毎年9月の第3火曜日、デン・ハーグでは国王が馬車で議会へ向かい、翌年の政府方針を読み上げます。Prinsjesdag(プリンセスダッハ、王子の日)と呼ばれる行事です。同じ日に財務大臣が、翌年の予算書 Miljoenennota(ミルユーネノータ、予算覚書) と税制の法案を議会に提出します。
2026年は9月15日がその日でした。在住者向けの媒体には「税金が上がる」「手当が変わる」といった見出しが並びましたが、読み比べると数字が少しずつ違います。しかも、発表された内容の多くはまだ議会で審議中の案です。すでに法律で決まっていたことと、今回初めて示された案が、同じ記事に並んでいることも珍しくありません。
この記事は、The Hague International Centre の解説「Prinsjesdag unpacked: what it means for internationals」を起点に、IamExpat・NL Times・DutchReview・Expatica・ACCESS の記事と、政府(Rijksoverheid)、手当の窓口(Dienst Toeslagen)、経済政策分析局(CPB)の一次資料を突き合わせて整理したものです。政治的な評価には立ち入らず、暮らしに関わる制度の変更を「確定」「案」「先送り」「撤回」に分けて書きます。
この記事が主に根拠にした情報
- The Hague International Centre「Prinsjesdag - Budget Day plans for 2027」(2026年9月16日)
- Rijksoverheid の Belastingplan 2027・医療分野のニュース(2026年9月15日)
- Dienst Toeslagen「Vermogensgrens gaat omlaag…」(2026年10月7日)
- CPB「September projection 2026(MEV 2027)」
| この記事で分かること | 答えの要点 |
|---|---|
| 予算案はいつ確定するのか | 下院が11月、上院が12月に審議。施行の多くは2027年1月1日 |
| 所得税は上がるのか | 税率は上がる形。ただし労働控除も増え、影響は人による(第3章) |
| 30%ルールはどうなるのか | 27%化は法律で確定済み。適用開始年で扱いが3つに分かれる(第4章) |
| 医療保険はいくら上がるのか | 自己負担400ユーロ、保険料は月169ユーロ前後の見込み(第5章) |
| 手当で注意すべきことは | 資産上限が単身で約2万7,000ユーロ下がる(第6章) |
| 年内に何をすればよいか | 保険の見直し、手当の見込み額の更新、給与明細の確認(第15章) |
1. Prinsjesdag と予算案の仕組み
最初に、9月に何が発表され、いつ決まるのかを押さえておきます。ここを知っておくと、ニュースの見出しに振り回されにくくなります。
Prinsjesdag の当日には、国王が読み上げる施政方針演説 Troonrede(トローンレーデ、玉座の演説) と、予算書・税制法案がまとめて公表されます。英語の在住者向け非営利団体 ACCESS の解説によると、演説は通常は国会議事堂内の騎士の間で行われますが、改修工事のため近くの劇場 Koninklijke Schouwburg で開かれています。
| 文書 | 中身 | 在住者にとっての意味 |
|---|---|---|
| Troonrede | 政府の1年の方針を国王が読む演説 | 方向性は分かるが、金額はほぼ出ない |
| Miljoenennota | 翌年の予算全体の説明書 | 歳出・歳入の全体像と購買力の見通し |
| Belastingplan 2027 | 税制改正の法案一式 | 税率・控除・30%ルールなど。可決が必要 |
| CPB の見通し(MEV) | 独立機関による経済予測 | 物価・購買力・失業率の前提 |
確定までの流れ
政府のニュースリリース自体が、「両院の同意を得て初めて確定する」と明記しています。税制の法案は下院で審議・修正・採決されたあと、上院に送られます。上院の審議状況は Eerste Kamer の法案ページ(37022 Belastingplan 2027)で追えます。
図のとおり、年末までの3か月に「審議」と「生活側の準備」が重なります。保険料と手当の通知は、法案の採決を待たずに届く点に注意してください。
連立与党は下院・上院のどちらでも過半数を持たず、The Hague International Centre と NL Times は予算案が変わる可能性を指摘しています。2026年秋は野党との調整で数字が動きやすい年です。
2. 全体像:確定・案・先送り・撤回
報道を読み比べると、性質の違う4種類の項目が混ざっています。ここで一度、地図を作っておきます。
区分の基準は次のとおりです。確定は法律や政令ですでに決まっているもの、案は2027年予算案・税制案で新たに示され審議中のもの、先送りは予定されていたが時期が延びたもの、撤回は予定されていたが取りやめになったものです。
同じ内容を、施行時期と根拠つきの表にまとめます。
| 項目 | 区分 | 時期 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 30%ルールの上限を27%に | 確定 | 2027年1月1日 | Belastingplan 2025(成立済み) |
| 16〜20歳の最低賃金の割合を引き上げ | 確定 | 2027年1月1日 | 政府決定(2026年4月発表) |
| 所得税率・労働控除の変更 | 案 | 2027年1月1日 | Belastingplan 2027 |
