数字そのものより「どう進めたか」が結果を分けているということです。

Caterpillar:本社の決定でも、OR を飛ばせない

Caterpillar 事件は仮処分(kort geding)です。米国本社の方針で全日出社に戻そうとしたオランダ法人に対し、裁判官は、在宅できるかどうかは通勤時間や仕事と私生活の調整を通じて心理社会的な負担に影響するので、労働環境の規則だと判断しました。そのため同意なしの実行を禁じ、違反には1日€5,000(上限€500,000)の強制金を命じています。

ASUS:本社の方針だけでは足りない

ASUS 事件は従業員93人、OR は3人という小さな会社の話です。台湾本社の指針に沿って出社を週3日にしようとしましたが、裁判官は説明がごく一般的で乏しいと判断し、許可しませんでした。本社の方針に従う必要があるという主張だけでは重大な理由にならない、とも述べています。2025年9月の報道では控訴中とされていますが、結果は確認できませんでした。

Booking.com:勝因は「準備」

Booking.com は、半年近い事前協議で案を修正し、苛酷条項と長期不在者の除外を入れ、席の増設も約束しました。逆に裁判官は、OR の決定が会社側の利益にほとんど触れず、再協議の誘いにも応じなかった点を指摘しています。

ORnet の記事に登場する弁護士は、これを会社寄りの合理性判断だと評しました。一方で、ほかの会社では提案内容、協議の経過、例外規定、以前の奨励策しだいで結論が変わるとも整理しています。OR が拒否するなら、従業員の利益がなぜ勝るのかを具体的に示す必要がある、というのが実務上の教訓です。

数字で見る OR の主張

決定文には、OR が2026年4月に実施した調査の結果も出てきます。回答者は6,000人超のうち2,857人です。会社全体の値ではない点に気をつけて読んでください。

回答者2,857人のうち、現行方針に満足が87.1%、公共交通で通勤が63%、職場から11キロ超に居住が55.9%、ケアの責任に悪影響と答えた人が37%、健康に悪影響と答えた人が13.7%。 現行に満足 87.1% 公共交通で通勤 63% 11km超に居住 55.9% ケアに悪影響 37% 健康に悪影響 13.7%
図2:OR の従業員調査(2026年4月、回答2,857人)。会社の集計である「推奨を守った27%」とは母数が異なります(出典:ECLI:NL:RBAMS:2026:10590、2026年11月1日確認)

裁判官は、この負担が全員に当てはまると仮定しても、40%の方針を上回らないと判断しました。従業員の不満の大きさがそのまま結論を決めるわけではない、という点は押さえておく必要があります。

5. Wet flexibel werken で申請する

個人が使える道具が Wet flexibel werken(ウェット・フレキシベル・ウェルケン、柔軟勤務法、Wfw)です。ここは誤解が多いので、条文と政府の案内を並べて確かめます。

条件と期限

条文とRijksoverheid の案内によると、条件は次のとおりです。

項目 内容
勤続 希望日までに26週以上
会社の規模 10人以上(子や家族のケアは例外あり)
申請 希望日の2か月前までに書面で
書くこと 開始日と希望する勤務場所
会社の回答 希望日の1か月前までに書面で
回答がないとき 申請どおりに変更される
次の申請 決定から1年後

期限の順番は図にすると分かりやすくなります。

希望日の2か月前までに書面で申請し、会社と協議し、希望日の1か月前までに書面の回答を受け、希望日から勤務場所が変わる。回答がなければ申請どおりになる。次の申請は1年後。 1. 申請 2か月前 2. 協議 会社と話す 3. 回答 1か月前 4. 開始 希望日 回答がなければ申請どおりになる 次の申請は決定から1年後
図3:勤務場所の変更を申請する流れ(出典:Wet flexibel werken 2条、Rijksoverheid、2026年11月1日確認)

「断るには正当な理由」は、どこまで強いのか

ここは案内と条文の間に温度差があります。Rijksoverheid や ACCESS の解説の流れで読むと、正当な理由がなければ断れないように見えます。一方で条文の2条6項は、勤務場所の申請について、会社は検討し、断るなら協議するとしか書いていません。

勤務時間の変更に使われる「重大な業務上の利益」という厳しい基準(同5項)は、勤務場所には適用されません。この基準を強めようとした法案 Wet werken waar je wilt(ウェット・ウェルケン・ワール・イェ・ウィルト)は2023年に上院で否決されました。つまり Wfw は、会社に真剣に考えさせ、期限と書面を求める道具であって、在宅を勝ち取る権利ではありません。

