オランダ生活 Life in the Netherlands · DevNJ

オランダで心の不調を相談する道筋|huisarts から専門GGZまで、待ち時間の基準14週と自己負担385ユーロ

生活コラム › オランダ生活

オランダで心の不調を相談する道筋|huisarts から専門GGZまで、待ち時間の基準14週と自己負担385ユーロ

The Hague International Centre(デン・ハーグ国際センター)が2026年10月20日、「Feeling low on energy: what can I do to help myself?」という記事を出しました。秋になって日が短くなり、気力や気分が落ちる人に向けて、人とつながる、体を動かす、日中の光を浴びるといった工夫と、光療法や心理療法という選択肢を紹介しています。記事は同センターの提携先である、在住外国人向けの心療クリニックが提供したものです。

この記事では、元記事が最後に触れている「助けを求める先」の部分を広げます。オランダで心の不調が続いたとき、誰に、どの順番で相談し、どれくらい待ち、いくら払うのかを、制度の側から整理しました。特定のクリニックを勧める記事ではありません。

在住者向けの8媒体(The Hague International Centre、IamExpat、DutchReview、Expatica、DutchNews、NL Times、ACCESS、Xpat.nl)を読み比べ、数値は NZa(オランダ医療庁)、Zorginstituut Nederland(医療保険の給付内容を定める機関)、Rijksoverheid(中央政府)、RIVM(国立公衆衛生環境研究所)、Thuisarts.nl(家庭医の学会がつくる患者向けサイト)、113 Zelfmoordpreventie(自殺予防の相談機関)などの一次情報で確かめました。確認日はいずれも2026年10月26日です。

この記事は医療の助言ではありません。症状の判断や治療の選び方は、huisarts(フイスアルツ、家庭医)などの医療者に相談してください。

この記事が主に根拠にした情報

  • The Hague International Centre「Feeling low on energy: what can I do to help myself?」(2026年10月20日)と、同センターの「Mental health care」のページ
  • Zorginstituut Nederland「Geneeskundige ggz (Zvw)」:基礎保険で払われる心の医療と対象外の範囲
  • NZa の待ち時間に関する発表(2025年2月11日、2025年7月22日)と、NL Times の報道(2026年2月16日)
  • Rijksoverheid の eigen risico のページと、2027年予算の発表(2026年9月15日)
  • Thuisarts.nl の気分の落ち込みと冬季うつのページ、113 Zelfmoordpreventie の英語ページ
この記事で分かること 答えの要点
最初の相談先 登録している huisarts。診療所の POH-GGZ
心理士に直接行けるか 行けるが、紹介状がないと基礎保険の対象外
どれくらい待つか 上限は合計14週。2025年の平均は24週と報道
いくらかかるか 家庭医と POH-GGZ は無料。治療は自己負担385ユーロまで
保険が払わないもの 燃え尽き、過労、適応障害、関係の悩み
急ぐとき 113(無料・24時間)、112、huisartsenpost

1. いま何が起きているか:秋の記事と、長い待機リスト

起点の記事は、季節のせいか、ストレスになる出来事のせいかを一度立ち止まって考えること、人と過ごすこと、体を動かすこと、日中の光を使うことを勧め、昼にハーグの森(Haagse Bos)を歩くといった例を挙げています。

そのうえで、明るい光を使う光療法(Bright Light Therapy)と心理療法を紹介し、助けを求める先として保険会社、家庭医、クリニックを挙げています。記事の末尾には、医療の助言ではないという注意書きがあります。

待機リストの数字

元記事は触れていませんが、オランダで心の医療を受けようとすると、まず待ち時間の問題に当たります。NL Times は2026年2月16日、消費者番組 Radar が患者団体 MIND と一緒に NZa のデータを分析した結果として、2025年10月時点で101,134人が心の医療の治療を待っていたと伝えました。そのうち65,091人は、上限とされる14週を超えて待っていたといいます。

同じ報道によると、2025年に治療が始まるまでの平均は24週で、前年より3週長くなりました。インテーク(最初の評価面談)までの平均は14週で、合意された上限の4週を大きく超えています。パーソナリティ障害の治療は平均32週でした。

