2026年10月12日、NL Times は「オランダの住民の4割超が、過去1年に戦争などの災害に備える行動をとった」と報じました。NCTV(Nationaal Coördinator Terrorismebestrijding en Veiligheid、国家テロ対策・安全保障調整官)の依頼で調査会社 Ipsos I&O が行った定期調査の結果で、最も多かった行動は飲料水や現金、電池などをそろえた非常用の備え(noodpakket、ノートパッケット)の準備でした。一方で、半数を超える人は「何もしていない」と答えています。
オランダ政府は2025年秋から、Denk vooruit(デンク・フォーライト、「先のことを考えよう」)というキャンペーンで、停電・断水・インターネットの停止が起きても、最初の72時間を自分たちで乗り切れるようにしておくことを呼びかけています。2025年11月から2026年1月にかけては、全世帯に33ページの冊子が届きました。日本の防災に慣れた人には「地震への備え」と似て見えますが、オランダで想定されているのは地震よりも水害・停電・サイバー障害です。
この記事では、NL Times の記事を起点に、NCTV、Rijksoverheid(オランダ中央政府)、Denk vooruit、Rijkswaterstaat(レイクスワーテルスタート、公共事業・水管理庁)、PBL(環境評価庁)、EU の一次情報までたどって、オランダで暮らす日本人が何をどこまで備えればよいかを整理します。戦争の可能性を論じる記事ではなく、政府の公式な推奨を確かめる記事です。執筆時点は2026年10月27日です。
この記事が主に根拠にした情報
- NL Times「More than 4 in 10 Dutch took steps to prepare for disasters, such as war, last year」(2026年10月12日)
- NCTV「Nieuwe Denk vooruit campagne om extra aandacht te vragen om voor te bereiden op noodsituatie」(2026年10月12日)
- Rijksoverheid「Wat zit er in een noodpakket?」と Denk vooruit の noodpakket・リスク別ページ
- PBL による国土の浸水リスクの数値と、overstroomik.nl
- NOS・DutchReview・IamExpat のサイレン(WAS)の存廃をめぐる報道(2026年5〜6月)
| この記事で分かること | 答えの要点 |
|---|---|
| 調査で何が分かったか | 4割超が備えた。半数超はまだ何もしていない(第1章) |
| 政府の推奨品 | 水3L×人数×3日、食品、ラジオ、現金など(第3章) |
| 警報はどう届くか | NL-Alert、サイレン、地域ラジオ(第4章) |
| オランダ特有のリスク | 水害・停電・断水・サイバー・感染症(第5章) |
| 賃貸・家族の備え | 置き場所、ペット、子ども、薬(第6〜7章) |
| 日本人ならではの準備 | 在留届・たびレジ、日本の家族との約束(第9〜10章) |
1. いま何が起きているか(2026年10月の調査と新しいキャンペーン)
まず、起点の記事が伝えた調査の中身と、その前後の数字を並べます。調査は1回きりのものではなく、NCTV が年に2回行っている定点観測です。数字の推移を見ると、この2年で「備えた」と答える人がはっきり増えていることが分かります。
「4割超が備えた」の中身
NL Times によると、調査は NCTV の依頼で Ipsos I&O が行い、約1,500人が答えました。テロ、戦争、サイバー攻撃、自然災害などのリスクに対して、過去1年に何らかの行動をとった人は4割を超え、2022年以降で最も高い割合でした(NL Times、2026年10月12日)。
最も多かった行動は、飲料水・現金・電池などをそろえた非常用の備えです。ほかに、ウイルス対策ソフトを入れる、強いパスワードに変えるといった「デジタルの備え」、周りの人と話し合う、非常時の情報を調べる、といった行動が挙がっています。何もしていない人の理由は「必要ない・役に立たないと思う」「リスクは小さいと思う」「時間がない」でした。
NCTV 自身の発表では、同じ日に公表した Risico- en Crisisbarometer(リスィコ・エン・クリスィスバロメーター、リスクと危機の意識調査)の結果として、「ruim vier op de tien(4割強)」が電気・水・インターネットのない72時間に備える行動をとり、「ruim de helft(半数強)」が電気や水、ネットといった生活に欠かせない仕組みの停止を心配している、と書いています(NCTV、2026年10月12日)。
調査の規模は、報道と公式の説明で食い違う
調査の人数は、資料によって書き方が違います。NL Times は約1,500人としていますが、NCTV の調査の説明ページは「基本調査では15歳以上の800人にオンラインで聞く」としています(NCTV)。さらに2025年秋の回は、18歳以上の5,873人が答えたと NCTV は発表していました。
回ごとに規模が違う可能性があり、2026年10月の回の人数は公式の報告書で確かめられませんでした。この記事では「4割超」という割合だけを使い、人数は「約1,500人と報じられています」とするにとどめます。
「備えた人」の割合の推移
NCTV の同じ調査で、「リスクや脅威に備えて行動した」と答えた人の割合は次のように動いてきました。2024年春に一度大きく下がり、そこから2年かけて上がっています。
| 調査の時期 | 備えた人の割合 | 出典 |
|---|---|---|
| 2022年春 | 約3人に1人 | Binnenlands Bestuur(NCTV調査の報道) |
| 2024年春 | 約7人に1人 | 同上 |
| 2024年12月 | 約4人に1人 | 同上(回答969人) |
| 2025年春 | 29% | NCTV |
| 2025年秋 | 35% | NCTV(回答5,873人) |
| 2026年秋 | 4割強 | NCTV・NL Times |
2022年春の高さは、ロシアのウクライナ侵攻の直後だったことと重なります。2024年以降の伸びは、政府の呼びかけと冊子の配布が始まった時期と重なっています(Binnenlands Bestuur、2025年2月27日、NCTV、2025年11月25日)。
非常用の備えを持つ世帯は「半数前後」。ただし調査で数字が違う
「備えた人」とは別に、「noodpakket を持っている世帯」の割合も報じられています。ただし、調査の主体と聞き方が違うため、数字がそろいません。