媒体の間でも差があります。ACCESS の2024年の記事は、10人未満の会社は3か月以内に回答すると書いています。ただ、条文の2条18項は10人未満を本条の対象外とし、労働時間の規則づくりを求めているので、この記事では条文と Rijksoverheid の案内に合わせました。

例外の使い方

Booking.com の苛酷条項は、個別の事情がある場合に、原則として期間を限って例外を認めるものです。裁判官はこれを「良い雇用主」の義務の具体化と位置づけ、長期の病欠や育児休業の人の除外も認めました。ケアや健康で出社が難しい人は、Wfw の申請とは別に、社内の例外規定と 病欠の手続きを確認するとよいでしょう。

6. 手当と通勤費の計算

出社日数が変わると、手取りにも影響があります。ここで混同しやすいのが、手当の「義務」と「非課税枠」です。

2026年の金額

thuiswerkvergoeding(タウスウェルクフェルフゥーディング、在宅手当)の非課税上限は、Handboek Loonheffingen 2026 の22.1.12項によると、在宅1日あたり€2.45です。Nibud(家計研究機関)の調査にもとづく額で、半日の在宅でも使えます。ただし同じ日に、固定勤務地への通勤の非課税手当と併用はできません。

通勤の非課税枠は1キロあたり€0.25です。もとは€0.23で、Belastingdienst の2026年6月25日の案内で2026年1月1日にさかのぼって引き上げられました。3月版の Handboek には€0.23のまま載っているので、古い資料を見るときは注意が必要です。

どちらも会社の義務ではありません。在宅手当は任意だと IamExpat が解説し、通勤手当も義務ではないと ACCESS が説明しています。支給の有無は契約、社内規則、CAO で確かめます。

働き方ごとの上限を試算する

定額で払う場合は、年214日を基準に、週の配分で按分する決まりがあります(128日ルール)。週5日勤務で片道25キロの人を例に、非課税で受けられる上限を試算しました。

週の配分 在宅手当の上限(年) 通勤手当の上限(年)
出社1・在宅4 €419 €535
出社2・在宅3 €315 €1,070
出社3・在宅2 €210 €1,605
出社4・在宅1 €105 €2,140

出社が増えるほど通勤の枠が大きくなるのが分かります。ただし、これは会社が上限まで払う場合の試算で、実際の支給額ではありません。電車の実費精算など、別の方法を使う会社もあります。

計算は 214×配分÷5 に日額を掛けたもので、通勤は往復50キロ×€0.25です。実際の通勤費がいくらかかるかは経路しだいです。手当が通勤費に届かないときは、その差額がそのまま出社の負担になります。

7. 自宅も職場:Arbo の責任

在宅の日があるなら、自宅の机も法律上は職場の一部です。Arbo(アルボ、Arbeidsomstandighedenwet の略称で労働安全衛生法制)の考え方を確認します。

RijksoverheidとArboportaalによると、会社は在宅でも良好で安全な職場を確保する責任を負います。根拠は Arbo 法3条と民法典7:658条、在宅を含む場所に縛られない仕事の規定は Arbobesluit(労働安全衛生令)1.43〜1.53条です。

項目 会社の役割 本人の役割
機材 必要な物を判断し提供 提供された物を使う
作業姿勢 人間工学にもとづき指導 不調があれば早めに伝える
リスク評価 RI&E に在宅の危険を入れる 調査に答える
心の健康 負荷を把握し対策する 孤立や負担を相談する

RI&E は risico-inventarisatie en -evaluatie(リスク評価)で、Arboportaalは在宅の心理的負担も含めて対策計画に書くよう求めています。

どこまで求められるかは「会社に合理的に期待できる範囲」で変わります。在宅が例外的な人まで同じ基準かどうかは、解説によって書き方が分かれ、確定的には言えません。誰が椅子代を払うかについても、Rijksoverheid のページには明記がありません。会社が椅子や画面を提供しない場合は、まず社内の規則を確認し、書面で相談してください。労働監督局(Arbeidsinspectie)の2023年の調査でも、会社が講じた対策を従業員が知らないという指摘があります。

8. 国境をまたぐ在宅勤務

オランダで働きながら、ドイツやベルギーに住む人、夏に日本で働きたい人にとっては、出社日数が税と社会保険に関わります。ここは2つを必ず分けて考えてください。

社会保険:25%と50%

EU 域内で複数国で働く場合、居住国での仕事が25%以上なら居住国の制度に入るのが原則です。2023年7月1日からは枠組み協定があり、両国が署名していて条件を満たせば、申請によって勤務国の制度に残れます。

