朝、熱が高くて起き上がれない。日本なら、始業前に上司へ電話かメッセージを入れて、診断書は必要になってから出すという流れが多いと思います。オランダでは、連絡そのものは同じように簡単ですが、そのあとに産業医(bedrijfsarts、ベドライフスアルツ)との面談や、雇用主と本人が決められた順番で進める復職の手続きが控えています。
この記事は、病欠の「手順」に絞っています。病欠中の給与の率や、雇用契約書の読み方はオランダの雇用契約書の記事、解雇を告げられたときの流れは解雇の記事にまとめてあるので、ここでは重ねません。扱うのは、当日の連絡、聞かれないこと、産業医、Wet verbetering poortwachter(ウェット・フェルベートリング・ポールトワハター、復職支援法)の段取り、有給中の病気、契約の種類による違い、2年後です。
条文は民法典(Burgerlijk Wetboek)第7編の2026年7月1日時点の版を wetten.overheid.nl で、制度の運用は UWV(被用者保険機構)と Rijksoverheid(政府)の案内で、2026年10月31日に確認しました。なお、この記事は一般的な情報の整理で、法的な助言ではありません。個別の状況は、勤務先のルールと適用される CAO(労働協約)でも変わります。
この記事が主に根拠にした情報
- 民法典 7:629条(病気中の給与)、7:638条(休暇)、7:658a条(雇用主の復職支援義務)、7:670条(病気中の解約禁止)、7:670a条(例外)(wetten.overheid.nl、2026年7月1日時点)
- UWV「Ziek, wat nu」「Loondoorbetaling tijdens ziekte」「Opzegverbod」「Werknemer gaat ziek uit dienst」「Wachtdagen」
- Rijksoverheid「Wat gebeurt er als ik als tijdelijke medewerker ziek word?」「Regels en verplichtingen bij ziekte」と、2026年3月27日の法案の発表
- 協会けんぽの傷病手当金の案内(日本との比較用)
| この記事で分かること | 答えの要点 |
|---|---|
| 当日の連絡 | 会社の規程に従う。法律は時刻を決めておらず、始業前の連絡が一般的(第2章) |
| 聞かれないこと | 病名・診断・原因は雇用主に言わなくてよい(第3章) |
| 産業医 | 働ける範囲を判断して雇用主に助言する。病状は産業医に(第4章) |
| 段取り | 6週目の問題分析、8週目の計画、42週目のUWVへの届け(第6章) |
| 契約の種類 | 試用期間・有期・派遣では扱いが変わる(第8章) |
| 解雇 | 病気の間は原則禁止。例外あり(第9章) |
| 2年後 | 給与の支払いが終わり、WIAの判定へ(第10章) |
1. 病欠の制度は何が前提か
オランダの病欠は、日本のように健康保険が中心ではなく、雇用主が給与を払い続け、同時に復職の努力を雇用主と本人の両方に課すという作りです。給与の支払いは最長104週間(2年)で、その間の復職の進め方は Wet verbetering poortwachter(2002年の復職支援法)が決めています。
UWV の案内によると、本人が雇用主に病欠を連絡し、雇用主がそれを産業医(または労働衛生サービス arbodienst)に伝え、ここから雇用主と本人が一緒に復職に向けて進む、というのが最初の一歩です。この「雇用主が病気を放置しない」「本人が協力を拒まない」という両方向の義務が、この制度の特徴です。
2026年に動いていること
制度の骨格は大きく変わっていません。動きとしては、政府が2026年3月27日に、UWV が2年後に行う re-integratieverslag の審査(RIV-toets)で、産業医の助言を判断の軸にする法案を Raad van State(国務院)に送ったと発表しました。これは法案の段階で、2026年10月31日の時点では成立していません。
| 項目 | 現状 | 本人に関係する点 |
|---|---|---|
| 給与の支払い期間 | 最長104週間 | 変更の発表なし |