| 調査 | 発表 | 備えを持つ世帯 | 前回 |
|---|---|---|---|
| RTL Nieuws のパネル調査 | 2026年2月 | 51%(IamExpat)/50%(DutchNews、作成中を含む) | 2024年は15% |
| 法務・安全省の依頼で Ipsos I&O | 2026年4月 | 44% | 前年は35% |
| NCTV の意識調査 | 2026年10月 | 割合は未公表(最多の行動として報道) | — |
RTL の調査はテレビ局の視聴者パネルで、作成中の人を含めるかどうかで媒体ごとに51%と50%に分かれています(IamExpat、2026年2月9日、DutchNews、2026年2月6日)。政府側の調査では44%で、NL Times は「半数超はまだ持っていない」と見出しにしました(NL Times、2026年4月13日)。どちらが正しいというより、「おおむね半数前後で、2年で大きく増えた」と読むのが妥当です。
2026年10月から、キャンペーンの問いかけが変わった
NCTV は調査の公表と同じ日に、Denk vooruit の新しい段階を始めました。最初のキャンペーンは「備えをそろえる」ことが中心でしたが、新しい段階では次のような問いを投げかけています(NCTV、2026年10月12日)。
- 悪天候で家に帰れなくなったら、だれが子どもを見るか
- 全国的な停電に備えて、モバイルバッテリーは充電してあるか
- エレベーターが止まったら、だれが助けを必要とするか
法務・安全大臣の Van Weel(ファン・ウェール)氏は、備えは「ラジオを正しい局に合わせる」「非常用に現金を下ろしておく」といった小さな一歩で進むものだ、と述べています。物をそろえる段階から、家族や近所との取り決めへと重心が移っているのが、この秋の動きです。
2. 全体像:だれが、何を、どこまで備えるのか
オランダの備えは、「国が全部やってくれる」でも「個人が全部やる」でもありません。最初の72時間は住民が自分と周りを支え、その間に自治体・安全地域・国が支援を立ち上げる、という分担です。ここでは、その分担の地図を描いておきます。
「72時間」はEU全体の目標でもある
72時間という数字はオランダだけのものではありません。欧州委員会は2025年3月26日に Preparedness Union Strategy(備えの連合戦略)を公表し、30の主要行動のひとつとして、加盟国の住民が少なくとも72時間自力で過ごせるようにするための指針を示すとしました(欧州委員会)。
戦略は自然災害、感染症、サイバー攻撃、軍事的な脅威までを同じ枠で扱う「あらゆる危険(all-hazards)」の考え方をとっています。オランダの Denk vooruit も同じ考え方で、特定の危機を名指しするのではなく、「電気・水・ネットが止まる」という結果に備える形になっています。
国・安全地域・自治体・住民の役割
オランダの危機対応は、veiligheidsregio(フェイリッハイツレヒオ、安全地域)という単位で組み立てられています。全国に25あり、消防、GHOR(救急医療の調整)、危機管理を担います。理事会は域内の市長たちで構成され、議長は国王の任命による市長、多くは域内最大の自治体の市長です(Rijksoverheid)。
| 主体 | 主な役割 | 住民から見た接点 |
|---|---|---|
| 国(NCTV・各省) | 国全体の危機管理、Denk vooruit、NL-Alert | 冊子、denkvooruit.nl、NL-Alert |
| veiligheidsregio(25) | 消防、救急医療の調整、複数自治体にまたがる危機の指揮 | 地域の危機情報サイト、避難の指示 |
| gemeente(自治体) | 単独の自治体内の危機は市長が責任者。給水所の場所を決める | 自治体サイト、冊子の追加入手 |
| 水道会社・水管理組合 | 断水時の給水、堤防と水位の管理 | 給水所、waterstoring.nl |
| 住民 | 最初の72時間の自助と近所の助け合い | noodpakket、noodplan |
同じ事故でも、ひとつの自治体の中で収まれば市長が、複数の自治体にまたがれば安全地域の議長が責任者になります。デン・ハーグ、デルフト、ライスワイクなどは Veiligheidsregio Haaglanden(ハーグランデン安全地域)に入っています。自分の安全地域は Denk vooruit の「Jouw veiligheidsregio」のページで調べられます。
3. 政府が勧める noodpakket の中身
ここからが実務です。Rijksoverheid と Denk vooruit が示す推奨品は、品目ごとに並べるとそれほど多くありません。ポイントは、新しく買いそろえるより、家にある物を確かめて足りない物を足すことです。
基本の推奨品
次の表は、Rijksoverheid の「Wat zit er in een noodpakket?」と Denk vooruit の英語版に書かれている推奨品を、用途ごとに並べたものです(Rijksoverheid、Denk vooruit 英語版)。
| 用途 | 推奨品 | 量・注意 |
|---|---|---|
| 水 | ボトルの飲料水 | 1人1日約3リットル |
| 食料 | 日持ちする食品(ナッツ、野菜の缶詰、ドライフルーツ) | 調理しなくても食べられる物 |
| 情報 | 電池式ラジオ、携帯電話とモバイルバッテリー | 地域局の周波数に合わせておく |
| 明かり | 懐中電灯と予備電池、ろうそく、マッチ | ろうそくは火の始末に注意 |
| 体を守る | 救急箱(説明書つき)、毛布 | 冬の停電で暖房が止まる |
| 居場所を知らせる | 笛 | 救助隊に位置を知らせる |
| お金 | 現金 | 大人€70・子ども€30 |
| 道具 | ハンマー、のこぎり、ペンチ | 基本的な工具 |
| 衛生 | 消毒ジェル、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、生理用品、歯ブラシ | 断水に備える |
| 書類・鍵 | 身分証のコピー、電話番号の一覧、家と車の予備の鍵 | 紙で持つ |
ここに、家族の事情に応じて薬、ベビーフード、ペットの食べ物と水を足します。Rijksoverheid のページは、防水の袋、たとえばリュックに入れて手の届く場所に置き、半年ごとに中身と賞味期限を点検するよう勧めています。
並べてみると、日本の防災リュックと大きくは違いません。違いは、ヘルメットや軍手、簡易トイレのような「地震で家が壊れた後」の品目が前面に出ていないことと、現金とラジオの比重が大きいことです。