インテークまでの基準は4週、2025年の平均は14週。治療開始までの基準は合計14週、2025年の平均は24週。パーソナリティ障害の治療開始までの平均は32週。 インテーク基準 4週 インテーク実際 14週 治療開始基準 14週 治療開始実際 24週 人格障害 32週 0週
図1:心の医療の待ち時間の基準(Treeknorm)と2025年の平均(出典:NZa、NL Times(Radar と MIND の分析)、2026年10月26日確認)

NZa 自身も2025年7月22日の発表で、待ち時間は高止まりし、すべての診断群で上限を超えていると書いています。2025年2月の発表では、上限内にインテークを受けられた人は33%、治療を始められた人は61%でした。

制度を訴える動きと、取り残される人

2026年4月には財団 Recht op GGZ が待機リストを理由に国を訴える手続きを進めていると NL Times が報じ、8月には重い精神疾患のある成人のうち推計6万2,500人が十分な治療を受けていないという業界団体の報告を DutchNews が伝えました。待ち時間が長いのは主に紹介された先の治療で、家庭医の診療所の中では早く支援を受けられることも多いです。

2. 全体像:オランダの心の医療は4つの段でできている

オランダの心の医療は GGZ(geestelijke gezondheidszorg、ヘーステレイケ・ヘゾントハイツゾルフ、精神保健医療)と呼ばれます。政府の英語ページ government.nl は、軽い不調はまずオンラインの支援、自分で解決できないときや何が起きているのか分からないときは家庭医か産業医へ、と案内しています。

全体を段に分けると、次の表のようになります。

段 誰が 主な対象 紹介状 自己負担
0. セルフケア・オンライン 自分、Trimbos などの教材 軽い不調 不要 なし
1. huisarts 家庭医 入口、見立て、薬 不要 なし
1. POH-GGZ 診療所の心の相談担当 軽い〜中くらい 不要 なし
2. basis-GGZ 心理士など 軽い〜中くらいの障害 必要 eigen risico
3. 専門GGZ 精神科医、臨床心理士 重い・複雑な障害 必要 eigen risico

表から分かるのは、紹介状が要るのは2段目からで、そこから自己負担も始まるということです。逆に言えば、最初の相談はお金の心配をせずにできます。

1は huisarts で、無料の入口。2は診療所の POH-GGZ で、無料の面談。3は紹介状が必要な basis-GGZ で、軽い〜中くらいの障害を扱う。4は紹介状が必要な専門GGZで、重い・複雑な障害を扱う。3と4は eigen risico の対象。 1.huisarts 入口・無料 2.POH-GGZ 面談・無料 3.basis 軽い〜中くらい 4.専門GGZ 重い・複雑 紹介状+eigen risico
図2:心の医療の4つの段(出典:Zorginstituut Nederland、government.nl、2026年10月26日確認)

18歳未満は、健康保険ではなく Jeugdwet(青少年法)で自治体が担います。デン・ハーグなら CJG(子どもと家族のセンター)が窓口だと The Hague International Centre は案内しています。この記事は大人の流れを扱います。

3. 入口は huisarts と POH-GGZ

オランダに住む人は、近所の huisarts の診療所に登録するのが前提です。登録がまだなら、心の不調が出る前に済ませておくのがいちばんの備えになります。家庭医は gatekeeper(門番)の役目を持ち、専門の医療に進むかどうかを決めます。

いつ家庭医に相談するか

Thuisarts.nl の気分の落ち込みのページは、沈んだ気持ちはたいてい数週間から数か月で軽くなるとしたうえで、次のような場合に家庭医への相談を勧めています。

状態 Thuisarts.nl の目安
数か月たっても沈んだまま、良くならない 予約をとって相談
興味が持てない、自分に価値がないと感じる、眠れないが重なる 予約をとって相談(うつの兆しの可能性)
薬の副作用で気分が沈んでいるかもしれない 予約をとって相談
喪失の悲しみに向き合う助けがほしい 早めに相談してよい
強い落ち込み・不安・混乱、自殺を考えて計画している すぐ電話(家庭医か huisartsenpost)、113 も可