| 2年後のRIV-toets | 産業医の助言を軸にする法案を国務院に送付(2026年3月27日) | 成立すれば雇用主の判断材料が変わる |
| 42週目の届け | 雇用主がUWVに届ける | 本人の作業は不要 |
出典は、UWV の案内と Rijksoverheid の2026年3月27日の発表です。表のとおり、いま病欠する人の手順に新しい義務は増えていません。法案が成立するかどうかは、勤務先の人事の運用が変わる段階で案内されるはずです。
2. 当日の連絡:誰に、いつ、何を伝えるか
病欠は、オランダ語で ziekmelding(ジークメルディング)、病欠を連絡することを ziek melden(ジーク・メルデン)といいます。「今日は病気で出勤できません」を伝える行為で、病名を伝えるものではありません。
法律に「何時までに」という決まりは置かれておらず、会社の病欠規程(verzuimprotocol、フェルザイムプロトコル)で決められています。実際の規程には、始業前に電話で直属の上司に連絡する、メールやチャットだけでは不可とする、会社のシステムに入力する、といった書き方が見られます。ただ、これは会社によって異なります。入社時の資料や社内ポータルで、次の4点を先に確認しておくと安心です。
| 確認すること | よくある書き方 | 確認先 |
|---|---|---|
| 誰に連絡するか | 直属の上司、人事、当番の窓口 | 病欠規程、契約書 |
| いつまでに | 始業前、または決まった時刻まで | 病欠規程 |
| どの手段で | 電話、アプリ、メールの併用 | 病欠規程 |
| 治るまでの連絡 | 回復の見込みを都度伝える | 病欠規程 |
連絡のときに伝えること
連絡で伝えるのは、「今日から出勤できないこと」「連絡のつく電話番号と、療養している住所」「いつ頃治るかの見込み(分かる範囲)」「急ぎの仕事や会議の引き継ぎ」です。見込みは「分からない」で構いません。治ったら hersteldmelding(ヘルステルドメルディング、回復の連絡)を同じ手順で入れます。
連絡が取れないとき
雇用主は、本人が決められた手順を守らないと、給与の支払いを一時止めることがあります。民法典7:629条6項は、雇用主が給与の権利を確かめるために書面で出した合理的な指示を本人が守らない間、支払いを停止できると定めています。同条3項は、正当な理由なく復職計画への協力を拒むなどの場合に、給与の権利がなくなる場合を挙げています。
「体調が悪くて電話に出られなかった」という事情は、あとから説明できます。ただ、連絡を取らないまま数日休むことは避けたほうがよく、家族や同居人に代わりに連絡してもらうのも一つの方法です。
図は、UWV が示す順番をそのまま並べたものです。産業医への連絡は雇用主の側の作業で、本人が最初にすることは1の連絡と、3の面談への協力です。
3. 雇用主に言わなくてよいこと:病名と診断
日本では、上司に「風邪です」「胃腸炎です」と伝えるのが自然な職場もあると思います。オランダでは、雇用主が病名や診断を聞くことは、個人情報の扱いとして認められていません。 健康に関する情報は、GDPR(EU一般データ保護規則)でも特別な扱いを受ける情報だからです。
Autoriteit Persoonsgegevens(AP、個人データ保護当局)の指針(De zieke werknemer)について、人事向けの専門誌 HR Praktijk などは次のように整理しています。雇用主が聞いてよいのは、連絡のつく電話番号と療養先の住所、病気がおおよそどのくらい続く見込みか、いま進めている仕事や約束の引き継ぎ、といった事柄です。聞いてはいけないのは、病気の種類や原因、どの程度なら働けるのかの詳細です。AP の公式サイトはこの確認時に自動取得を受け付けなかったため、AP の指針の原文は確認できていません。 本文は、これらの専門誌の整理と、AP が過去に病気の質問で制裁金を課したと報じられた事例(TaxLive)に基づきます。
| 場面 | 雇用主が聞いてよいこと | 聞いてはいけないこと |
|---|---|---|
| 病欠の連絡 | 連絡先、療養先の住所、見込みの期間 | 病名、診断、原因、症状 |
| 仕事の引き継ぎ | 進行中の仕事、会議の予定 | 通院先、処方の内容 |