水と現金の量を世帯で計算する
水と現金は人数で量が決まるので、先に計算しておくと買い物が楽になります。水は「1人1日3リットル×72時間=9リットル」が基本で、ペットの分は別に足します。現金は Denk vooruit の「Elektronisch betalen(電子決済)」のページが、Nibud(家計の研究機関)の試算として大人€70・子ども€30を挙げています(Denk vooruit)。
| 世帯 | 飲料水(3日分) | 現金の目安 |
|---|---|---|
| 単身 | 9リットル | €70 |
| 夫婦 | 18リットル | €140 |
| 夫婦+子ども1人 | 27リットル | €170 |
| 夫婦+子ども2人 | 36リットル | €200 |
| 単身+中型犬1匹 | 9リットル+犬の分 | €70+ペットの物資分 |
現金は、ぴったり払えるように紙幣と硬貨を混ぜておくよう勧められています。オランダはカード払いが当たり前で、現金お断りの店もある国です。普段の財布とは別の封筒に入れておくと、うっかり使ってしまうのを防げます。
既製の非常袋は買わなくてよい
オランダのスーパーやドラッグストア、通販では「noodpakket」の名前で既製のセットが売られています。ただ、在住者向けの非営利団体 ACCESS は、政府は既製のセットを買うことを勧めておらず、家にある物を確かめてから足りない物だけ買うよう助言していると案内しています(ACCESS)。
既製のセットには、すでに家にある懐中電灯や救急箱が重複して入っていたり、常用薬のように個人で違う物は当然入っていなかったりします。アムステルダム市は2026年夏、費用が壁になっている低所得世帯2,000世帯に、ラジオ・救急箱・笛の入ったセットをフードバンクを通じて配りました(DutchNews、2026年5月20日)。費用が気になる人は、自治体の支援があるかを確かめるのもひとつの方法です。
冊子「Bereid je voor op een noodsituatie」
全世帯に届いた冊子の題名は「Bereid je voor op een noodsituatie(非常事態に備えよう)」です。DutchReview によると、850万世帯以上に配られ、2025年11月25日から英語・ドイツ語・ポーランド語・フランス語・アラビア語・トルコ語・中国語・スペイン語の版も公開されました(DutchReview、2025年11月18日)。この一覧に日本語はありません。
英語版は Denk vooruit の文書ページから読めます(Prepare for an emergency situation)。オランダ語の冊子が届いたまま読んでいない人は、英語版で一度目を通しておくと、家族と話すときの土台になります。政府側の調査では、受け取った人の9割超が冊子を見た一方で、4分の1超はまったく読まなかったと報じられています(NL Times、2026年4月13日)。
4. 危機の知らせはどう届くか(NL-Alert・サイレン・地域ラジオ)
備えた物を使う場面では、「何が起きているか」をどう知るかが大事になります。オランダの警報は、携帯電話、サイレン、ラジオ・テレビの3本立てです。気象警報(code geel・oranje・rood)は別の仕組みなので、KNMIの気象警報の記事を参照してください。
NL-Alert(携帯電話への一斉警報)
NL-Alert(エヌエル・アラート)は、政府が危機のときに、その地域にいる人の携帯電話へ一斉に送る警報です。何が起きているか、何をすべきか、どこで詳しい情報を得られるかが書かれ、駅や停留所の案内画面、屋外のデジタル広告にも表示されます(NL-Alert)。
The Hague International Centre の案内では、NL-Alert は無料で登録不要、セル・ブロードキャストという方式で送られるため、回線が混み合っても届きます。受け取るには、電源が入っていて電波があり、端末の受信設定が有効になっている必要があります(The Hague International Centre)。日本から持ってきたスマートフォンでも、設定の「緊急速報」の項目が有効になっているかを一度確かめておくと確実です。
試験の配信は毎年6月と12月の正午ごろで、次回は2026年12月7日(月)です。国境近くに住んでいて隣国の電波をつかみやすい人や、通知の文面が分かりにくい人のために、NL-Alert アプリも用意されています。過去の配信と、いま出ている警報は actueel.nl-alert.nl で確認できます。
サイレン(WAS):毎月第1月曜の正午
オランダに来て最初に驚くことのひとつが、毎月第1月曜の正午に鳴るサイレンです。これは WAS(Waarschuwings- en Alarmeringssysteem、警報・警告システム)の試験で、12時ちょうどに1分26秒、途切れずに鳴ります。祝日と、戦没者追悼の日の5月4日には鳴りません(Rijksoverheid)。
試験以外の時刻に鳴ったときにとるべき行動は、ACCESS と The Hague International Centre がそろって案内しています(ACCESS)。
| 場面 | すること |
|---|---|
| 屋外にいる | すぐ近くの店や建物に入る |
| 車の中 | できれば建物に入る。高速道路などでは窓を閉め、換気と冷房を切る |
| 家にいる | 窓・扉・換気口を閉め、換気設備を止める |
| 子どもが学校にいる | 迎えに行かない。学校にとどまらせる |
| 情報 | 地域局のラジオ、全国規模なら NPO Radio 1・NPO 1、NL-Alert |
| 電話 | どうしても必要なときだけ使う |
サイレンの音そのものには、何が起きたかの情報はありません。「中に入って、閉めて、ラジオをつける」のが基本の動きです。オランダ語が分からなければ、近くの人や隣人に内容を聞くよう ACCESS は勧めています。
サイレンは廃止されるのか(2026年の報道の変化)
サイレンの存廃については、2026年の5月と6月で報道の内容が変わっているので、古い記事を読んだ人は注意が必要です。IamExpat は2026年5月20日、政府が新しいサイレン網の予算をつけず、2028年1月1日から WAS を止めて NL-Alert に一本化すると報じました。記事によると、サイレン柱は全国に約4,200本あり、1998年から使われてきました。サイレンが聞こえる人は条件がよくても約75%、NL-Alert は人口の約92%に届くとされています(IamExpat、2026年5月20日)。
