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IND の審査が遅れたら何ができるか|2026年10月、裁判所の強制金(dwangsom)廃止を上院が可決

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IND の審査が遅れたら何ができるか|2026年10月、裁判所の強制金(dwangsom)廃止を上院が可決

オランダで在留許可を申請し、受付確認書に書かれた期限を過ぎても何の連絡もない。在住者の間では珍しくない話です。知識移民(kennismigrant)のように数週間で決まる手続きもある一方、家族の呼び寄せや難民関連の手続きでは、待ち時間が年単位になることもあります。

起点にしたのは、在住者向け媒体 IamExpat の2026年10月16日の記事です。オランダ上院(Eerste Kamer、エールステ・カーメル)が、IND(Immigratie- en Naturalisatiedienst、移民帰化局)が決定期限に遅れたときに裁判所が科す強制金(dwangsom、ドゥワングソム)をなくす措置を可決した、という内容でした。この記事では、上院の公式発表、政府の発表、IND の案内ページ、官報まで確かめ、DutchNews・NL Times・DutchReview・Expatica・ACCESS・Xpat.nl・The Hague International Centre の情報と突き合わせました。

この記事が主に根拠にした情報

  • オランダ上院「Twee wetten aangenomen over terugkeer en vreemdelingenbewaring」(2026年10月13日)
  • 政府(Rijksoverheid)「Minister Van den Brink breidt mogelijkheden uit voor het afdwingen van terugkeer」(2026年10月13日)
  • IND「IND late with decision」(2026年10月23日更新)と「Judicial penalties and the IND」
  • 官報 Staatsblad 2025, 96(Wet herziening regels niet tijdig beslissen in vreemdelingenzaken)
  • DutchNews(2026年9月8日・10月14日)、NL Times(2026年9月7日・10月14日)の報道
この記事で分かること 答えの要点
何が決まったのか 裁判所の強制金の廃止を上院が可決。提訴と期限設定は残る(第1章)
いつから適用されるのか 施行日は勅令で決定。IND は10月16日以降の提訴を対象外と案内(第2章)
誰に関係するのか 公式発表は難民申請が中心。ただし政府と IND の書き方は広い(第3章)
遅れたら何ができるのか 期限の確認、催告、2週間後に提訴、裁判所が期限を設定(第4章)
申請中に働けるのか 期限内の延長申請なら、従前の条件で就労を続けられるのが原則(第6章)
日本とどう違うのか 日本は標準処理期間が目安。オランダは法定期限と催告・提訴の仕組み(第9章)

1. 2026年10月に何が決まったのか

上院が可決した2本の法律

2026年10月13日、オランダ上院は外国人の送還と収容に関する2本の法律を可決しました。1本は「Wet terugkeer en vreemdelingenbewaring(送還と外国人収容に関する法律、議案番号34.309)」、もう1本はその修正法案(novelle、ノヴェレ、議案番号35.501)です。強制金の廃止は、このうち修正法案のほうに下院(Tweede Kamer)で加えられた修正案として入っています。

上院の発表によると、この修正案は、IND が難民申請に期限内に決定しないとき、裁判所が IND に科すことのできる強制金をなくすものです。同じ内容は、上院が2026年4月に否決した「Asielnoodmaatregelenwet(難民緊急措置法)」にも入っていましたが、法案ごと否決されたため、SGP(改革派政党)があらためて修正案として出し直した経緯があります。

上院の法案ページでは、修正法案は2026年6月4日に下院で可決され、上院では10月13日に起立採決で可決されました。会派別では、ChristenUnie・CDA・SGP・D66・FVD・VVD・PVV・JA21・BBB・50PLUS などが賛成し、PRO・Volt・SP・PvdD などが反対しています。

政府と IND は「遅延の解消のため」と説明

移民・難民担当の Bart van den Brink 大臣(CDA)は、強制金について「破壊的な効果がある」と述べ、IND の滞留は「完全に手に負えなくなっている」と説明したと NL Times が報じています。IND の Rhoda Maas 長官も、強制金は圧力と費用と業務量を増やすだけで、決定を早めていないという立場です。

政府の発表は、強制金が財源を大きく圧迫していることも理由に挙げています。強制金をめぐる裁判には IND の職員が出廷する必要があり、その時間を審査に回したいという考えです。

反対側の主張

反対した会派は、強制金は遅延の結果であって原因ではない、ほかに IND を動かす手段がない、と主張しました。上院の発表には、PRO 会派の「原因に手を打つべきで、症状ではない」という趣旨の発言が載っています。