| 復職の相談 | 産業医の意見にある就労可能な範囲 | 医学的な詳細そのもの |
| 同僚への共有 | 「病欠中」であること | 病名を同僚に伝えること |
表の左は、日常の連絡で必要な範囲です。右に当たる質問を受けたら、「その点は産業医に伝えます」と答えれば足ります。産業医が雇用主に伝えるのは、働けるかどうか、どんな配慮があれば働けるか、見込みの期間といった範囲で、診断名は含まれません。
診断書は求められるのか
オランダでは、一般に ziekmelding の時点で医師の診断書(doktersverklaring)は求められません。病気かどうかを確かめる役目は、雇用主が決めた産業医にあります。民法典の条文を確認した範囲で、通常の病欠に診断書の提出義務を置いた規定は見当たりませんでした。ただし、海外に滞在中の病気など、会社の規程が書類を求める場面はあります(第7章)。個別の規程は、勤務先で確認してください。
4. 産業医(bedrijfsarts):病気を判断する第三者
産業医は、雇用主と本人のどちらの味方でもなく、働けるかどうかを医学の観点から判断する医師です。オランダ語で bedrijfsarts(ベドライフスアルツ)といい、雇用主が契約した労働衛生サービス(arbodienst、アルボディンスト)に所属する場合が多く、本人の主治医(huisarts、ハウスアルツ)とは別の人です。
役目は、本人の状態を聞き、どの仕事ならできるか、何ができないかを判断して雇用主に助言することです。Rijksoverheid は、産業医が probleemanalyse(問題分析)をつくり、雇用主に助言する、と説明しています。治療そのものは主治医が担い、産業医は治療をしません。
面談の進み方
多くの場合、病欠の最初の数週間のうちに電話か面談の連絡が来ます。そこで聞かれるのは、仕事のどの部分ができないか、いつ頃回復しそうか、職場でどんな配慮があれば働けるか、といった点です。本人は病状を産業医に話してよく、産業医は本人の同意なく診断を雇用主に伝えません。
面談は、予定に出られなければ早めに連絡して日程を変えます。理由なく面談を欠席し続けると、復職への協力を拒んだとみなされる可能性があります。
| 面談で伝えること | 伝えなくてよいこと | 補足 |
|---|---|---|
| 仕事で難しい作業 | 勤務先に関係のない私生活 | 仕事に関係する範囲で答える |
| 回復の見込み | 治療の詳細の全て | 主治医の判断を共有してもよい |
| 配慮があれば可能なこと | 診断名の公開に同意しない場合の診断名 | 同意は本人が決める |
意見が合わないとき
産業医の判断に納得できないときの手段が、Rijksoverheid の案内に挙がっています。CAO にある紛争手続き、UWV の deskundigenoordeel(専門家の意見)の依頼、裁判所への申し立て、別の産業医によるセカンドオピニオンです。
UWV の deskundigenoordeel は、本人や雇用主が、復職の方針などについて第三者の意見を求める手続きです。判断が分かれそうなときは、まずセカンドオピニオンを取る方法があります。
5. 病欠中の給与:結論だけ先に
給与の率は雇用契約の記事に詳しく書いたので、ここでは手順に関わる点だけを置きます。根拠は民法典7:629条です。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 期間 | 最長104週間 | 7:629条1項 |
| 率 | 給与の70%以上。最初の52週間は最低賃金を下回らない | 同上 |
| 待機日 | 契約か CAO で、最初の2日まで無給にできる | 7:629条9項 |
| 病気の通算 | 4週間未満の間隔で再発したら通算する | 7:629条10項 |
| 協力しない場合 | 正当な理由なく協力を拒むと、その期間は権利が止まる | 7:629条3項 |
UWV は、多くの CAO が1年目に給与の100%を定めていること、1年目は年金の保険料と休暇手当も続くことを案内しています。表の「通算」は大事で、いったん治ってもすぐ再発すると、新しい病欠ではなく前の続きとして数えられます。104週の数え方に関わるので、復職後に再び休むときも記録を残してください。