ところが2026年6月9日、NOS は、大臣が下院への書簡で「平時は NL-Alert で足りるが、深刻なハイブリッドの脅威や軍事的な脅威には弱い」として、NL-Alert と並ぶ警報手段が必要だとの考えを示し、サイレンは2028年1月1日には消えない見通しになったと報じました。国防省が費用を分担し、安全地域ごとに押していたボタンを全国でひとつにし、新しい音の信号を加え、国防の探知システムとつなぐ計画です(NOS、2026年6月9日、DutchReview、2026年6月10日)。
新しい仕組みの完成時期はまだ示されていません。当面は、毎月第1月曜の正午の試験はこれまでどおり続くと考えて差し支えありません。
停電したら、地域の公共放送ラジオ
停電が長引くと、携帯電話の回線は混雑で数時間のうちに使えなくなるおそれがあり、テレビも見られなくなります。そのとき頼りになるのが、電池式ラジオで聞く地域の公共放送局です。大きな危機のときは、地域局が rampenzender(ランペンゼンダー、災害放送局)として情報を流します(Denk vooruit)。
Denk vooruit の英語版には、地域ごとのFM周波数の一覧があります。次の表は日本人が多く住む地域の一部です(Denk vooruit)。
| 地域 | 地域局 | FM(MHz) |
|---|---|---|
| デン・ハーグ | Omroep West | 89.3 |
| ライデン | Omroep West | 88.0 |
| ロッテルダム | Radio Rijnmond | 93.4 |
| アムステルダム | NH Radio | 88.9 |
| ユトレヒト(Lopik 送信所) | Radio M | 93.1 |
公式ページの一覧は送信所ごとに並んでおり、住んでいる場所によって入りやすい周波数が違います。実際にラジオで受信できるかを、平時に一度試しておくのが確実です。DAB+ のラジオなら地域局を自動で受信しますが、停電時に備えてFMも聞ける機種を選ぶよう Denk vooruit は勧めています。
5. オランダ特有のリスクを知る(水害・停電・断水・サイバー・感染症)
Denk vooruit の「Risico's in Nederland(オランダのリスク)」のページには、19のリスクが並んでいます。地震(Groningen のガス採掘による誘発地震を含む)や原子力、山火事、燃料不足、偽情報もありますが、日常に近いのは水・電気・通信・決済の停止です(Denk vooruit)。
| リスク | 何が起きるか | まずやること |
|---|---|---|
| 水害(overstroming) | 海・川・湖があふれ、広い範囲が浸水 | overstroomik.nl で自宅の想定を見る |
| 停電(geen stroom) | 暖房・冷蔵庫・水圧・携帯回線が止まる | ラジオ、モバイルバッテリー、懐中電灯 |
| 断水(drinkwater) | 水道が止まる、煮沸の指示が出る | 3日分の水、給水用の容器 |
| 決済の停止 | カード・スマホ決済が使えない | 現金(大人€70・子ども€30) |
| 通信の停止 | 電話・ネットが使えない | 連絡先を紙に、データの控え |
| サイバー犯罪 | アカウント乗っ取り、詐欺 | 2段階認証、更新、バックアップ |
| 感染症 | 流行時の行動制限 | 体調不良時は家にいる、換気、手洗い |
水害:国土の26%が海抜より低い
オランダの水害リスクを語るとき、よく「国土の半分以上が海面下」と言われますが、正確ではありません。PBL(環境評価庁)によると、海抜(NAP)より低いのは国土の26%で、浸水しうる地域は59%です。59%の内訳は、堤防や砂丘で守られた区域の内側が55%、堤防の外側で守られていない区域が4%です(PBL)。
かつて IPCC の報告書が「55%が海面下」と書いたのを PBL が訂正したもので、正しくは「26%が海面下、29%が川の氾濫を受けうる」です。Denk vooruit は、堤防などの対策がなければ国土の約60%が定期的に水につかる、と説明しています。
浸水のリスクは冬と春に高く、川でも沿岸でも同じです。2021年7月には、リンブルフ州で記録的な大雨による大きな被害が出ました。
自宅の想定は overstroomik.nl(オーバーストロームイク、「私は浸水するか」)で調べられます。Rijkswaterstaat、安全地域、水管理組合、インフラ・水管理省、法務・安全省、デルタ計画が共同で運営するサイトで、住所か現在地を入れると、海・川・大きな湖があふれた場合に自宅付近の水がどの高さまで来うるかが表示されます。英語版もあります。
Denk vooruit は、水害への備えとして次のことを挙げています(Denk vooruit)。
- 家の中で乾いたまま残る上の階や屋根裏を確かめる。ない場合は overstroomik.nl で近くの乾いた場所を調べる
- 乾いた毛布とタオルを用意し、低体温を防ぐ
- ガスの元栓の場所を知っておく
- 玄関がふさがれたときの逃げ道(天窓、はしご)を確かめる
- 浸水した道を歩くときは棒(peilstok、ペイルストック)で足元を確かめる。マンホールのふたが外れていることがある
- ペットをどこへ連れて行けるか考えておく
停電:暖房と水圧、携帯回線が止まる
停電が72時間以上続くと、電話の交換設備が止まり、携帯電話の回線は混雑で数時間のうちに使えなくなるおそれがあります。セントラルヒーティング(cv)も止まり、集合住宅では水道の水圧が下がることがあります(Denk vooruit)。
停電は「緊急ではない」ので112には電話せず、全国の停電・ガス漏れの窓口 0800-9009 に連絡します。寒い時期は窓と扉を閉め、家の中でいちばん小さな部屋を暖めてそこで過ごします。電気が戻ったときに家電が傷まないよう、コンセントを抜いておくことも勧められています。
断水:24時間を超えると給水が始まる
オランダの水道水は質が高く、衛生的に保存すれば備蓄の水にも使えます。断水が24時間を超えて続くと、水道会社が緊急の給水を始めます。量は1人1日少なくとも3リットル(飲み水2リットル、調理1リットル)で、自治体が決めた給水所でタンクから自分で汲みます。容器は自分で持って行くので、清潔なバケツや空きボトル、ポリタンクを家に置いておきます(Denk vooruit)。
水質に問題があるときは、NL-Alert で kookadvies(コークアドヴィース、煮沸の指示)が出ます。この場合は3分間沸騰させ、冷ましてから飲みます。備蓄した水道水は半年ごとに入れ替えます。断水かどうかは、まずメーター周りの元栓を確かめ、隣人にも水が出るか聞き、waterstoring.nl で現在の断水情報を見ます。
サイバー障害と決済・通信の停止
NCTV の調査で、住民が「起こりうる」と最も強く感じているのはサイバー攻撃です。2025年秋の回では83%が、サイバーの脅威が起こる可能性を「高い」または「とても高い」と答えました(NCTV)。