居住国での在宅が25%未満なら勤務国の制度のまま。25%以上50%未満は、枠組み協定の申請で勤務国に残れる。50%以上は居住国の制度に移る。 居住国で働く時間の割合 勤務国の 制度のまま 申請で 勤務国に残る 居住国の制度へ 25% 50%
図4:社会保険の区分。両国の署名と SVB への申請が前提です。上限の書き方は Handboek が50%まで、EURES が49%までと異なります(出典:EURES、Handboek Loonheffingen 2026 20.4項、2026年11月1日確認)

週5日勤務で週2日出社なら、残りの3日を居住国で働くと60%となり、枠組み協定の範囲を超えます。Booking.com のような40%出社は、国境沿いに住む人にとって、むしろ下限を超えて出社しないと保険が移るという別の計算が働くわけです。出社50%超を保てるかどうかが、住む場所の選択にも関わります。

条件や申請は SVB(社会保険銀行)の案内で確認します。申請が認められると A1 証明が出ます。働き方を変えてから慌てないよう、早めに確認しておくと安全です。日本国籍の人に EU 規則がどう適用されるかは、居住国と勤務国の組み合わせで変わることがあるため、ここでは断定しません。

税:ドイツとベルギーで違う

税は国ごとの租税条約で決まります。基本は「実際に働いた国で課税」で、在宅の日も例外ではありません。主な状況を表にしました。

状況 税の扱い 確認先
ドイツ在住、NL 勤務 年34日まで全額を勤務国で Belastingdienst
上記で34日超 在宅日は居住国で課税 同上
ベルギー在住、NL 勤務 同様の基準は確認できず 政府の案内
日本で一時的に勤務 条約14条の条件を確認 日蘭租税条約

ドイツとの基準は Handboek の19.1.1項に記載があり、30分を超えて在宅で働いた日を1日と数えます。日を記録するカレンダーを付けるようにという注意もあります。Belastingdienst の案内は、第三国で働いた日も数えうると書いています。週1〜2日の恒常的な在宅では基準を超えやすいと、政府の発表も認めています。

ベルギーとは、2023年の合意で、会社の恒久的施設になるかどうかが整理されました。在宅が50%以下なら恒久的施設にならない、という内容です。これは会社の税の話で、個人の所得税の基準ではありません。上院の記録では政府が2026年7月1日までに回答する約束が「未了」と表示されており、その後の結論は確認できませんでした。

日本に一時帰国して働く場合

日蘭租税条約14条によると、オランダの居住者が日本で働いた分の給与は、原則として日本でも課税できます。ただし、日本の滞在がどの12か月でも合計183日以内で、日本の居住者である雇用者が払っておらず、日本の恒久的施設が負担していなければ、オランダだけの課税です。

一方で、社会保険については、日本年金機構の案内は一時派遣(5年以内の見込み)を対象としています。短い帰国中の在宅勤務を直接扱う公的な説明は、見つけられませんでした。30%ルール(expatregeling)を使っている人の国外勤務日の扱いも、今回の調査では公式の説明を確認できていません。会社の給与担当と税理士に確認してください。

9. 日本と比べてどうか

日本の感覚で読むと、ずれやすい点がいくつかあります。優劣ではなく、仕組みの違いとして並べます。

項目 オランダ 日本
従業員側の関与 OR の同意権 過半数代表の意見聴取(労基法90条)
会社が通す道 裁判官の代替許可 合理性と周知で就業規則変更
個人の申請 Wfw の申請権 一般的な申請権の法律はない
在宅手当の税 定額€2.45まで非課税 実費精算は非課税、渡切りは課税
実施の目安 会社の81%が可能(CBS) 実施率16.8%(国交省)

最後の行は定義が違うので直接比べられません。傾向の参考としてご覧ください。

「同意」と「意見を聞く」の差

日本の労働基準法90条は、就業規則の変更で過半数代表の意見を聞くことを求めますが、同意までは求めていません。変更の効力は労働契約法10条の合理性と周知で判断され、争いになるのは多くの場合、変更したあとです。

オランダでは、OR が拒否すれば、会社は実行前に裁判所へ行くことになります。Booking.com が申立てをしたのは、そのためです。「会社が裁判を起こした」と聞くと大ごとに見えますが、この制度の中では予定された手順です。日本から来た人が驚きやすい点です。