図は法律の最低ラインです。1年目は70%以上かつ最低賃金を下回らず、2年目は70%以上です。上乗せの有無は、契約書と CAO で確かめます。
待機日(wachtdagen)の扱い
待機日は、病欠の最初の1〜2日に給与を出さない取り決めで、契約か CAO に書かれている場合に限ります。UWV によると、Ziektewet(病気給付、本人に雇用主がいない場合の制度)では、通常は待機日はなく、在宅勤務の人などの一部で1〜2日置かれる、とされています。雇用契約に待機日がなければ、1日目から給与が出ます。
6. Wet verbetering poortwachter:長引いたときの段取り
病欠が数日で終わらなければ、Wet verbetering poortwachter の「目盛り」が始まります。名前は「ゲートキーパー」の意味で、不必要に長期の病欠や障害給付に進まないよう、雇用主と本人に順番に動いてもらう仕組みです。民法典7:658a条は、雇用主が、病気の従業員を自社で働けるように努め、できなければ他社での適切な仕事を探すよう努める義務を定め、plan van aanpak(復職計画)を本人と合意して作ることも定めています。
以下の週の数字は、UWV の案内で確認できたものと、政府職員向けの人事サイト P-Direkt の案内、人事向けの専門誌の整理を突き合わせたものです。週の数字は制度の運用で幅があり、UWV の公式ページで週ごとの一覧を確かめることはできませんでした。 実際の日付は、勤務先の人事や産業医の案内を優先してください。
実線の円は、UWV または政府系の案内で週の数字を確認できた項目、点線の円は専門誌の整理による項目です。図のとおり、2年間のうち最初の2か月に手順が集中し、その後は定期的な見直しが続きます。
6週目:probleemanalyse(問題分析)
病気が数週間続くと、産業医がprobleemanalyse(プロブレームアナリーゼ)をつくります。P-Direkt は、6週目から行動を取ると案内しています。内容は、病気で何ができなくなっているか、復職の見込みと、その妨げは何か、といった点です。雇用主はこれをもとに、次の計画を立てます。
8週目:plan van aanpak(復職計画)
次に、雇用主と本人が一緒にplan van aanpak(プラン・ファン・アーンパク)をつくります。P-Direkt は、8週目に当たると説明します。民法典7:658a条3項は、計画を本人と合意して作ること、本人の協力を得て定期的に見直し必要なら改めることを定めています。計画には、できる仕事、勤務時間の調整、職場の配慮、他の仕事への異動などが書かれます。
Rijksoverheid によると、雇用主と本人は少なくとも6週間ごとに進み具合を話し合います。 この面談を理由なく断ると、先に挙げた7:629条3項に当たる可能性があります。
42週目:UWV への届け
UWV の案内では、病気が42週に達した時点で、雇用主が UWV に病欠を届けます。本人が手続きをする必要はありません。届けの目的は、UWV が長期の病欠を把握し、のちの WIA の手続きにつなげることです。
1年目の評価
病気が1年に近づくと、eerstejaarsevaluatie(1年目の評価)を行います。P-Direkt は、第1年の終わりの前に評価すると案内しています。専門誌には、46〜52週の間に行うとするものと、52週までとするものがあり、書き方に幅があります。評価では、1年目の経過を振り返り、2年目の計画を決めます。
WIA の申請
UWV からの案内を受け、本人が WIA の申請をします。専門誌の整理では、UWV の案内が88週ごろに届き、申請は93週目までに行うとされています。申請時には、これまでの経過を記録した re-integratieverslag(復職報告)が必要です。日付は個別の通知で決まるため、UWV の案内を最優先にしてください。
| 時期 | 誰が動くか | 内容 |
|---|---|---|
| 当日 | 本人 | 規程どおりに連絡 |
| 6週目 | 産業医 | 問題分析 |
| 8週目 | 雇用主と本人 | 復職計画 |
| 以降6週間ごと | 雇用主と本人 | 進み具合の話し合い |
| 42週目 | 雇用主 | UWV への届け |
| 1年目の終わり前 | 雇用主と本人 | 1年目の評価 |