法的な疑問も出ています。DutchNews は、以前の廃止の試みが2022年に国務院(Raad van State)で EU 法に反するとして退けられたこと、難民支援団体 VluchtelingenWerk が今回の修正案も同じ理由で違法だと下院に伝えたことを報じています。法律家向けの情報を出している Stichting IPN も、裁判所が設定した期限を IND が守らなかったときに何が実効的な手段になるかは、今後の判例しだいだと指摘しています。

IND が払ってきた強制金の額

まず、強制金がどれくらいの規模だったかを見ておきます。IND 自身の年次報告と、2026年の報道の数字を並べました。

期間 支払額 出典
2024年(1年間) €36.8m IND 年次報告
2025年(1年間) €79m IamExpat・DutchNews・NL Times
2026年1〜7月 約€99m DutchNews(9月8日)
2026年9月まで €112m NL Times(10月14日)
2026年10月13日まで €112m超 IamExpat(10月16日)

2年で支払額が3倍に増え、2026年は10か月足らずで前年を上回りました。DutchNews によると、2026年の支払いは月あたり約1,400万ユーロで、2025年の月660万ユーロの倍以上のペースです。

2024年は3,680万ユーロ、2025年は7,900万ユーロ、2026年は10月13日までに1億1,200万ユーロを超えた。 2024年 €36.8m 2025年 €79m 2026年 €112m超
図1:IND が支払った強制金(2026年は10月13日まで)。出典:IND 年次報告2024、DutchNews、IamExpat。2026年10月24日確認

媒体によって数字の区切りが違う

数字を追うと、媒体によって期間の区切りがずれています。DutchNews は約9,900万ユーロを「2026年の最初の7か月」の額とし、NL Times の9月7日の記事は同じ9,900万ユーロを「上半期(6か月)」としています。2024年も、IND の年次報告は3,680万ユーロ、NL Times は「3,700万ユーロ弱」と丸めています。

この記事では、期間の区切りがはっきりしている IND の年次報告と、日付つきで書かれた報道を優先しました。どの数字を見ても、強制金の額が急に増えてきたことは共通しています。

2. 「施行前」か「もう始まった」か:日付の整理

可決と施行は別の日

オランダの法律は、両院で可決されたあと、国王の署名と官報(Staatsblad、スターツブラット)への掲載を経て施行されます。上院の法案ページは、修正法案の施行を「勅令で定める時点」とし、条文ごとに違う日にできると書いています。

起点の IamExpat の記事(10月16日)は、変更はまだ施行されておらず、政府は施行日を確認していない、進行中の案件にどう適用されるかも不明だと書いています。一方、NL Times は、大臣が1週間以内に実施する意向だと報じました。

IND の案内は「10月16日以降の提訴」を区切りにしている

ところが、IND の案内ページ(2026年10月23日更新)は、すでに次のように説明しています。裁判所が設定した期限を IND が守らなかった場合、裁判所が強制金を命じられるのは、2026年10月16日より前に提訴した人だけで、10月16日以降の提訴では強制金はつかない。すでに強制金の支払いを命じた判決は有効で、IND は支払う、という内容です。

本記事の確認時点(2026年10月24日)では、施行日を定めた官報の掲載は見つけられませんでした。官報の検索サイト officielebekendmakingen.nl で確認できしだい、日付は確定します。それまでは、IND の案内が示す「10月16日」を実務上の区切りとして意識しつつ、正式な施行日は官報で確かめるのが正確な理解です。

情報源 日付 施行についての記述
上院の法案ページ 2026年10月13日 勅令で定める時点に施行
NL Times 2026年10月14日 大臣は1週間以内に実施する意向
Stichting IPN 2026年10月14日 正式な施行を待つ必要がある
IamExpat 2026年10月16日 未施行。施行日は未確認
IND の案内 2026年10月23日更新 10月16日以降の提訴は強制金なし

表のとおり、10月16日を境に情報が更新されていった流れです。可決から施行まで数日しかないため、記事ごとに「書いた日」が違うことが、そのまま記述の違いになっています。

2009年に強制金の制度が始まり、2025年4月15日に行政上の強制金が廃止された。2026年6月4日に下院、10月13日に上院が裁判所の強制金の廃止を可決し、IND は10月16日以降の提訴を対象外と案内している。官報の施行日は未確認。 2009 強制金の制度が始まる 遅延の催告と提訴 2025.4 行政上の強制金を廃止 4月15日以降の催告 2026.6 下院が修正案を可決 6月4日 10.13 上院が可決 裁判所の強制金を廃止 10.16 IND が示す区切り この日以降の提訴は対象外 未確認 官報での施行日 勅令で定めるとされる
図2:強制金をめぐる時系列(点線は未確認)。出典:上院、IND、Staatsblad 2025, 96。2026年10月24日確認