表のとおり、「相談するほどではない」と自分で線を引く必要はありません。生活が回らなくなってから行くより、迷った段階で予約をとるほうが選択肢は多く残ります。

POH-GGZ とは

POH-GGZ(praktijkondersteuner huisarts GGZ、プラクタイクオンダーステュナー、家庭医診療所の心の相談担当)は、家庭医の診療所で働く専門職です。心理士、ソーシャルワーカー、精神科看護師などの資格を持つ人が多く、ストレス、軽いうつ、不安、燃え尽きといった相談に数回の面談で対応します。Expatica の解説も、POH-GGZ は軽い問題を扱い、範囲を超えるときに紹介への第一歩になると説明しています。

POH-GGZ がいない小さな診療所もあります。その場合は家庭医が直接話を聞くか、近くの診療所と共同で POH-GGZ を置いていることがあります。受付で「praktijkondersteuner GGZ はいますか」と聞けば分かります。

予約のときに伝えること

家庭医の予約は電話が基本で、受付のアシスタントが用件を聞きます。心の相談だと伝えるのに抵抗がある人も多いですが、伝えると長めの枠をとってもらえることがあります。

伝えること 例
用件 気分の落ち込み・不安について相談したい
期間 9月から2か月ほど続いている
生活への影響 眠れない、仕事に集中できない
希望 POH-GGZ と話したい、英語で話したい
急ぎかどうか 死にたい気持ちがあるなら必ず伝える

verkennend gesprek(探索の面談)

2025年から、紹介の前に GGZ の専門職と家庭医が相談者と一緒に状況を整理する verkennend gesprek(フェルケネント・ヘスプレック、探索の面談)が基礎保険で払われるようになりました。Zorginstituut のページによると、この面談に eigen risico はかかりません。紹介先が合わずに待ち直す、という無駄を減らすための仕組みです。地域によって運用が違うので、家庭医に使えるかどうかを聞いてください。

4. 紹介状とその先:basis-GGZ と専門GGZ

家庭医や POH-GGZ が「診療所の中では足りない」と判断すると、verwijzing(フェルヴァイジング、紹介状)を書きます。Zorginstituut は、基礎保険で心の治療が払われる条件として、18歳以上でDSM-5(精神疾患の国際的な分類)の障害があること、治療が科学と実務の水準を満たすこと、そして紹介があることを挙げています。家庭医の紹介がない治療は基礎保険の対象外です。

紹介状は家庭医のほか、bedrijfsarts(産業医)や小児科医も書けると government.nl は説明しています。

basis-GGZ と専門GGZの違い

項目 basis-GGZ(基礎) 専門GGZ(gespecialiseerde GGZ)
対象 軽い〜中くらいの障害 重い・複雑な障害
例 軽いうつ、不安、パニック 重いうつ、PTSD、双極性障害、ADHD
担い手 健康心理士、心理療法士 精神科医、臨床心理士、施設
期間の目安 1年未満が多い 1年を超えることも
薬の処方 家庭医と連携 精神科医が処方

契約のある治療者と、ない治療者

紹介状をもらったあと、どこで治療を受けるかを選ぶ段階があります。ここで大事なのが、保険会社と契約している(gecontracteerd)かどうかです。

保険の種類 契約ありの治療者 契約なしの治療者
natura(現物給付型) 保険会社が直接払う 一部しか払われないことがある
restitutie(償還型) 保険会社が直接払う 市場相場の範囲でおおむね払われる
combinatie(組み合わせ型) 保険会社が直接払う 約款しだい
紹介状なし 払われない 払われない

表のとおり、安い natura の保険で契約のない治療者に行くと、差額が自分の負担になることがあります。何割払われるかは保険会社と約款で違うので、予約の前に保険会社に「この治療者は契約していますか」と聞いてください。IamExpat も、民間の心理士には保険会社と契約していない人が多いと注意しています。

料金の仕組みは2022年に変わった

古い記事を読むときは注意が必要です。Xpat.nl の解説は、治療が終わるまで費用が確定しない DBC という仕組みで説明していますが、2022年1月1日から zorgprestatiemodel(ゾルフプレスタシーモデル、診療行為ごとの報酬体系)に変わりました。NZa の資料によると、basis-GGZ と専門GGZ の両方が対象です。

5. 待機期間と NZa の待ち時間基準

心の医療で待つ時間には、業界と保険会社が合意した上限があります。Treeknorm(トレークノルム、待ち時間の基準)と呼ばれ、NZa が守られているかを監督しています。