| 93週目まで | 本人 | WIA の申請 |
7. 有給休暇中に病気になったとき
旅行中や休暇中に病気になる場面は、条文に答えがあります。民法典7:638条8項は、あらかじめ決まっていた休暇の日に病気だった日は、本人が同意しない限り休暇に数えないと定めています。つまり原則として、病気だった日の休暇日数は戻ります。
ただし例外があります。書面の合意があれば、その年に取った休暇日のうち、法定の最低日数(4週間分)を超える法定外の休暇日については、病気の日も休暇として扱うことができます。法定の最低日数を超えているかどうかは、契約書の休暇の欄で確認できます。
| 場面 | 原則 | 例外・注意 |
|---|---|---|
| 休暇日に病気だった | 病気の日は休暇に数えない | 本人が同意した場合 |
| 法定外の休暇日 | 書面の合意があれば休暇に数える | 契約書・CAO を確認 |
| 海外で病気 | 会社の規程に従って連絡し、書類を準備 | 会社が帰国しての診察を求めることがある |
実務で気をつけること
休暇先でも、病欠の連絡は会社の規程どおりに行います。人事向けの解説では、医療機関の証明書の提出を求められることが多いとされています。これは法律ではなく社内の規程によるので、渡航前に規程を確認してください。休暇後に残りの日数が合っているかも、給与明細や人事システムで確かめておくと安心です。
8. 試用期間・有期契約・派遣で病欠したとき
病気になったとき、契約の種類によって結果が変わります。
試用期間中
UWV の案内では、試用期間中は、雇用主も本人も理由なく契約を終えることができ、病気の人についても同じです。試用期間中は、病気の間の解約禁止が及びません。 本人は、その後に Ziektewet の給付を受けられることがあります(UWV の案内)。試用期間の長さの上限は雇用契約の記事の第4章にあります。
有期契約
有期契約の従業員も、病気の間は無期の従業員と同様に給与を受ける権利があります。Rijksoverheid は、有期契約の従業員が病気になった場合、雇用主が給与の70%以上を最長2年払うと案内しています。契約が病気の間に満了すると、解雇禁止が及ばず、契約はそのまま終わります(UWV の案内)。満了後は UWV が給与の支払いを引き継ぎ、復職の支援も UWV が担います。
派遣・フレックス契約
派遣やゼロ時間契約など、雇用主が給与を払わない種類の契約では、UWV の Ziektewet の給付が給与の代わりになります。UWV は、病気のまま契約が終わる場合、雇用主が契約の最終日に UWV へ届けること、UWV が4週間以内に給付の権利を判断することを案内しています。
| 契約の種類 | 病気の間の給与 | 契約の終わり |
|---|---|---|
| 無期 | 雇用主が最長104週 | 原則、雇用主は解約できない |
| 有期 | 雇用主が最長104週 | 満了で終わる。以降は UWV |
| 試用期間中 | 雇用主が支払う | 理由なく解約できる |
| 派遣・フレックス | 多くは UWV の Ziektewet | 契約終了後は UWV が復職を支援 |
9. 病気の間の解雇禁止
民法典7:670条1項は、従業員が病気で働けない間、雇用主は解約を告げられないと定めています。UWV の案内では、この禁止は病気の最初の2年間に及びます。
ただし、次の例外があります。
| 例外 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 試用期間 | 理由なく解約できる | UWV |
| 有期契約の満了 | 禁止が及ばず、契約が終わる | UWV |
| 即時解雇 | 重大な非行による ontslag op staande voet | UWV |
| 2年の経過 | 病気が2年続くと禁止は及ばない。ただし、2年が過ぎて禁止が外れても、長期の就労不能を理由に解雇するには UWV の解雇許可(ontslagvergunning)か本人との合意が要り、移行手当(transitievergoeding)も関わる | 民法典7:670条1項a号 |
| 復職への非協力 | 理由なく義務を怠った場合 | 7:670a条、UWV |
| 解雇申請の後の病気 | UWVへの許可の申請が届いたあとに病気になった場合 | 7:670条1項b号 |