進行中の案件はどうなるか

IND の案内によれば、すでに強制金を命じた判決はそのまま有効です。また、10月16日より前に提訴した案件では、裁判所が強制金を命じる余地が残ります。Stichting IPN も、新しい規定の施行前に提訴した場合は、従来の強制金つきの仕組みが続くと説明しています。

自分の案件がどちらに当たるかは、提訴した日、判決が出ているかどうか、正式な施行日の3点で決まります。弁護士に依頼している場合は、この3点を確認してもらうのが早道です。

3. 対象は難民申請だけか、居住許可全般か

公式の書き方が一致していない

在住の日本人にとって一番気になるのは、知識移民や家族の申請にも関係するのか、という点だと思います。ここは情報源によって書き方が違います。

上院の発表は「難民申請(asielaanvraag)」への不作為を挙げています。DutchNews と NL Times も、難民申請者への強制金の廃止として報じました。一方、政府の発表は「外国人法(vreemdelingenrecht、フレームデリンゲンレヒト)の分野の裁判所の強制金を廃止する」と、範囲を限定しない書き方です。IND の案内ページも、申請の種類を区別せずに「10月16日以降の提訴は強制金なし」と書いています。起点の IamExpat も、見出しで「permit decisions(許可の決定)」と広く表現しました。

情報源 対象の書き方
上院の発表 難民申請への不作為
DutchNews・NL Times 難民申請者への強制金
政府の発表 外国人法の分野の裁判所の強制金
IND の案内 申請の種類を区別していない
IamExpat 許可の決定全般(permit decisions)
Stichting IPN 難民申請者が中心。他の手続きは明示せず

食い違いがある以上、どちらかに決めつけるのは避けます。実務上は、知識移民・家族・延長などの申請でも、裁判所の強制金は期待できない前提で備えるのが安全です。正確な範囲は、官報に掲載される条文で確かめる必要があります。

もともと強制金は難民の手続きで多かった

範囲の議論とは別に、支払われてきた強制金の大半は難民の手続きに関係しています。IND の Judicial penalties and the IND は難民の決定について説明しており、DutchNews の報道も難民申請の6か月の期限を軸にしています。

一方、通常の在留許可(regulier、レフリール)の手続きでも、不作為の提訴そのものは行われてきました。裁判所の判例データベースには、在留許可の不作為をめぐる判決も載っています。家族や延長の申請で長く待たされている方にとっても、無関係な話ではありません。

4. 審査が遅れたときの仕組みの全体像

4つの段階で進む

IND の決定が遅れたときの流れは、期限の経過、催告、提訴、裁判所による期限の設定、の4段階です。この仕組み自体は今回の改正後も残ります。なくなるのは、最後の段階で IND が期限を守らなかったときの金銭の支払いです。

法定の決定期限が過ぎたら催告を送り、2週間たっても決定がなければ提訴し、裁判所が新しい期限を設定する。10月16日以降の提訴では、その期限を守らなくても強制金はつかない。 1. 期限経過 90日など 2. 催告 様式9001 3. 提訴 2週間後 4. 期限設定 裁判所 10月16日以降の提訴:期限を過ぎても強制金なし
図3:決定が遅れたときの流れ。出典:IND「IND late with decision」(2026年10月23日更新)。2026年10月24日確認
段階 やること 期間・条件 根拠
1. 期限の確認 受付確認書で決定期限を確かめる 通常の在留許可は90日 外国人法・IND
2. 催告 様式9001を郵送か安全なメールで送る 期限経過後 IND
3. 提訴 地方裁判所に不作為の提訴 催告から2週間後 一般行政法・IND
4. 期限の設定 裁判所が IND に決定の期限を命じる 難民では8週+8週の例 IND
5. 強制金 期限を守らなければ支払い 10月16日以降の提訴は対象外 IND

表の5段目だけが変わり、1〜4段目はこれまでどおり使えます。逆に言えば、1〜4段目を正しく踏まないと、裁判所に期限を設定してもらうところまでたどり着けません。

法定の決定期限(beslistermijn)

オランダでは、IND が決定するまでの期限(beslistermijn、ベスリステルメイン)が法律で決まっています。期限は申請の種類で違い、受付確認書(ontvangstbevestiging)に書かれています。

申請の種類 法定の決定期限 出典
知識移民(kennismigrant) 90日 IND
パートナー・家族(通常) 90日 IND
難民の在留許可を持つ人の家族 9か月 IND
通常の在留許可の延長 90日 IND
永住許可・EU長期在住者 6か月 IND
難民申請 6か月(延長あり) 外国人法42条

IND は、書類が足りないときや追加の調査が必要なときに期限を延ばすことができ、その場合は通知が届きます。IND の申請後の案内によると、延長は最大6か月です。2025年4月の法改正(Staatsblad 2025, 96)では、正当な理由がある例外的な場合に、期限を最大3か月延ばせる規定も入りました。書類を求められている間は期限が止まり、出さなければ申請は却下されます。