区間 Treeknorm(上限) 2025年の平均(報道)
申し込み → インテーク 4週 14週
インテーク → 治療開始 10週 ―
申し込み → 治療開始(合計) 14週 24週
危機のとき 24時間以内 ―

平均は NL Times が伝えた Radar の分析で、NZa の正式な統計表ではありません。NZa は2026年から待ち時間を請求データから出す方式に移っていて、ダッシュボードで地域と診断群ごとに見られるようにすると説明しています。

媒体によって数字が違う

在住者向けの媒体を読み比べると、待ち時間の書き方がばらばらです。どれが正しいというより、何を測っているかが違います。

媒体 書かれている待ち時間 性質
IamExpat(2026年6月更新) 紹介後6週〜1年 幅で示した目安
Expatica(2025年8月更新) 地域によって1年を超える 地域差の強調
DutchReview(2025年4月更新) 数字なし(読者の声で6か月以上) 体験談
NL Times(2026年2月) 平均24週、101,134人待ち NZa データの分析
The Hague International Centre 数字なし「待機リストが長い」 窓口の案内

表から言えるのは、平均は半年前後、長い人は1年という幅で見ておくのが現実的だということです。診断群と地域で差が大きく、パーソナリティ障害や自閉スペクトラムの評価は長くなりがちです。

待つことになったら:wachttijdbemiddeling

保険会社には、基礎保険の医療を妥当な時間と距離で受けられるようにする義務(zorgplicht)があります。NZa は2025年2月の発表で、長く待つ場合は保険会社に連絡して仲介を頼めると案内しています。これが wachttijdbemiddeling(ワフトタイトベミデリング、待機の仲介)です。

  1. 紹介状と、治療者から言われた待ち時間を手元に用意する
  2. 保険会社のサイトで「wachtlijstbemiddeling」や「zorgbemiddeling」の窓口を探し、電話かフォームで連絡する
  3. 「Treeknorm を超えている」と伝え、空きのある契約先を探してもらう
  4. 提案された先が遠すぎる、言語が合わないなど条件があれば、その場で伝える

6. お金:基礎保険の補償と eigen risico

オランダの基礎保険(basisverzekering)は、条件を満たす心の医療を払います。ただし毎年、eigen risico(エイヘン・リシコ、法定の年間自己負担)を先に自分で払う仕組みです。Rijksoverheid によると、2026年の額は385ユーロです。

受けるもの 基礎保険 eigen risico
huisarts の診察・電話相談 払われる かからない
POH-GGZ の面談 払われる かからない
verkennend gesprek 払われる かからない
basis-GGZ・専門GGZ の治療 払われる(紹介状あり) かかる
処方薬(GVS のリスト内) 払われる かかる
huisartsenpost 払われる かからない

家庭医と POH-GGZ が自己負担の対象外であることは、Zorginstituut のページと Rijksoverheid のページの両方で確かめました。一方、紹介されて受ける治療は、その年の最初の385ユーロまでを自分で払います。

紹介されて受ける心の治療の費用は、その年の最初の385ユーロまで自分で払い、385ユーロを超えた分は基礎保険が払う。huisarts と POH-GGZ はこの計算に入らない。2026年の額。 自分で払う 基礎保険が払う €385(2026年) huisarts・POH-GGZは対象外
図3:紹介された心の治療にかかる eigen risico の境目(出典:Rijksoverheid、Zorginstituut Nederland、2026年10月26日確認)

任意で自己負担を上乗せ(vrijwillig eigen risico)して保険料を下げている人は、上限がさらに高くなります。心の治療を受ける見込みがあるなら、年末の保険の見直しで上乗せを外すかどうかを考える価値があります。保険の見直しの考え方は2027年の健康保険の乗り換えの記事にまとめています。

2027年は400ユーロの方針

政府は2026年9月15日の予算発表で、2027年の eigen risico を物価に合わせて385ユーロから400ユーロに上げる方針を示しました。以前の政権は2027年から165ユーロに下げる法案を出していましたが、新しい方針はそれを置き換えるものです。夏には「385ユーロのまま据え置き」とする報道もあり、情報が錯綜しました。決定は議会の審議を経るため、年末に保険会社から届く案内で最終額を確かめてください。