サイバーの備えは、物をそろえる備えとは別の種類です。Denk vooruit は次のことを勧めています(Denk vooruit「Cybercriminaliteit」、「Uitval telecommunicatie」)。
- メールとSNSに2段階認証を設定する(設定に困ったら DigiHulplijn 0800 1508)
- サイトごとに違うパスワードを使い、パスワード管理ソフトに保存する
- パソコン・タブレット・スマートフォンの更新を入れる
- 大切なデータを外付けドライブに定期的にバックアップする
- 大切な人とサービスの連絡先を紙に書いて保管する
- 通信が止まるとスーパーでカード払いができないことを想定する
詐欺の相談や被害の届け出は、Fraudehelpdesk(088-7867372)で受け付けています。決済の停止については、銀行のシステムの安全を DNB(オランダ中央銀行)が監督し、大規模な端末障害の際の後払いやQRコード決済の活用が検討されている、と Denk vooruit は説明しています。
感染症への備え
感染症の流行については、Denk vooruit は体調が悪いときは家にいる、ひじの内側で咳やくしゃみをする、手を洗う、換気をよくするといった基本を挙げ、詳しくは RIVM(国立公衆衛生環境研究所)を参照するよう案内しています(Denk vooruit、RIVM)。物の備えとしては、常用薬の予備と体温計、マスクを noodpakket に足しておくと、流行時にも役立ちます。
6. 賃貸住宅でできる備え
オランダに住む日本人の多くは賃貸、それも集合住宅に住んでいます。大がかりな備蓄庫は持てませんが、賃貸でもできることは十分にあります。ここでは、置き場所と住宅の設備の2つに分けて考えます。
置き場所と量の工夫
Denk vooruit は、備えを手の届く場所に、防水の袋に入れて置くよう勧めています。避難が必要なときにすぐ持ち出せる袋(鍵・身分証・現金)を、同じ場所にまとめておく形です。狭い部屋では、次のような分け方が現実的です。
| 置き場所 | 入れる物 | 理由 |
|---|---|---|
| 玄関近くのリュック | 鍵、身分証のコピー、現金、懐中電灯、笛、常用薬 | すぐ持ち出せる |
| 台所の棚 | 缶詰、ナッツ、ドライフルーツ、ペットの食べ物 | 普段の食品と回しながら使う |
| ベッドの下・物置 | ボトルの水、ポリタンク | 重い物は低い所に |
| 引き出し | ラジオ、予備電池、ろうそく、マッチ | 停電時に手探りで出せる |
| 冷蔵庫の扉 | 連絡先の一覧、地域局の周波数 | 家族全員が見られる |
水は箱で買って、普段の飲み水として古い物から使い、使った分を買い足すと、期限切れを防げます。日本で言う「ローリングストック」の考え方です。
住宅の設備で確かめること
設備の面では、まず煙感知器を確かめます。オランダでは2022年7月1日から、居間・寝室・台所のある階ごとに煙感知器の設置が義務になり、賃貸では家主が設置する責任を負います。電池の点検や交換を借り手に求めることはあり、10年ごとに本体を交換します(Rijksoverheid、Brandweer)。
ほかに、ガスの元栓、水道の元栓(多くはメーターボックス meterkast の中)、ブレーカーの場所を確かめておきます。集合住宅では、停電で給水ポンプが止まると上の階から水が出なくなることがあります。高層階に住む人は、水の備蓄を多めにしておくと安心です。
エレベーターが止まったときに助けが必要な人が同じ建物にいるかも、新しい Denk vooruit の問いのひとつです。管理会社や VvE(区分所有者の管理組合)に、非常時の連絡網があるかを聞いておくとよいでしょう。
7. ペット・子ども・薬の備え
政府の推奨品の一覧は短いぶん、家族の事情に合わせて足す部分が大きくなります。ここでは、Denk vooruit が「状況に合わせて足す」としている3つを具体的に考えます。
立場ごとに足す物
| 家族の事情 | 足す物 | 気をつけること |
|---|---|---|
| ペット(犬・猫) | 3日分以上の食べ物と水、リード、キャリー | 水害時に連れて行ける場所を調べる |
| 乳児 | ミルク、ベビーフード、おむつ、おしりふき | 調乳用の水も別に計算する |
| 幼児・小学生 | 好きなお菓子、本やカードゲーム、着替え | 学校での待機の決まりを確かめる |
| 常用薬がある人 | 数日分の予備、処方の控え、薬の一覧 | 冷蔵が必要な薬の扱いを医師に聞く |
| 医療機器を使う人 | 予備の電池、停電時の手順 | 電気に頼る機器は事前に計画を立てる |
| 高齢の家族・同居人 | 眼鏡、補聴器の電池、入れ歯の用品 | 近所に助けを頼めるか話しておく |
子どもと話すとき
子どもがいる家庭では、備えの話そのものが子どもを不安にさせないかが気になります。Denk vooruit は「先のことを考えるのは恐れることではない。慌てないための準備だ」と説明しています。サイレンの試験の日に「これは機械が壊れていないかを確かめる音だよ」と話すところから始めると、日常の話題として扱えます。
新しいキャンペーンの問いのとおり、「天気が悪くて親が迎えに行けないとき、だれが迎えに行くか」を決めておくことが、子どものいる家庭では最も実用的な備えです。学校や学童(BSO)が非常時にどう連絡してくるかも、保護者向けの案内で確かめておきます。
薬の備え
常用薬は、オランダでは huisarts(家庭医)の処方で薬局から受け取るのが基本です。数日分の予備を常に持っておけるよう、残りが少なくなる前に処方を頼む習慣をつけておきます。服用中の薬の一覧(medicatieoverzicht、メディカティーオーバーズィヒト)は薬局で出してもらえます。
8. つまずきやすいところ
ここまでの内容のうち、実際に準備を始めると引っかかりやすい点を並べます。多くは「知っていればすぐ直せる」種類のものです。
古い情報と新しい情報が混ざっている
サイレンの廃止については、2026年5月の報道(2028年に廃止)と6月の報道(廃止を見直し)で内容が逆になっています。noodpakket を持つ世帯の割合も、51%・50%・44%と媒体ごとに違います。検索で見つけた記事の日付を必ず確かめ、制度は公式サイトで最新の状態を見ることが大切です。
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 国土の半分以上が海面下 | 海抜より低いのは26%。浸水しうるのが59% |
| サイレンは2028年に廃止される | 2026年6月に方針が見直され、新しい網を整える考え |