催告(ingebrekestelling)の出し方

期限を過ぎたら、まず催告(ingebrekestelling、インヘブレーケステリング)を送ります。IND に「2週間以内に決定してください」と求める書面です。IND の案内によると、手順は次のとおりです。

  • 様式9001(オランダ語のみ)を使う
  • 送り方は郵送(Ter Apel の IND の私書箱)か、IND のサイトにある安全なメール窓口のどちらか。件名に案件番号か V番号(V-nummer)を入れる
  • それ以外の方法で送った催告は無効で、審査されない
  • 弁護士などの代理人が送る場合は、様式で委任する。オランダの弁護士でない場合は委任状7645も付ける

ここで多い失敗は、期限が来る前に送ってしまうことと、普通のメールや問い合わせフォームで送ってしまうことです。裁判では、催告が早すぎないか、正しい宛先に届いたかが争点になることがあります。期限の日付と送付方法は、念入りに確かめてください。

不作為への提訴(beroep niet tijdig beslissen)

催告から2週間たっても決定がなければ、地方裁判所に不作為の提訴(beroep niet tijdig beslissen、ベループ・ニート・タイディフ・ベスリッセン)ができます。手続きは rechtspraak.nl から行い、案内はオランダ語のみです。

2025年4月の法改正で、不作為の提訴はあらためて外国人法のすべての手続きで使えるようになりました(上院の法案35.749のページ)。裁判所は、提訴に理由があれば、IND がいつまでに決定すべきかを命じます。IND の説明では、難民の案件では面接の日程に約8週間、決定にさらに約8週間を設定することが多いとされています。

強制金(dwangsom)の仕組み

これまでは、裁判所が設定した期限を IND が守らなければ、裁判所が命じた強制金が申請者に支払われました。IND の説明では、強制金は案件ごとに上限が決められ、初回の提訴では通常€15,000、場合によって€7,500、強い圧力が必要なときは€37,500が上限です。

1日あたりの額は情報源で違います。DutchNews は通常1日€100(上限€15,000)、強い圧力が必要な場合は1日€250(上限€37,500)と報じました。一方、行政裁判官の協議会(LOVB)が2026年5月21日付で出した勧告は、1日€50・上限€15,000を目安として示しているとされます。勧告は時期によって改められ、個々の裁判官を拘束しないため、案件によって額が違うのは自然なことです。

提訴は原則として何度でもでき、2回目以降は強制金が高くなる傾向がありました。DutchNews によると、2024年初めから2026年5月11日までに143,190人が遅延を理由に提訴し、そのうち16,570人は2回以上勝訴しています。2026年7月29日までに、合計€80,000を超える強制金を受け取った人が46人、€100,000を超えた人が9人いました。

5. 2つの強制金:すでになくなったものと、今回なくなるもの

行政上の強制金は2025年4月15日に廃止済み

強制金には2種類ありました。ひとつは、催告から2週間たっても決定がないと自動的に発生する「行政上の強制金(bestuurlijke dwangsom)」です。もうひとつが、提訴後に裁判所が命じる「裁判所の強制金(rechterlijke dwangsom)」です。

行政上の強制金は、2025年4月2日の法律(Wet herziening regels niet tijdig beslissen in vreemdelingenzaken)で廃止されました。IND のニュースによると、難民の手続きではそれ以前から適用されておらず、2025年4月15日以降に受け取った催告では、通常の在留許可でも支払われなくなりました。古い記事にある「1日€20から€40、上限€1,260」といった金額は、この行政上の強制金の話です。2018年ごろの DutchReview の記事などに出てきますが、いまは当てはまりません。

項目 行政上の強制金 裁判所の強制金
発生のきっかけ 催告から2週間で自動的に 裁判所の期限を守らないとき
提訴の必要 不要 必要
通常の在留許可 2025年4月15日以降の催告で廃止 10月16日以降の提訴は対象外(IND)
難民申請 それ以前から適用なし 今回の改正で廃止
催告の役割 強制金の発生条件 提訴の前提条件として残る

この表から分かるのは、催告は「お金をもらうための書類」から「提訴するための前提」に役割が変わった、ということです。金銭が出なくなっても、催告を送る意味はなくなっていません。

2025年4月以前は行政上の強制金、裁判所の強制金、提訴と期限設定のすべてがあった。2025年4月から2026年10月までは行政上の強制金がなくなった。2026年10月16日以降は提訴と期限設定だけが残る。 〜2025.4 〜2026.10 10.16〜 行政の強制金 あり なし なし 裁判所の強制金 あり あり なし 提訴と期限設定 あり あり あり
図4:通常の在留許可で、時期ごとに残る手段(難民申請の行政上の強制金はそれ以前から適用なし)。出典:IND、IND の案内。10月16日以降の対象範囲は官報の条文で要確認。2026年10月24日確認