基礎保険が払わないもの

ここがいちばん誤解されやすいところです。Zorginstituut は、精神疾患にあたらない問題を基礎保険の対象外としています。

対象外の例 補足
燃え尽き(burn-out) DSM-5 の障害ではないため
過労(overspannenheid) 同上
仕事の悩み、人間関係の悩み 治療ではなく相談の領域
離婚・死別・失業への適応の難しさ 適応障害(aanpassingsstoornis)は除外
水準を満たさない治療 科学と実務の水準で判断

入院が長くなる場合

精神科への入院は、最初の3年を健康保険(Zvw)が払い、それ以降は長期介護法(Wlz)に移ります。IamExpat と government.nl は「最初の3年は保険」、Expatica は「最初の3年は Wlz で無料」と書いていて、制度名の書き方が媒体で食い違っています。

自費のプライベート診療

待ち時間を避けて、紹介状なしで民間の心理士に自費でかかる人もいます。料金に公的な相場はありません。自費にするなら、治療者が BIG 登録(オランダの医療職の公的登録)や NIP(オランダ心理士協会)の登録をしているかを確かめてください。資格の名前が似ていても、保険の扱いが違うことがあります。

7. 外国語で相談できる窓口

オランダ語が十分でないと、相談そのもののハードルが上がります。英語で受けられる窓口は少なくありませんが、治療を英語や日本語で受けられる専門家は限られ、そこにも待ち時間があります。

窓口 内容 言語 費用
113 Zelfmoordpreventie 自殺予防の電話・チャット、24時間 オランダ語、英語ページあり 無料
ACCESS 英語で話せる専門家の紹介 英語ほか 紹介は無料
Trimbos Instituut セルフヘルプの教材、依存の情報 一部英語 無料
保険会社のオンライン支援 軽い不調向けの e-health 会社による 補償内容による
デン・ハーグの AMW 生活の悩みの相談、紹介状不要 オランダ語中心 無料
The Hague International Centre 在住外国人向けの窓口案内 英語 無料

ACCESS は1986年設立の非営利団体で、英語で話せる有資格の専門家を平日に紹介しています。英語の専門家が見つからなければ、待たずにオランダ語の専門家から始めることも勧めています。

デン・ハーグの AMW(一般ソーシャルワーク)は、孤独、ストレス、家計の困りごとを紹介状なしで相談できる窓口です。The Hague International Centre のページには在住外国人向けの提携先のリストもありますが、保険会社との契約と待ち時間は自分で確かめてください。

日本語で相談する手段

日本語で話せる窓口は、オランダの中にはほとんどありません。日本側の窓口を、海外から使えるかどうかで分けておきます。

窓口 内容 海外から
外務省と連携する NPO(あなたのいばしょ など) 孤独・孤立の相談、チャット・SNS 24時間、海外からも可
こころの耳(厚生労働省の委託) 働く人の心の相談、電話・SNS・メール 電話はフリーダイヤルで海外からつながりにくい
勤務先の日本本社の EAP 日本語のカウンセリング 会社の契約しだい
在オランダ日本国大使館 医療情報の案内、緊急時の相談 可

外務省は国内の NPO と連携して、在外邦人の孤独・孤立の相談窓口を設けています。外務省の海外安全ホームページによると、連携団体の一つ「あなたのいばしょ」は24時間365日、無料・匿名のチャットで、海外からの相談にも応じる体制をとっています。

厚生労働省の「こころの耳」は働く人向けの相談窓口で、電話・SNS・メールで受け付けています。電話はフリーダイヤルなので、海外から使えるかは公式サイトで確かめてください。

8. 職場の支え:bedrijfsarts と EAP

勤め人なら、職場の側にも相談先があります。オランダで働く人の不調は珍しくなく、RIVM の監視ページによると、CBS(中央統計局)と TNO(応用科学研究機構)の調査では、2025年に雇用されている人の20.7%が燃え尽きの症状を訴えていました。

bedrijfsarts(産業医)

Arboportaal(政府の労働安全衛生の情報サイト)によると、雇用主は産業医か arbodienst(労働衛生機関)と契約し、働く人が無料で産業医にかかれるようにしなければなりません。病欠していなくても相談でき、産業医は雇用主から独立して助言し、医療の守秘義務を負います。