| 本人の書面の同意 | 14日以内に撤回しない場合 | UWV |
表の見方として、病気の間は「解雇されない」のが原則ですが、上の例外に当たる場合は解約されることがあります。 UWV は、雇用主が復職の支援を十分に行わず、給与の支払いが2年を超えて続く場合は、禁止が長く続くことがあるとも案内しています。
解雇を告げられたら
病気の間に解雇や合意解約を持ちかけられた場合は、期限があります。民法典7:686a条の2か月の申立期間などは、解雇の記事にまとめました。個別の事情は、Juridisch Loket(法律相談窓口)など、公的な窓口に相談してください。
10. 2年後:給与の支払いが終わるとき
病気が2年(104週)続くと、雇用主の給与の支払いは原則として終わります。この段階で、UWV が WIA(Wet werk en inkomen naar arbeidsvermogen、ウェット・ウェルク・エン・インコメン・ナール・アルベイツフェルモヘン、就労と所得に関する法) の給付の権利を判断します。
UWV は、2年が過ぎたあと、RIV-toets(re-integratieverslag の審査) で、雇用主と本人が復職のために十分なことをしたかを確認すると案内しています。十分でなければ、雇用主に最長で1年間の追加の給与支払い(loonsanctie)が課されることがあります(Rijksoverheid)。逆に、本人の側に落ち度があれば、給付が減ることもあります。
| 段階 | 内容 | 誰に関わるか |
|---|---|---|
| 104週 | 給与の支払いが終わる | 雇用主 |
| RIV-toets | 復職の努力を UWV が確認 | 雇用主と本人 |
| 努力が不十分 | 雇用主に最長1年の追加支払い | 雇用主 |
| WIA の判定 | 労働能力に応じた給付 | 本人 |
2026年3月27日に政府が発表した法案は、この RIV-toets で産業医の助言を判断の軸にするものです。成立すれば、産業医の意見に従った雇用主の判断が尊重されやすくなるため、病欠中の本人にとっては、産業医との面談が従来以上に重要になる可能性があります。ただし、この点は法案の段階であり、2026年10月31日の時点で確定した制度ではありません。
11. 日本の傷病手当金・診断書と比べて
日本とオランダでは、病欠の仕組みの出発点が違います。優劣ではなく、条件の違いとして並べます。
| 項目 | 日本(健康保険の被保険者) | オランダ(雇用契約) |
|---|---|---|
| 休んだ間の所得 | 傷病手当金(協会けんぽの場合) | 雇用主が給与を払う(7:629条) |
| 率 | 標準報酬日額の3分の2 | 給与の70%以上(CAO で上乗せ多い) |
| 期間 | 支給開始日から通算1年6か月 | 最長104週間(2年) |
| 待機 | 連続3日間の待期のあと4日目から | 契約か CAO で最初の2日まで無給にできる |
| 会社への病名 | 就業規則や診断書の求めによる | 雇用主は聞けない |
| 復職の進め方 | 会社や主治医の運用 | 法律が段取りと責任を決める |
協会けんぽの案内によると、傷病手当金は待期が連続する3日間で、4日目から支給され、支給期間は支給開始日から通算1年6か月です(日額は支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、3分の2を掛けた額)。この数字は被保険者の健康保険の制度で、企業の給与とは別の仕組みです。
診断書をめぐる文化の違い
日本では、数日以上休む場合に診断書を求める会社が多く、就業規則に書かれている例があります(会社ごとの規則による)。オランダは、病気かどうかの確認を雇用主ではなく雇用主が契約した産業医が行います。診断書の代わりに、産業医という第三者を置くことでプライバシーを守る作りだ、と言い換えられます。どちらが良いかではなく、確認する人と、病名が渡る範囲が違うということです。
12. 立場ごとのケース(架空の人物)
次の3人は、実在の人物ではない仮の例です。条文と案内に当てはめた場合の考え方を示します。
無期契約で働く会社員