強制金がなくなって変わること、変わらないこと

変わるのは、IND が裁判所の期限を守らなかったときに、申請者の手元にお金が入らなくなることです。弁護士費用の一部を強制金でまかなう、という考え方は成り立たなくなります。不作為の提訴を何度も重ねる動機も弱まります。

変わらないのは、裁判所が「いつまでに決めなさい」と命じられることです。裁判所の命令を IND が守らなかった場合にどうなるかは、Stichting IPN が指摘するとおり、今後の判例で形づくられていく部分です。裁判所の費用の負担(訴訟費用の補償)など、強制金以外の扱いがどうなるかも見ていく必要があります。

6. 申請中の滞在と就労の扱い

期限内の延長申請なら、決定まで滞在できる

在住者にとって、強制金よりも切実なのは「待っている間に暮らしと仕事が止まらないか」です。ここは、申請を期限内に出したかどうかで大きく変わります。

IND の延長の案内によると、延長は在留期限の3か月前から申請できます。期限内に申請していれば、決定が出るまでオランダにとどまり、いまの在留カードに書かれた就労の条件のまま働き続けられるのが原則です。知識移民の場合、雇用主が期限内に延長を申請していれば、期限の切れたカードのままでも仕事を続けられると IND は案内しています。

期限を過ぎてからの申請は「空白」に注意

在留期限を過ぎてしまった場合、期限から4週間以内に申請すれば空白は生じないと IND は案内しています。4週間を過ぎると、遅れた理由を書いた手紙を添える必要があり、在留の空白(gap)が生じることがあります。2年以上たっていると延長はできず、新規の申請になり、MVV(暫定滞在許可)が必要になる場合もあります。

ACCESS の解説は、この空白が永住許可や国籍取得に必要な「連続5年」の数え直しにつながると注意しています。雇用主の手違いや病気でも、空白は原則として許されないそうです。カードに書かれた期限は「その日まで有効(valid till)」で、その日を含まない点にも気をつけてください。

在留中であることを示すステッカー

カードの期限が切れたあと、雇用主や空港で在留資格を示す必要があるときは、IND の窓口を予約して、パスポートにステッカー(verblijfsaantekening、フェルブライフスアーンテーケニング)を貼ってもらえます。ステッカーには、手続き中にオランダにとどまれること、働けるかどうかが書かれます。

状況 滞在 就労 注意点
期限内に延長を申請 決定まで可 従前の条件で可 ステッカーで証明できる
期限後4週間以内に申請 空白なしの扱い 個別に確認 早めに申請する
期限後4週間を超えて申請 空白が生じうる 個別に確認 理由書が必要
期限後2年以上 延長不可 不可 新規申請・MVV
初回申請(MVV経由) 入国後に在留カード 決定通知の条件による 90日以内に入国

この表のとおり、決定が遅れて困るかどうかは、申請の「出し方」でほぼ決まります。期限内に出しておけば、決定が遅れても暮らしは止まりにくい仕組みです。

旅行と再入国

申請中に日本へ一時帰国したい、という相談も多くあります。期限の切れたカードだけでは再入国で困ることがあるため、渡航前にステッカーや再入国用の書類の要否を IND で確認してください。IND の案内は申請の種類によって違い、この記事で一律に答えることはできません。

7. 立場ごとの備え

知識移民(kennismigrant)

知識移民は、認定スポンサー(erkend referent)の雇用主が申請する手続きです。IND の知識移民の案内では、法定の決定期限は90日、申請手数料は€423で雇用主が口座振替で払います。実務では早く決まることが多い手続きですが、書類の不備があれば期限は延びます。

延長では、雇用主の人事担当者が在留期限を管理しているかを確かめておくことが大事です。延長は雇用主が出す手続きなので、本人が気づかないうちに期限が迫っていた、ということが起きます。転職と延長が重なる時期は、特に注意してください。

家族の呼び寄せ・パートナー

IND のパートナーの案内では、法定の決定期限は90日、手数料は€254です。呼び寄せる側が難民の在留許可を持っている場合は、法定期限が9か月になります。IND の2024年の年次報告では、難民の家族呼び寄せの平均待ち時間は70〜84週、待っている人は65,000人を超えていました。

家族が日本にいる段階で申請する場合、MVV と在留許可を同時に申請します。決定が出たら90日以内に入国する必要があるため、学校や仕事の区切りとの調整も必要です。

延長・永住・国籍

永住許可の法定期限は6か月です。永住や国籍を考えている方は、延長のたびに空白が生じないことが、何より大切になります。前の章のとおり、空白は「連続5年」の数え直しにつながります。