日系企業で働く人の視点

ASUS と Caterpillar は、どちらも国外の本社の方針をオランダ法人に下ろそうとした事件でした。日本本社の方針で出社を増やす場合も、現地法人に50人以上いれば同じ問題が起きえます。「本社の決定」は理由の一つにはなっても、それだけで足りるとは限らない、というのが ASUS 決定の読み方です。

日本のテレワークガイドラインは、契約や就業規則の範囲を超えて在宅を命じるには合意が必要、という「在宅を命じる側」の整理が中心です。オランダの議論は逆向きで「在宅から戻す側」の争いが中心になっています。日本の在宅手当の国税庁 FAQと国交省の調査、オランダの CBS の数字(2025年)も、制度の前提の違いを見る材料になります。

日本の家族への伝え方

帰省の相談や、配偶者の仕事の話で、日本の家族に説明する場面もあるでしょう。伝えるときの要点は3つです。

  • オランダに在宅勤務の権利があるわけではない。会社と従業員代表の取り決めで決まる
  • 出社が増えても、左遷や処分の意味とは限らない。全社の規則として扱われている
  • 夏に長く日本で仕事をするのは、休暇とは別の話で、会社の許可と税の確認が要る

10. つまずきやすいところ

ここまでの内容で、とくに誤解が多いものを整理します。

よくある思い込み 実際
判決で週2日出社が全国標準に Booking.com の個別判断
OR が拒否すれば話は終わり 会社は裁判所へ行ける
申請すれば在宅が認められる 会社は協議のうえ断れる
40%は毎週2日 Booking.com は月単位で算定
在宅手当は義務 非課税枠があるだけで任意
在宅なら税金は変わらない 国外の自宅なら変わりうる

特に最後の点は、出社日数の変更が税と社会保険の区分を動かすので、国境近くに住む人は気をつけてください。

11. 明日やること:自分の会社で確かめる7項目

実際に確かめる順番です。難しい交渉の前に、書類をそろえるだけで多くのことが分かります。

  1. 契約書を読む:勤務地(standplaats、スタントプラーツ)の記載と、変更条項の有無を確認します。雇用契約書の読み方も参考になります
  2. 個別の在宅合意を探す:thuiswerkovereenkomst(在宅合意書)やメールを保存します。期間の定めや見直し条項も見ます
  3. OR の有無と同意の記録を確かめる:会社の人数と OR の議事録を確認します。社内ポータルに公開されていることが多いので、なければ OR に尋ねます
  4. CAO を確認する:適用される CAO に在宅や出社の定めがないかを見ます
  5. 例外規定を確かめる:苛酷条項や、ケア・健康に関する社内手続きを読みます
  6. 手当と通勤費を計算する:明細を見て、新しい日数での差額を出します
  7. 国外の要素を洗い出す:居住国、国外勤務の日数、会社の許可の条件を書き出し、必要なら SVB か税理士に確認します

疑問が残るときは、労働組合のほか、Juridisch Loket(法律相談窓口)に相談できます。解雇の話に発展しそうなら、不当解雇の記事も確認しておくと安心です。

12. ケースで考える(架空の例)

次の3人は説明のために作った架空の人物です。実在の人や会社とは関係ありません。

人物 状況 まず確かめること
Aさん 日系企業60人、週3在宅、本社が週4出社を通達 OR の同意、契約の在宅条項
Bさん IT 企業、子ども2人、OR 同意済みで週2出社に 例外規定、Wfw の余地、手当の差額
Cさん ドイツ在住、NL 勤務で週3在宅 社会保険の割合、34日基準

Aさんの会社には OR が必要です。本社の通達だけで実行されていれば、OR が無効を主張できる可能性があります。まず OR に手続きの状況を尋ねます。

Bさんは、全社の方針としては手続きが済んでいます。争うより、送迎の事情を例外の申請にまとめ、固定日の調整を相談するほうが現実的です。Wfw の申請もできますが、会社は協議のうえ断れます。

Cさんは、週3日をドイツで働くと60%で、34日基準も社会保険の枠組み協定の範囲も超えます。すでに税と社会保険がドイツ側に移っている可能性があるので、会社の給与担当と税理士に実態を確認します。