月曜の朝に高熱が出た会社員は、始業前に病欠規程の窓口へ電話し、「今日から出勤できない」「連絡先は自宅の電話」とだけ伝えます。上司に病名を聞かれたら、産業医に話す旨を答えます。3日で回復すれば、回復の連絡を入れて終わりです。
試用期間中の人
入社から1か月で体調を崩した人は、病欠の連絡をします。試用期間中は、雇用主が理由なく契約を終えることができるため、病気だけを理由にした解約の可能性があります。その場合、UWV の Ziektewet を受けられるか確認します。
長引く病欠
数か月休む人は、産業医の面談、問題分析、復職計画の作成に協力し、6週ごとの話し合いに出ます。42週は雇用主が UWV に届けます。1年目の評価の前に、計画の見直しを人事に相談します。
| 立場 | まずすること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 無期の会社員 | 規程どおりに当日連絡 | 病名は産業医にだけ話す |
| 試用期間中 | 連絡と、給付の確認 | 理由なく解約されうる |
| 長引く病欠 | 産業医の面談、計画への協力 | 欠席・不連絡を続けない |
13. やってはいけないこと
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 連絡しないまま数日休む | 規程違反で、給与の支払いが止まることがある |
| 病名を雇用主に詳しく書く | 雇用主は聞けない情報で、同僚に広まる可能性がある |
| 産業医の面談を理由なく欠席する | 協力を拒んだとみなされうる |
| 復職計画の作成を拒む | 7:629条3項で給与の権利が止まりうる |
| 休暇先の病気を連絡しない | 休暇日数が戻らない可能性がある |
| 解雇や合意書に急いで署名する | 期限と撤回できる期間を確認する必要がある |
14. 明日からのチェックリスト
- 病欠規程(verzuimprotocol)を読み、連絡先、時刻、手段を控えた
- 契約書と CAO で、待機日と休暇日数(法定と法定外)を確認した
- 病名は産業医にだけ伝える、と決めた
- 産業医からの連絡に、早めに返信する習慣をつけた
- 病欠した日付と経過をメモしている(通算104週の確認のため)
- 海外や休暇中の病気に備え、規程の書類の要件を確認した
- 相談先(Juridisch Loket、UWV、勤務先の人事)をメモした
15. まとめ
- 病欠は、会社の規程どおりに当日連絡することから始まり、法律は時刻を決めていません。
- 雇用主に病名・診断・原因を言う必要はなく、聞くことも認められていません。病状は産業医に話します。
- 産業医は、働ける範囲を判断して雇用主に助言する第三者です。
- Wet verbetering poortwachter の目盛りは、6週目の問題分析、8週目の復職計画、42週目のUWVへの届けが基本です。
- 有給中の病気は、原則として休暇日数が戻りますが、法定外の分は書面の合意で例外があります。
- 病気の間の解雇は原則禁止ですが、試用期間と有期契約の満了は例外です。
- 2年後は WIA の判定に進みます。個別の状況は、公的な窓口で確認してください。
参考にした情報源
一次情報(法令・政府・UWV)
- 民法典7:629条(病気中の給与)— wetten.overheid.nl:104週・70%・待機日・協力義務
- 民法典7:638条(休暇)— wetten.overheid.nl:休暇中の病気
- 民法典7:658a条(復職支援)— wetten.overheid.nl:雇用主の義務と復職計画
- 民法典7:670条(病気中の解約禁止)— wetten.overheid.nl:禁止と例外
- Ziek, wat nu — UWV:最初の流れと42週目の届け
- Loondoorbetaling tijdens ziekte — UWV:率・期間・待機日
- Wachtdagen bij ziekte — UWV:待機日
- Werknemer gaat ziek uit dienst — UWV:契約終了時の病気
- Opzegverbod — UWV:解雇禁止の例外
- Regels en verplichtingen bij ziekte — Rijksoverheid:6週間ごとの面談・追加支払いの上限