立場 法定期限 遅れたときに困ること 備え
知識移民(新規) 90日 入社日がずれる 書類を一度でそろえる
知識移民(延長) 90日 カードの期限切れ 雇用主と期限を共有
パートナー・家族 90日 家族の渡航が遅れる 学期と仕事の区切りに余裕
難民の家族呼び寄せ 9か月 長期の離ればなれ 支援団体・弁護士に相談
永住許可 6か月 手続きの見通しが立たない 現在の許可を切らさない

立場によって「遅れて困ること」が違うため、催告や提訴に進むかどうかの判断も変わります。急ぎの事情がある場合は、強制金の有無にかかわらず、弁護士に早めに相談する意味があります。

8. 待ち時間はどれくらい長いのか

難民の手続きの滞留

今回の改正の背景には、難民の手続きの滞留があります。DutchNews によると、難民申請の平均待ち時間は2025年に67週に達しました。IND の年次報告では2024年は53週でした。DutchReview は、2026年6月時点で54,000人以上が IND の決定を待っていたと伝えています。NL Times は、EU の移民協定の新制度が始まった2026年6月12日より前に申請した人は、最大3年待つことになると報じました。

裁判の件数も増えていた

IND の年次報告によると、2024年に受け取った催告は約30,000件、扱った裁判は約68,000件で、2022年の35,390件からほぼ倍増しています。NL Times は、ここ数年、不作為の提訴が1営業日あたり200件を超えていたと報じています。

指標 値 時点 出典
難民申請の平均待ち時間 53週 2024年 IND
難民申請の平均待ち時間 67週 2025年 DutchNews
決定を待つ人 54,000人以上 2026年6月 DutchReview
難民の家族呼び寄せの待ち時間 70〜84週 2024年 IND
IND が扱った裁判 約68,000件 2024年 IND
受け取った催告 約30,000件 2024年 IND

この表の数字の多くは難民の手続きのものです。知識移民や通常の家族の申請が同じだけ遅れているわけではありません。ただ、同じ IND の人員で処理しているため、全体の滞留が通常の手続きに影響することはありえます。

9. つまずきやすいところ

よくある誤解

制度が短い期間に2回変わったため、古い情報と新しい情報が混ざりやすくなっています。よく見かける誤解をまとめました。

誤解 実際
遅れたら自動的にお金がもらえる 行政上の強制金は2025年4月15日以降の催告で廃止
強制金がなくなったので提訴できない 不作為の提訴と期限の設定は残る
期限が来る前に催告しておけば早い 期限経過前の催告は争われる
催告は普通のメールで送れる 郵送か IND の安全なメールのみ有効
在留カードが切れたら働けない 期限内の延長申請なら従前の条件で就労可
法定期限は必ず守られる 書類の要求中は止まり、延長もある

表の上2つは、今回の改正の前後で正反対の誤解が生まれやすいところです。「お金は出ないが、手続きは残る」と覚えておくと整理しやすくなります。

書類の要求に答えないと却下される

IND から追加書類を求められたら、指定の期限までに出してください。出さなければ申請は却下されます。決定が遅いと感じていても、実は書類待ちで期限が止まっていた、ということもあります。IND からの手紙は、オランダ語でも必ず中身を確かめてください。

10. 日本の在留審査と比べる

標準処理期間は「目安」、オランダは「法定期限」

日本の出入国在留管理庁は、手続きごとに標準処理期間を示しています。在留期間更新は2週間〜1か月、在留資格変更は1〜2か月、在留資格認定証明書は1〜3か月です。標準処理期間は行政手続法にもとづく目安で、超えても金銭の支払いはありません。

オランダは、外国人法で決定期限を定め、期限を過ぎたら催告と提訴で守らせる仕組みです。これまではそこに強制金が付いていましたが、今回の改正でその部分がなくなります。

申請中の滞在:日本の特例期間との違い

日本には特例期間の制度があります。在留期間の満了日までに更新や変更を申請していれば、処分が出る時か、満了日から2か月が経過する日のどちらか早い時まで、従前の在留資格で在留し、従前の活動を続けられます。在留カードの裏面に申請中であることが記載されます。

オランダでは、期限内に延長を申請すれば決定まで滞在できるのが原則で、日本のような「2か月」の上限は設けられていません。そのかわり、パスポートのステッカーで在留中であることを示します。

項目 日本 オランダ
審査期間の性格 標準処理期間(目安) 法定の決定期限
更新の審査期間 2週間〜1か月 90日(延長あり)
申請できる時期 満了の3か月前から 期限の3か月前から
申請中の滞在 特例期間(最長2か月) 決定まで(期限内の申請)
申請中の証明 在留カード裏面の記載 パスポートのステッカー
遅れたときの手段 不作為の違法確認・義務付け訴訟 催告→不作為の提訴
遅延への金銭 なし 廃止の方向(10月16日以降)