| NL-Alert は登録が必要 | 登録もアプリも不要。端末の設定を確認するだけ |
| 既製の非常袋を買えば安心 | 政府は家にある物の確認と買い足しを勧めている |
| 停電したら112に電話 | 停電は0800-9009。112は命に関わる緊急時だけ |
| 備えは戦争のため | 想定は停電・断水・水害・サイバー障害など全般 |
最後の点は、起点の記事の見出しが「戦争など」となっていることもあり、誤解されやすいところです。NCTV の調査で住民が最も起こりうると感じているのはサイバー攻撃で、Denk vooruit のリスク一覧も、暑さや干ばつ、断水のような日常に近い項目が多くを占めています。
9. 日本の防災と比べてどうか
日本で育った人は、学校の避難訓練や自治体の防災マップを通じて、防災の基本をすでに身につけています。その経験は、オランダでもそのまま生きます。違いは、想定する災害の種類と、備蓄の日数です。
想定する災害が違う
日本の備えは地震と津波、台風、大雨が中心で、家具の固定やヘルメット、簡易トイレが重視されます。オランダでは大きな地震はまれで、想定の中心は水害と、電気・水・通信の停止です。
備蓄の日数と量
首相官邸の防災ページは、飲料水と非常食を3日分が基準、大規模災害に備えるなら1週間分が望ましいとし、水は1人1日3リットルを目安にしています(首相官邸)。オランダの推奨は72時間、つまり3日分で、1人1日3リットルという水の量は日本と同じです。
| 項目 | 日本(首相官邸の目安) | オランダ(Denk vooruit) |
|---|---|---|
| 備蓄の日数 | 3日分が基準、1週間分が望ましい | 72時間(3日分) |
| 飲料水 | 1人1日3リットル | 1人1日約3リットル |
| 想定の中心 | 地震・津波・台風・大雨 | 水害・停電・断水・サイバー |
| 現金 | 目安額は示されていない | 大人€70・子ども€30 |
| 警報の手段 | 緊急速報メール、防災行政無線 | NL-Alert、サイレン、地域ラジオ |
| 避難の考え方 | 指定避難所へ移動が中心 | 屋内にとどまる、上の階へ、が中心 |
「とどまる」が基本になる理由
日本では避難所への移動が備えの中心にありますが、オランダの案内は、サイレンのときは屋内に入って閉める、水害のときは上の階に上がる、というように「その場にとどまる」動きが中心です。もちろん避難の指示が出れば従いますが、自宅で72時間を過ごす前提で備えを組み立てる点が、日本の感覚との一番の違いかもしれません。
10. 日本人ならではの準備(大使館への届出・日本の家族)
オランダ人と同じ備えに加えて、外国籍の住民には「自国とのつながり」の備えが要ります。日本人の場合は、大使館への届け出と、日本の家族との取り決めの2つです。
在留届とたびレジ
外国に住所を定めて3か月以上滞在する日本人は、旅券法第16条にもとづき、在外公館に在留届を出す義務があります。オランダでは在オランダ日本国大使館(デン・ハーグ)が窓口で、外務省のオンライン在留届「ORRネット」から届け出られます。3か月未満の滞在、出張、旅行は「たびレジ」の対象です(外務省 ORRネット)。
| 届け出 | 対象 | いつ | 非常時の効果 |
|---|---|---|---|
| 在留届(ORRネット) | 3か月以上住む人 | 到着後すみやかに | 大使館から緊急メール、安否確認 |
| 変更届 | 住所・家族・連絡先が変わった人 | 変わったとき | 連絡が確実に届く |
| 帰国届 | 本帰国・第三国へ移る人 | 出国時 | 登録が残り続けるのを防ぐ |
| たびレジ | 3か月未満の滞在・旅行・出張 | 出発前 | 渡航先の安全情報と緊急連絡 |
| 自治体の住民登録(BRP) | オランダに4か月以上住む人 | 到着後 | 冊子や自治体の案内が届く |
家族で住んでいる場合、在留届には同居家族も載せます。日本から遊びに来る家族や、オランダ経由で旅行する家族には、たびレジへの登録を勧めておくと、非常時に情報が届きます。大使館の連絡先と、外務省の海外安全ホームページも、紙の連絡先一覧に書いておきます。
日本の家族への伝え方
オランダで大きな停電や水害が起きると、日本でも報道されることがあります。携帯回線が使えない時間があると、日本の家族は連絡がつかないことで不安になります。平時に次のことを伝えておくと、双方の負担が減ります。
- 「オランダ政府の推奨にもとづいて、72時間分の備えはしてある」
- 「携帯が通じなくても、すぐに危険とは限らない。停電で回線が混んでいるだけのことが多い」
- 「連絡がつかないときは、同じ地域の知人(名前と連絡先)に聞いてほしい」
- 「大使館には在留届を出してある」
時差は冬時間で8時間、夏時間で7時間です。決まった時間に短く連絡する約束をしておくと、通信が戻ったときにも連絡がつきやすくなります。
日本から持ってくると便利な物
日本の防災用品は、品質と使い勝手のよさで知られています。一時帰国の際に持ち帰ると便利な物を挙げます。電池式・充電式の物は、オランダの電圧(230V)とプラグ(Cタイプ・Fタイプ)で使えるかを確かめてください。
| 物 | 便利な理由 | 注意 |
|---|---|---|
| アルファ米・レトルトのご飯 | 水やお湯で戻せ、慣れた味で食べられる | 賞味期限を書いておく |
| 手回し・ソーラー充電のラジオ | 電池がなくても使える | 108MHzまで受信できる機種を選ぶ |
| 簡易トイレ | 断水時に役立つ | 日本の製品は種類が多い |
| 保温シート・カイロ | 冬の停電で暖房が止まったとき | 使い捨てカイロは航空機の持ち込み条件を確認 |
| 日本語の常用薬の説明書 | 医師に説明しやすい | 成分名をローマ字でも控える |
11. 手順:今週やること
ここまでの内容を、明日から順にできる形にまとめます。すべてを1日でやる必要はなく、1つずつ進めれば足ります。
- overstroomik.nl に住所を入れ、自宅の水害の想定と、近くの乾いた場所を確かめる
- スマートフォンの設定で緊急速報(NL-Alert)の受信が有効になっているかを確かめる
- 地域局のFM周波数(デン・ハーグなら Omroep West 89.3MHz)を調べ、ラジオで受信できるか試す
- 家にある物を見て、推奨品の表と照らし合わせ、足りない物だけを書き出す
- 水を人数×9リットル、現金を大人€70・子ども€30の目安で用意する
- 常用薬の予備と、薬の一覧(medicatieoverzicht)を薬局でもらう
- 家族と、連絡がつかないときの集合場所と迎えの分担を決める
- 在留届の住所・家族の情報が最新かを ORRネットで確かめる
- 日本の家族に、備えと「連絡がつかないときの決めごと」を伝える