13. やってはいけないこと

感情的に反応したり、確認せずに動いたりすると、立場を悪くすることがあります。代表的なものをまとめました。

やってはいけないこと 理由
新方針を無視して出社しない 指示違反として扱われうる
判決の見出しだけで諦める 自社の手続きは別に確かめる必要
口頭の約束だけで済ませる 後から合意を証明しにくい
無断で国外から働く 税・社会保険・規則の問題が出る
入館記録を勝手に同僚に見せる 個人データの問題になる
手当の非課税枠を権利と考える 支払い義務ではない

方針に納得できないときも、まず OR に事実を伝え、記録を残すのが基本です。出社しない選択をする前に、法律の専門家に相談してください。

14. チェックリスト

最後に、見落としやすい点を確認できる形にしました。

  • 契約書の standplaats と変更条項を読んだ
  • 在宅に関する個別の合意を保存した
  • 会社の人数と OR または PVT の有無を確認した
  • 方針変更に OR の同意か裁判所の許可があるか確認した
  • CAO の在宅・通勤の定めを確認した
  • 例外規定の対象と申請方法を確認した
  • 在宅手当と通勤手当の差額を計算した
  • 国外で働く日数をカレンダーに記録した
  • 自宅の機材とリスク評価について会社に伝えた

15. まとめ

  • オランダの法律に在宅勤務の権利も出社日数の基準もなく、4つの層の重なりで決まります
  • Booking.com の決定は「少なくとも40%」を認めましたが、協議、譲歩、例外規定を含めた個別の評価です
  • 同じ地裁の ASUS 決定と、Caterpillar の仮処分は、手続きや根拠が足りない会社を止めています
  • Wet flexibel werken は申請の権利で、期限と書面を守れば、会社に回答を義務づけられます
  • 在宅手当の非課税上限は2026年に1日€2.45、通勤は1キロ€0.25で、いずれも支払いは任意です
  • 国外の自宅で働く人は、税と社会保険を別々に、居住国ごとに確かめる必要があります
  • 控訴の有無、移行期間の起算日、ベルギーとの税の扱いは、この記事の時点で確認できていません

参考にした情報源

判決・裁判例

法令・当局(オランダ)

在住者向け媒体・解説

日本の資料

いずれも2026年11月1日に確認したものです。制度と金額は変わるため、手続きの前に公式サイトで最新の内容を確認してください。


元記事はこちら

Booking.com can make staff come into the office two days a week, Dutch judge rules — DutchReview

よくある質問

オランダに在宅勤務の権利はありますか?
法律上の権利はありません。あるのは Wet flexibel werken にもとづいて勤務場所の変更を申請する権利で、26週以上の勤続、希望日の2か月前までの書面申請などが条件です。会社は協議のうえ断れます。2023年に権利を強める法案が上院で否決され、この枠組みが続いています。
Booking.com の判決で、どの会社も週2日の出社を命じられるようになりましたか?
なりません。決定は Booking.com の方針を、協議の経過や移行期間、例外規定まで含めて個別に評価したものです。2025年の ASUS 事件では、同じ地裁が根拠の薄い出社増を認めませんでした。ほかの会社の結果は、その会社の方針と OR との協議しだいです。
会社は OR の同意なしに在宅勤務の規則を変えられますか?
在宅勤務の規則は、裁判例では労働環境の規則として OR の同意が必要とされる傾向にあります。同意なしの決定は、OR が書面で1か月以内に無効を主張すれば無効です。拒否された場合、会社は kantonrechter(簡易裁判官)に同意に代わる許可を求められます。
2026年の在宅手当(thuiswerkvergoeding)はいくらですか?
非課税で払える上限は在宅1日あたり€2.45です(Handboek Loonheffingen 2026)。会社に支払いの義務はありません。同じ日に固定勤務地への通勤手当と両方を非課税で受けることはできません。上限を超えて払う分は課税対象の給与になります。
ドイツやベルギーの自宅で働くと、税金と社会保険はどうなりますか?
税と社会保険は別々に判定します。社会保険は居住国での勤務が25%以上なら居住国に移るのが原則で、枠組み協定を使えば50%未満まで勤務国に残せます。税はドイツとの間に年34日の基準が2026年からありますが、ベルギーとの間に同様の基準は確認できませんでした。
日本に一時帰国して在宅勤務をしてもよいですか?
まず会社の許可が必要で、Booking.com の方針でも国外勤務は期間を限って認める形です。税は日蘭租税条約14条で、日本の滞在が12か月で183日以内、日本の雇用者が払っていないなどの条件を満たせばオランダだけの課税になります。個別事情は会社と税理士に確認してください。

出典: DutchReview

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