日本で遅れに対抗するには、行政事件訴訟法の不作為の違法確認訴訟や義務付け訴訟を使うことになり、ハードルは高めです。外国人の出入国に関する処分は行政不服審査法の審査請求の対象から外されています(同法7条1項10号)。オランダは催告という書面1枚から裁判所に進める点で、申請者が動ける手段が具体的に用意されているといえます。強制金がなくなっても、その違いは残ります。

「遅れ」の感じ方の違い

日本の更新は数週間で終わることが多く、待たされる感覚は少ないかもしれません。オランダでは、知識移民のように早い手続きと、家族や難民関連のように長い手続きの差が大きく、同じ「在留許可」でも経験がまったく違います。周りの在住者の話がそのまま自分に当てはまるとは限らない点に注意してください。

11. 日本から来る家族への伝え方

「申請すればすぐ」とは伝えない

家族を呼び寄せるとき、日本の家族は日本の在留審査や査証の感覚で考えがちです。「90日が法定期限で、書類の追加があれば延びる。決定後90日以内に入国する」という流れを、最初に共有しておくと行き違いが減ります。

伝えておきたいこと

  • 決定の目安は受付確認書に書かれる期限で、早まる保証はない
  • 決定が出るまで、引っ越しや退職、学校の手続きを確定させない
  • 遅れたら催告と提訴という手段はあるが、お金が出るわけではない
  • 日本の家族の書類(戸籍謄本、アポスティーユ、翻訳)は早めにそろえる
  • 決定後は MVV を受け取り、90日以内に入国する
日本の家族が気にすること 伝え方
いつ来られるのか 受付確認書の期限が目安。延びることもある
仕事はいつ辞めればよいか 決定通知が出てから確定させる
遅れたらどうするのか 催告と提訴はできる。弁護士に相談する
補償はあるのか 強制金は廃止の方向。期待しない
何を準備すればよいか 戸籍などの公文書と翻訳を早めに

家族が日本にいる段階で一番の負担になるのは、見通しが立たないことです。期限の日付を共有し、その日を過ぎたら何をするかを先に決めておくと、待つ時間の不安が少し軽くなります。

12. 明日やること(手順)

  1. 手元の在留カードの期限を確かめ、3か月前の日付をカレンダーに入れる
  2. 申請中の手続きがあれば、受付確認書の決定期限を確かめて記録する
  3. IND から追加書類の依頼が来ていないか、郵便と MijnIND を確認する
  4. 期限を過ぎていたら、様式9001で催告を送る(郵送か IND の安全なメール)
  5. 催告の送付日と、2週間後の日付を記録する
  6. 2週間たっても決定がなければ、提訴を弁護士と相談する
  7. カードの期限が切れたら、IND の窓口を予約してステッカーを貼ってもらう
  8. 雇用主の人事担当者と、在留期限と延長申請の状況を共有する

13. ケースで考える(架空の例)

ここからは、制度の当てはめ方を示すための架空の例です。実在の人物ではありません。

ケース1:知識移民の延長が遅れているAさん

デン・ハーグの企業で働くAさんは、雇用主が在留期限の2か月前に延長を申請しました。90日を過ぎても決定がなく、カードの期限も切れています。期限内に申請しているので、従前の条件で働き続けられます。まず IND の窓口でステッカーを貼ってもらい、雇用主と共有します。90日を過ぎたので、催告を送る選択肢もあります。

ケース2:日本から妻と子を呼び寄せるBさん

Bさんは、日本にいる妻と子のために MVV と在留許可を申請しました。子の入学時期に合わせたいので、決定が遅れると困ります。期限の90日を過ぎたら催告、2週間後に提訴という流れを知っておき、日本の家族には「決定が出るまで仕事や学校を確定させない」と伝えています。

ケース3:10月16日より前に提訴していたCさん

Cさんは家族の申請が遅れ、2026年9月に不作為の提訴をしていました。IND の案内によれば、10月16日より前の提訴なので、裁判所が強制金を命じる余地が残ります。すでに強制金つきの判決が出ていれば、その判決は有効です。弁護士に、正式な施行日との関係を確かめてもらいます。

ケース 状況 取れる手段 強制金
Aさん 期限内の延長、決定待ち ステッカー・催告 期待できない
Bさん 家族の新規申請 催告→提訴 期待できない
Cさん 10月16日より前に提訴 判決を待つ 余地あり(IND 案内)