- カレンダーに半年後の点検日を入れる
12. ケースで考える(架空の3人)
ここからは、立場の違う3人の架空の例で、何をどこまで備えるかを考えます。実在の人物ではありません。
単身の会社員Aさん(アムステルダムの集合住宅の4階)
Aさんは日本企業の駐在員で、エレベーターのある建物の4階に1人で住んでいます。冷蔵庫に食品はほとんどなく、現金も持ち歩いていません。まず水9リットル、ナッツと缶詰、現金€70、ラジオとモバイルバッテリーを用意しました。上の階では停電時に水圧が下がるおそれがあるので、水は少し多めにしています。在留届は会社の手続きで出していましたが、引っ越し後の住所変更を忘れていたので、ORRネットで変更届を出しました。
子ども2人の家族Bさん(デン・ハーグの低層住宅)
Bさんは夫婦と小学生2人の4人家族です。overstroomik.nl で調べると、自宅は浸水の想定が小さい地域でした。それでも停電と断水には備え、水36リットル、現金€200、子どもの好きなお菓子とカードゲームを用意しました。夫婦とも通勤しているので、「悪天候で帰れないときは、近所のオランダ人の友人が子どもを迎えに行く」と取り決め、学校にも伝えました。
留学生Cさん(ロッテルダムのシェアハウス)
Cさんは1年間の留学で、学生向けのシェアハウスに住んでいます。部屋は狭く、物を増やしたくありません。共同生活の仲間と相談し、水と缶詰は共用の棚にまとめ、ラジオは1台を共有することにしました。自分の分としては、現金€70、常用薬、モバイルバッテリー、身分証のコピーをリュックにまとめています。滞在が3か月を超えるので、たびレジではなく在留届を出しました。
| 立場 | 優先すること | 後回しにしてよいこと |
|---|---|---|
| 単身・高層階 | 水を多めに、現金、ラジオ、住所変更の届出 | 大きな工具 |
| 子どものいる家族 | 迎えの分担、子ども用品、人数分の水 | 既製の非常袋 |
| 留学生・シェアハウス | 共用の備えの相談、個人の薬と書類 | 大量の備蓄 |
13. やってはいけないこと
備えは、やりすぎても続きません。ここでは、逆効果になりやすい行動をまとめます。
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 不安からの買い占め | 店の棚が空になり、本当に必要な人に届かない |
| 停電で112に電話する | 緊急回線がふさがる。停電は0800-9009 |
| 室内で炭やガスのコンロを使って暖を取る | 一酸化炭素中毒の危険がある |
| サイレンの試験以外の音で子どもを迎えに行く | 外にいるほうが危ない。学校にとどまらせる |
| 確かめていない情報をSNSで広める | 偽情報もリスクの一覧に入っている |
| 浸水した道を足元を確かめずに歩く | マンホールのふたが外れていることがある |
偽情報(desinformatie)が Denk vooruit のリスクの一覧に入っていることは、見落とされがちです。非常時には、公式の情報源(NL-Alert、地域局、安全地域や自治体のサイト、crisis.nl)を確かめてから行動し、人に伝えるのが基本です。
14. チェックリスト
最後に、点検の日に見直す項目を並べます。半年ごと、たとえば夏時間と冬時間が切り替わる3月末と10月末に見直すと、覚えやすくなります。
- 水が人数×9リットル以上あり、期限が切れていない
- 日持ちする食品が3日分あり、期限が切れていない
- 現金が大人€70・子ども€30の目安で、紙幣と硬貨に分けてある
- ラジオの電池が切れておらず、地域局の周波数を書き留めてある
- モバイルバッテリーが充電してある
- 懐中電灯と予備電池、救急箱、毛布、笛がある
- 常用薬の予備と薬の一覧がある
- ペットと子どもの物が足りている
- 身分証のコピーと連絡先の一覧が紙である
- 煙感知器が作動する
- 在留届の内容が最新で、日本の家族と決めごとを共有している
15. まとめ
- 2026年10月の NCTV の調査で、オランダの住民の4割超が過去1年に備えをした一方、半数超はまだ何もしていません
- 政府の推奨は最初の72時間を自宅で過ごせる備えで、水は1人1日3リットル、現金は大人€70・子ども€30が目安です
- 既製の非常袋を買う必要はなく、家にある物を確かめて足りない物だけ足すのが政府の考え方です
- 警報は NL-Alert、毎月第1月曜正午に試験するサイレン、地域局のラジオで届きます。サイレンは2026年6月に存続の方向へ見直されました
- オランダ特有のリスクは水害・停電・断水・サイバー障害で、国土の26%が海抜より低く、59%が浸水しうる地域です
- 日本人は在留届(3か月以上)かたびレジ(3か月未満)を済ませ、日本の家族と連絡の決めごとを共有しておきます
参考にした情報源
オランダ政府・公的機関
- Nieuwe Denk vooruit campagne — NCTV:2026年10月の調査結果と新キャンペーン
- Risico- en Crisisbarometer — NCTV:調査の方法(800人・年2回)
- Zorgen onder Nederlanders over cyberdreigingen — NCTV:2025年秋の回(35%、5,873人)
- Wat zit er in een noodpakket? — Rijksoverheid:推奨品と点検の頻度
- Wanneer wordt de sirene getest? — Rijksoverheid:サイレン試験の日時と例外
- Veiligheidsregio's — Rijksoverheid:25の安全地域と役割
- Hoeveel rookmelders moet ik in mijn huis hebben? — Rijksoverheid:煙感知器の義務
- Rookmelders — Brandweer:2022年7月からの義務と賃貸での責任
- Denk vooruit(英語版):キャンペーンの3ステップ
- Putting together an emergency kit — Denk vooruit:英語の推奨品一覧と現金の目安
- Your radio station — Denk vooruit:地域局のFM周波数
- Risico's in Nederland — Denk vooruit:19のリスクの一覧
- Overstroming — Denk vooruit:水害への備えと災害放送局
- Geen stroom — Denk vooruit:停電時に起きることと0800-9009
- Drinkwater — Denk vooruit:給水と煮沸の指示
- Elektronisch betalen — Denk vooruit:現金の目安(Nibud の試算)