公共放送 NOS は、通常の医療の待ち時間が長いため、産業医から職場の心理士に紹介される働き手が増えていると報じています。燃え尽きのように基礎保険が払わない相談も、職場の側なら扱えることがあります。

EAP(従業員支援プログラム)

EAP(Employee Assistance Program)は、雇用主が外部と契約し、従業員が匿名で短期のカウンセリングを受けられる仕組みです。駐在員なら日本本社の EAP が日本語で使える場合があります。法律上の義務ではないので、人事に確かめてください。

相談先 費用 紹介状 向いている相談
huisarts・POH-GGZ 無料 不要 入口。医療の判断が要るもの
bedrijfsarts 無料(雇用主負担) 不要 仕事と健康、病欠、復職
EAP 無料(雇用主負担) 不要 短期の相談、仕事の悩み
紹介先の GGZ eigen risico 必要 診断のある障害の治療

9. 危機のとき:113・112・huisartsenpost

急ぐときの連絡先は、状態によって分かれます。迷ったら電話して判断してもらえばよく、「こんなことで電話していいのか」と考える必要はありません。

命の危険があるときは112。死にたい気持ちがあるときは113に電話かチャットで、24時間無料。夜間や週末に急ぐときは地域の huisartsenpost。急がないときは平日に huisarts を予約する。 命の危険がある 112 死にたい気持ちがある 113(24時間) 夜間・週末に急ぐ huisartsenpost 急がない huisarts を予約
図4:状態ごとの連絡先(出典:113 Zelfmoordpreventie、Rijksoverheid、Thuisarts.nl、2026年10月26日確認)

家庭医は必要なら24時間動く地域の危機介入チームにつなぎます。夜間や週末は huisartsenpost(フイスアルツェンポスト、夜間・休日の家庭医診療所)に電話します。Rijksoverheid は、命に関わる場合を除き、病院の救急外来に行く前に huisartsenpost に連絡するよう案内しています。

連絡先 使う場面 費用
112 命の危険、自分や他人を傷つけそう 通話無料
113 / 113.nl のチャット 死にたい気持ち、本人も周りの人も 無料
huisartsenpost 夜間・週末に急いで医師の判断が要る eigen risico なし
huisarts 平日の日中、急がない相談 eigen risico なし
救急外来(SEH) 112 か huisartsenpost の判断で eigen risico あり

113 の番号は媒体で書き方が違う

113 の電話番号は、媒体ごとに書き方が違いました。113 の英語ページは、113 に無料で電話でき、24時間対応で、チャットも昼夜使えると案内しています。オランダ国内からの通話に限られ、国外にいるときはチャットを使うよう書かれています。

IamExpat は「113 は通常料金、0800-0113 は無料」、DutchReview と Expatica は 0800-0113、The Hague International Centre のページは 0900-0113 と書いています。0900 で始まる番号は通常は有料の番号なので、113.nl に書かれている 113(無料)か、0800-0113 を使うのが確実です。本人が電話できないときは、家族や友人が113に相談することもできます。

10. 季節の落ち込みと光療法

元記事は、秋冬の落ち込みに光療法が役立つ可能性に触れています。日の出・日の入りの時刻やビタミンDの公的な推奨は、オランダの冬時間と暗い冬の過ごし方の記事で詳しく書いたので、ここでは相談の流れに関わる部分だけを書きます。

Thuisarts.nl の冬季うつのページは、光療法を主な対処法として挙げ、家庭医が光療法を受ける手助けをできると説明しています。

項目 Thuisarts.nl の説明
光の強さ 1万ルクスの白色光、紫外線なし
使い方 朝に約30分、約35cm離れて、目を開けて光を直接見ない
効果の目安 多くの人は1週間ほどで良くなる
副作用 頭痛、吐き気、目の疲れ(たいてい軽い)
先に相談が要る人 目の病気、光に過敏になる薬、日光アレルギーなど

GGZ の診療基準も季節性のうつに光療法を位置づけていますが、双極性障害のある人が自己判断で始めることは勧めていません。不調が続くなら、ランプを買う前に家庭医に相談するのが順番です。