- Tijdelijke medewerker ziek — Rijksoverheid:有期契約の病気
- RIV-toets の法案 — Rijksoverheid(2026年3月27日):産業医の助言を軸にする法案
- Re-integratie(6週・8週)— P-Direkt:政府職員向けの週の案内
- 傷病手当金 — 協会けんぽ:日本の制度との比較
- Autoriteit Persoonsgegevens:病気の質問に関する指針(原文は自動取得できず未確認)
専門誌・業界媒体(二次情報)
- Wat u wel en niet mag vragen bij ziekmelding — HR Praktijk:AP の指針の整理
- Boete wegens privacyschending zieke werknemers — TaxLive:AP の制裁金の報道
- Zieke werknemer en re-integratie: check het tijdpad — Salaris Vanmorgen:週の目盛りの整理
- Werknemer ziek tijdens vakantie — Ondernemen met personeel:休暇中の病気の実務
- Ziek tijdens proeftijd — HR Praktijk:試用期間中の病気
法令とUWV・Rijksoverheidの案内は2026年10月31日に確認しました。AP の指針の原文と、UWV の公式ページでの週ごとの一覧(6週・8週・1年目・93週)は確認できていません。制度と金額は変わるため、手続きの前に公式サイトで最新の案内を確認し、個別の状況は Juridisch Loket、UWV、勤務先の人事に相談してください。
よくある質問
- オランダで病欠するとき、会社には誰にどう連絡しますか?
- 会社の病欠規程(verzuimprotocol)に従って、始業前に直属の上司か決められた窓口へ電話などで連絡するのが一般的です。法律は連絡の時刻を定めておらず、会社ごとの規則で決まります。連絡先、時刻、手段を入社時に確認しておくと、当日に慌てずに済みます。
- 雇用主は私の病名や診断を聞いてもよいですか?
- いいえ。Autoriteit Persoonsgegevens(AP)の指針を紹介する人事専門誌によると、雇用主が聞いてよいのは連絡先、おおよその期間、仕事の引き継ぎなどにとどまり、病気の種類や原因は含まれません。病状の説明は産業医(bedrijfsarts)に対して行い、雇用主には就労できる範囲の意見だけが伝わります。
- 病欠中の給与はどのくらい出ますか?
- 法律上は最長104週間、給与の70%以上です。最初の52週間は最低賃金を下回りません(民法典7:629条)。多くのCAO(労働協約)では1年目に100%とされています。率の詳しい説明は雇用契約の記事にまとめてあり、この記事は連絡と手続きの順番に絞っています。
- 有給休暇中に病気になったら、休暇日数は戻りますか?
- 原則として戻ります。民法典7:638条8項によると、決まっていた休暇の日に病気だった日は、本人が同意しない限り休暇に数えません。ただし、法定を超える分の休暇日は、書面の合意で数えると決められている場合があります。会社への連絡と、必要な書類を求められるかの確認は早めに行ってください。
- 病気の間に解雇されることはありますか?
- 雇用主は、病気の間は原則として解約を告げられません(民法典7:670条)。ただし、試用期間中の解約、有期契約の満了、重大な非行による即時解雇、病気が2年続いた後などは例外です。2年が過ぎて禁止が外れても、長期の就労不能を理由に解雇するには UWV の解雇許可(ontslagvergunning)か本人との合意が要り、移行手当(transitievergoeding)も関わります。個別の事情で結論が変わるため、不安があれば Juridisch Loket など公的な窓口に相談してください。
- 病欠が長引くとWIAはいつ申請しますか?
- 病気が2年(104週)続くと、雇用主の給与支払いは原則として終わり、労働能力の判定を経てWIA(労働不能給付)に進みます。申請は本人が、UWVからの案内を受けて93週目までに行うとされています。日付は個別の通知で決まるため、UWVの案内を優先してください。