3つのケースとも、強制金の有無で取れる手段が大きく変わるわけではありません。違いが出るのは、申請の出し方と、記録の取り方です。

14. やってはいけないこと

やってはいけないこと 理由
在留期限ぎりぎりに延長を出す 空白が生じると連続5年が数え直しになる
決定期限の前に催告を送る 早すぎる催告は争われる
普通のメールで催告を送る 郵送か安全なメール以外は無効
古い記事の強制金の額を当てにする 行政上の強制金は廃止済み
追加書類の依頼を放置する 申請が却下される
決定前に退職・引っ越しを確定させる 決定が遅れると生活が止まる

どれも、強制金の廃止とは関係なく起きる失敗です。制度が変わる時期こそ、基本の手順を確実に踏むことが大事になります。

15. チェックリスト

  • 在留カードの期限と、その3か月前の日付を把握している
  • 申請中の手続きの受付確認書を保管し、決定期限を記録した
  • 雇用主(スポンサー)と延長の担当者・時期を共有した
  • IND からの手紙と MijnIND を定期的に確認している
  • 催告の様式9001と送り方(郵送・安全なメール)を確認した
  • 期限が切れたときのステッカーの予約方法を知っている
  • 日本の家族に、決定までの流れと期限を伝えた
  • 相談できる移民法の弁護士か窓口の連絡先を控えた

16. まとめ

  • 上院は2026年10月13日、IND の遅延に対する裁判所の強制金の廃止を可決した
  • 施行日は勅令で定めるとされ、10月16日の報道時点では未定だった。IND は10月16日以降の提訴を対象外と案内しているが、官報の掲載は10月24日時点で未確認
  • 対象は、上院は難民申請と説明し、政府と IND はより広く書いている。どの申請でも強制金は期待しないのが安全
  • 行政上の強制金は2025年4月15日以降の催告で廃止済みで、古い記事の金額は当てはまらない
  • 催告、不作為の提訴、裁判所による期限の設定は残る
  • 期限内に延長を申請すれば、決定まで従前の条件で滞在・就労できるのが原則
  • 日本の標準処理期間や特例期間とは仕組みが違うため、家族には期限と流れを具体的に伝える

この記事は2026年10月24日時点の公開情報をもとにした一般的な解説で、法的助言ではありません。個別の案件は、移民法の弁護士(advocaat)や法律相談窓口の Juridisch Loket にご相談ください。

参考にした情報源

公的機関・一次情報

在住者向け媒体・報道

いずれも2026年10月24日に確認したものです。施行日と対象範囲は、官報に掲載される条文で確定します。手続きの前に IND の最新の案内を確認してください。


元記事はこちら

Dutch Senate ends IND fines for late permit decisions — IamExpat

よくある質問

IND が決定期限を過ぎても何も言ってこない場合、どうすればよいですか?
まず受付確認書(ontvangstbevestiging)で期限を確かめ、期限を過ぎていれば様式9001で催告(ingebrekestelling)を郵送か IND の安全なメール窓口で送ります。催告から2週間たっても決定がなければ、裁判所に不作為の提訴ができ、裁判所が IND に新しい期限を設定します。
強制金(dwangsom)がなくなっても、裁判所に訴えることはできますか?
できます。上院が可決した改正でなくなるのは、裁判所が設定した期限を IND が守らなかったときの金銭の支払いだけです。不作為への提訴と、裁判所による決定期限の設定は残ります。
強制金の廃止はもう施行されていますか?
上院の可決は2026年10月13日で、施行日は勅令で定めるとされています。IamExpat は10月16日時点で施行日未定と報じましたが、IND の案内(10月23日更新)は2026年10月16日以降の提訴では強制金がつかないと説明しています。官報の掲載は2026年10月24日時点で確認できませんでした。
対象は難民申請だけですか?知識移民や家族呼び寄せにも関係しますか?
上院の公式発表は難民申請(asielaanvraag)の不作為を挙げていますが、政府の発表は「外国人法の分野の裁判所の強制金」と広く書き、IND の案内も申請の種類を区別していません。知識移民や家族の申請でも強制金は期待できないと考えて準備するのが安全です。
延長申請の審査中に在留カードの期限が切れたら、働けなくなりますか?
期限内に延長を申請していれば、決定が出るまで従前の就労の条件で働き続けられるのが原則です。IND の窓口で予約し、パスポートに在留中であることを示すステッカー(verblijfsaantekening)を貼ってもらうと、雇用主や旅行時の証明になります。
日本の在留審査とは何が違いますか?
日本の標準処理期間は目安で、遅れても金銭の支払いはありません。オランダは法律で決定期限を定め、催告と提訴で期限を守らせる仕組みです。日本には在留期間満了後も最長2か月とどまれる特例期間がありますが、オランダは期限内の申請で決定まで滞在できる扱いです。

出典: IamExpat

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