11. 日本と比べてどうか

日本から来た人がいちばん戸惑うのは、専門の医療に自分で直接行けないことです。日本では保険証があれば、精神科や心療内科のクリニックに自分で予約し、保険診療を受けられます。

項目 オランダ 日本
入口 登録した huisarts 自分で精神科・心療内科を選ぶ
専門医への受診 紹介状が必要 クリニックは紹介状なしで可
窓口の負担 家庭医は無料、治療は年385ユーロまで 原則3割
継続的な通院の軽減 年間の上限で頭打ち 自立支援医療で原則1割
心理士のカウンセリング 紹介状と診断があれば基礎保険 自費のことが多い
待ち時間 上限14週、実態は半年前後 初診の予約待ちがあるクリニックも

日本の精神科の通院は、自立支援医療(精神通院医療)を使うと窓口負担が原則1割に下がり、所得に応じて月の上限もあります。オランダは年間の自己負担に上限がある仕組みなので、通院が長く続くほど「年385ユーロで頭打ち」という形になります。どちらが安いかは、治療の頻度と期間で変わります。

一時帰国で受診する場合

住民票を抜いて国民健康保険を外れていると、日本の医療は全額自費です。日本で受診しても、オランダの治療につなぐには家庭医の紹介が要ることは変わりません。

12. 日本の家族への伝え方

心の不調を日本の家族に伝えるかどうか、どう伝えるかは、多くの人が迷うところです。正解はありませんが、時差と距離があるぶん、伝え方を少し工夫すると心配のされ方が変わります。

伝えたいこと 伝え方の例
今の状態 「最近疲れやすく、家庭医に相談している」
支援につながっていること 「診療所に相談の担当がいて、定期的に話している」
待ち時間 「専門の治療は順番待ちで、その間は家庭医が見てくれる」
してほしいこと 「週に1回、日曜の朝(日本の夕方)に電話してほしい」
してほしくないこと 「すぐ帰ってこいとは言わないでほしい」

13. 手順:今週やること

気になる状態が続いているなら、次の順で動くと迷いが少なくなります。

  1. huisarts に登録しているか確かめる:保険証と BSN(市民サービス番号)を用意し、未登録なら近所の診療所に問い合わせる
  2. 家庭医に予約の電話をする:用件・期間・生活への影響・言語の希望を短く伝える。POH-GGZ がいるか聞く
  3. 保険の約款を見る:natura か restitutie か、任意の自己負担を上乗せしていないか、補足保険に心の相談の枠があるか
  4. 職場の窓口を確かめる:産業医の連絡先と、EAP があるかを人事か社内ポータルで調べる
  5. 紹介状をもらったら保険会社に連絡する:契約のある治療者を確かめ、待ち時間が長ければ wachttijdbemiddeling を頼む
  6. 待つ間の支えを決める:POH-GGZ の面談を続ける、オンラインの支援を使う、日本語で話せる相手を決めておく
  7. 急ぐときの番号を登録する:112、113、地域の huisartsenpost の番号を携帯電話に入れておく

14. ケースで考える(架空の例)

ここに挙げるのは架空の人物です。立場によって、使える窓口と最初の一歩が変わります。

人物(架空) 状況 最初の一歩
Aさん(30代・会社員・単身) 来て1年目。11月から眠れず、仕事に集中できない 家庭医に予約。産業医と EAP も確認
Bさん(40代・駐在員の配偶者) 日中ひとりで、言葉の壁から外出が減った 家庭医の POH-GGZ。日本語のチャット窓口も併用
Dさん(50代・自営業) 仕事の重圧で燃え尽きた感覚。産業医がいない 家庭医と POH-GGZ。治療は保険外の可能性を確認

15. やってはいけないこと

やってはいけないこと 理由
家庭医に登録しないまま不調を抱える 紹介状も huisartsenpost も使いにくくなる
紹介状なしで自費の治療を長く続ける 後から保険の対象にできない
契約の有無を確かめずに予約する 差額が自分の負担になることがある
光療法のランプだけで様子を見続ける 続く不調は家庭医の見立てが先
薬を自己判断でやめる・日本から送ってもらう 体調の急変や持ち込みの規制がある
危機のときに「迷惑だから」と連絡を控える 113 と 112 はそのためにある