- Cybercriminaliteit — Denk vooruit:2段階認証、相談窓口
- Uitval telecommunicatie — Denk vooruit:通信停止への備え
- Uitbraak van infectieziekten — Denk vooruit:感染症への備え
- Prepare for an emergency situation — Denk vooruit:冊子の英語版
- NL-Alert:仕組みと試験の日程(次回2026年12月7日)
- NL-Alert 現在の警報:配信中・過去の警報
- overstroomik.nl:住所ごとの水害の想定
- waterstoring.nl:断水情報
- Correctie formulering over overstromingsrisico — PBL:26%と59%の数値
- RIVM:感染症と衛生の情報
EU・日本
- EU Preparedness Union Strategy — 欧州委員会:72時間の自立の目標
- 災害が起きる前にできること — 首相官邸:日本の備蓄の目安
- ORRネット・たびレジ — 外務省:在留届とたびレジ
- 海外安全ホームページ — 外務省:渡航・在留の安全情報
在住者向け媒体・報道
- More than 4 in 10 Dutch took steps to prepare for disasters — NL Times:起点の記事
- Over half of Dutch still don't have an emergency kit — NL Times:44%の調査と冊子の反響
- 51 percent of households have home emergency kits — IamExpat:RTL の調査
- Monthly air raid sirens to stop from 2028 — IamExpat:2026年5月時点の廃止方針
- Half Dutch households now have an emergency kit — DutchNews:RTL の調査の別の報じ方
- Amsterdam issues 2000 emergency supply kits — DutchNews:低所得世帯への配布
- Dutch households to receive emergency booklet — DutchReview:冊子の配布と翻訳の言語
- Dutch monthly alarm sirens are here to stay — DutchReview:サイレン存続の方針
- Luchtalarm blijft toch bestaan — NOS:2026年6月9日の方針転換
- Kwart Nederlanders beter voorbereid — Binnenlands Bestuur:2022〜2024年の推移
- Emergency package — ACCESS:既製セットについての政府の助言
- What to do when I hear the sirens? — ACCESS:サイレンが鳴ったときの行動
- Emergency services in the Netherlands — Expatica:緊急番号と聴覚障害者向けの112
- Safety in the Netherlands — Xpat.nl:煙感知器と112
- Emergencies and help lines — The Hague International Centre:NL-Alert とサイレン、大使館
いずれも2026年10月27日に確認したものです。推奨品や警報の仕組み、調査の数値は更新されることがあるため、準備の前に Denk vooruit・NL-Alert・大使館の最新の情報を確認してください。
元記事はこちら
More than 4 in 10 Dutch took steps to prepare for disasters, such as war, last year — NL Times
よくある質問
- オランダ政府はどんな非常用の備えを勧めていますか?
- 政府の Denk vooruit は、停電・断水・ネットの停止が起きても最初の72時間を自宅で過ごせるよう、noodpakket(非常用の備え)を用意するよう勧めています。水は1人1日3リットル、日持ちする食品、電池式ラジオ、モバイルバッテリー、懐中電灯、救急箱、毛布、笛、現金、身分証のコピー、常用薬などが推奨品で、半年ごとに点検します。
- オランダの非常用の現金はいくら用意すればよいですか?
- Denk vooruit は、最初の72時間の目安として大人1人€70、子ども1人€30を挙げています。家計の研究機関 Nibud の試算にもとづく額で、ぴったり払えるよう紙幣と硬貨を混ぜておくよう勧めています。停電やサイバー攻撃でカード決済が止まる場面を想定したものです。
- 毎月第1月曜の正午に鳴るサイレンは何ですか?
- WAS(警報・警告システム)の試験で、毎月第1月曜の12時ちょうどに1分26秒鳴ります。祝日と5月4日は鳴りません。それ以外の時刻に鳴ったら、屋内に入り窓と扉を閉め、地域の公共放送ラジオや NL-Alert で情報を確認します。2026年6月、政府は2028年に廃止する方針を改め、新しいサイレン網を整える考えを示しました。
- NL-Alert を受け取るには登録やアプリが必要ですか?
- 登録もアプリも不要で、無料です。携帯電話の電源が入っていて電波があり、端末の緊急速報の受信設定が有効なら、その地域にいる人の端末に一斉に届きます。試験の配信は毎年6月と12月の正午ごろで、次回は2026年12月7日(月)です。国境近くに住む人などのために NL-Alert アプリもあります。
- 自宅が水害の想定区域か調べる方法はありますか?
- Rijkswaterstaat(公共事業・水管理庁)や各地の veiligheidsregio(安全地域)、水管理組合などが共同で運営する overstroomik.nl に住所を入れると、海・川・大きな湖があふれた場合に自宅付近の水がどの高さまで来うるかと、近くの乾いた場所を確認できます。英語版もあります。
- オランダに住む日本人は、備えとして何を登録しておくべきですか?
- 3か月以上住む日本人は、旅券法にもとづき在オランダ日本国大使館に在留届を出す義務があり、オンラインのORRネットで届け出られます。3か月未満の滞在や出張・旅行は外務省の「たびレジ」が対象です。届け出ておくと、緊急時に大使館からのメールを受け取れます。住所や家族構成が変わったら変更届も出します。
出典: NL Times