16. チェックリスト

  • huisarts に登録していて、診療所の電話番号を知っている
  • 診療所に POH-GGZ がいるかを知っている
  • 自分の保険が natura か restitutie かを知っている
  • 補足保険に心の相談の枠があるかを確かめた
  • 産業医の連絡先と、EAP の有無を確かめた
  • 112、113、地域の huisartsenpost の番号を携帯電話に入れた
  • 日本語で話せる相手か窓口を一つ決めた

17. まとめ

  • オランダの心の医療は、登録している huisarts が入口です。診療所の POH-GGZ との面談は無料で、eigen risico もかかりません
  • 心理士や精神科の治療を基礎保険で受けるには、紹介状と DSM-5 の障害が条件です。燃え尽き、過労、適応障害は対象外です
  • 待ち時間の上限は合計14週ですが、2025年の平均は24週と報じられています。長いときは保険会社に待機の仲介を頼めます
  • 紹介された治療は、その年の最初の385ユーロ(2026年)を自分で払います。2027年は400ユーロに上がる方針です
  • 英語なら ACCESS や 113、日本語なら外務省と連携する NPO のチャットがあります。勤め人は産業医と EAP も使えます
  • 急ぐときは 112、113、huisartsenpost。迷ったら電話して判断してもらって構いません
  • 日本の家族には「家庭医が入口で、専門の医療は紹介制」と一言添えると、状況が伝わりやすくなります

参考にした情報源

起点の記事と在住者向け媒体

一次情報

いずれも2026年10月26日に確認したものです。制度と金額は変わるため、受診や申し込みの前に公式サイトと保険会社で最新の情報を確認してください。この記事は医療の助言ではありません。


元記事はこちら

Feeling low on energy: what can I do to help myself? — The Hague International Centre

よくある質問

オランダで気分の落ち込みが続くとき、最初にどこへ相談すればよいですか?
登録している huisarts(家庭医)です。心の不調も体の不調と同じく家庭医が入口で、診療所に POH-GGZ(心の相談を担当する職員)がいれば、そこで数回の面談を受けられます。死にたい気持ちがあるときは、24時間つながる 113 に電話かチャットで相談できます。命の危険があるときは 112 です。
心理士や精神科医に直接予約できますか?
予約自体はできますが、基礎保険で払ってもらうには家庭医などの紹介状(verwijzing)が必要です。紹介状なしで受けた治療は基礎保険の対象外で、全額自費になります。日本のように精神科や心療内科のクリニックに自分で予約して保険診療を受ける流れとは違います。
オランダの心の医療(GGZ)はどれくらい待ちますか?
業界が合意した上限(Treeknorm)は、申し込みからインテークまで4週、インテークから治療開始まで10週、合計14週です。実態は上限を超えることが多く、NZa のデータを分析した報道では、2025年の治療開始までの平均は24週、インテークまでの平均は14週でした。待ち時間が長いときは保険会社に wachttijdbemiddeling(待機の仲介)を頼めます。
心の医療に自己負担はかかりますか?
家庭医と POH-GGZ の面談は eigen risico(年間の法定自己負担、2026年は385ユーロ)の対象外です。紹介された先の basis-GGZ や専門GGZ の治療は対象になり、その年の最初の385ユーロまでは自分で払います。政府は2027年に400ユーロへ上げる方針です。保険会社と契約のない治療者だと、さらに差額が出ることがあります。
燃え尽き(burn-out)の治療は保険で受けられますか?
Zorginstituut Nederland(医療保険の内容を定める機関)は、燃え尽き、過労(overspannenheid)、仕事や人間関係の悩み、適応障害(aanpassingsstoornis)を基礎保険の対象外としています。家庭医と POH-GGZ には相談でき、勤め人なら bedrijfsarts(産業医)や会社の EAP(従業員支援プログラム)も使えます。
英語や日本語で相談できるところはありますか?
113 は英語のページとチャットがあります。ACCESS(在住外国人向けの非営利団体)は英語で話せる専門家を無料で紹介しています。日本語では、外務省と連携する NPO「あなたのいばしょ」が海外からも24時間チャットで相談を受けています。治療を日本語で受けられる専門家は限られるため、保険会社や家庭医に相談してください。

出典: The Hague International Centre

目次