| 医療保険の自己負担を400ユーロに | 案 | 2027年1月1日 | 保健省の予算案 |
| 手当の資産上限の引き下げ | 案(準備中) | 2027年1月1日 | Dienst Toeslagen が通知を準備 |
| Box 3(資産課税)の新制度 | 先送り | 上院で2027年春まで保留 | 報道 |
| 失業手当(WW)の期間短縮 | 先送り | 2029年へ | 報道 |
| 公的年金(AOW)年齢の前倒し | 撤回 | — | 報道 |
この表で「案」に入っているものは、12月の上院採決までに数字が変わる可能性があります。逆に「確定」の2つは、予算審議の結果に左右されません。
3. 所得税(box 1):税率は上がるのか下がるのか
在住者向け媒体で最も表現が割れたのが、給与にかかる所得税です。「税率が下がる」と書いた記事と、「税率が上がる」と書いた記事の両方がありました。
「0.06ポイント引き下げ」と「税率上昇」の両方が正しい理由
政府のニュースリリースは、購買力対策の一部として第1・第2区分の税率をそれぞれ0.06ポイント下げると書いています。The Hague International Centre と IamExpat もこの点を紹介しました。
一方、NL Times は第1区分が35.75%から36.23%へ、第2区分が37.56%から38.16%へ上がると報じています。これは、以前から予定されていた税率の引き上げ(医療保険料の補填の財源など)と、今回の0.06ポイントの引き下げを合わせた結果です。IamExpat も「0.06ポイントの引き下げは、予定されていた引き上げに相殺される」と補足しています。
| 区分 | 2026年の税率 | 2027年の案 | 差 |
|---|---|---|---|
| 第1区分 | 35.75% | 36.23% | +0.48ポイント |
| 第2区分 | 37.56% | 38.16% | +0.60ポイント |
| 最高税率区分 | 49.50% | 49.50% | 変更なし |
2026年の区分は、第1区分が38,883ユーロまで、第2区分が78,426ユーロまでです(Rijksoverheid)。2027年案の第1区分の上限は、法案では39,247ユーロとされる一方、NL Times は約39,200ユーロと丸めて書いています。最高税率の入り口は78,426ユーロのまま据え置き(物価連動なし)と報じられています。
労働控除(arbeidskorting)は増える
税率が上がる分を打ち消すのが、働いている人の税額を減らす arbeidskorting(アルバイツコルティング、労働控除) です。政府はこれを173ユーロ増やすとしています。控除の最大額は5,685ユーロから5,929ユーロへ増えると報じられています。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 労働控除の増額 | 173ユーロ(購買力対策分) | Rijksoverheid |
| 労働控除の最大額 | 5,685→5,929ユーロと報道 | 業界紙の報道 |
| 購買力対策の総額 | 15億ユーロ(低・中所得向け) | Rijksoverheid |
| 8万ユーロ超の層への増税 | 合計7億5,000万ユーロ | THIC・IamExpat |
| 働く世帯全体の負担増 | 58億ユーロと報道 | NL Times |
最後の2行は、同じ「増税額」に見えて対象も期間も違う数字です。前者は高所得層への物価連動停止(いわゆる「ブラケット・クリープ」)の効果、後者は働く人全体の負担増を足し上げたものとされています。比べて「どちらが正しいか」を判断する種類の数字ではありません。
所得の水準ごとの見え方
IamExpat は、年収8万ユーロ超の国際的な住民の購買力は0.2%程度下がる見込みと書いています。ただしこれは平均的な見込みで、給与の改定率、家族構成、30%ルールの有無で個人の結果は大きく変わります。
4. 30%ルール(expatregeling):27%化は確定済み
日本から駐在や現地採用で来た人の多くに関わるのが、30%ルールです。条件を満たす外国人の高度人材は、給与の一部を非課税の手当として受け取れます。オランダ語では expatregeling(エクスパットレヘリング、国外人材制度) と呼ばれます。
今回の予算案ではなく、2024年に決まった変更
The Hague International Centre は、2027年1月1日から上限が27%になることを「前年の予算計画の一部」として紹介しています。政府の事業者向けサイト Ondernemersplein は、これが Belastingplan 2025(官報 Staatsblad 2024, 434)ですでに成立した法律だと明記しています。
かつて議論された「30%→20%→10%」の段階的な縮小は実施されません。The Hague International Centre もこの点をはっきり書いています。
適用を受けた時期で扱いが3つに分かれる
Rijksoverheid の制度ページは、適用開始の時期ごとに次の表を示しています。
| 適用を受けた時期 | 2025〜2026年 | 2027年以降 |
|---|---|---|
| 2023年12月31日まで | 30%・現行の給与基準 | 30%・現行の給与基準 |
| 2024年中 | 30%・現行の給与基準 | 27%・現行の給与基準 |
| 2025年1月1日以降 | 30%・現行の給与基準 | 27%・新しい給与基準 |
自分がどの行に当たるかは、Belastingdienst(税務当局)から届いた適用決定の日付で確かめられます。会社の人事が手続きをした場合は、人事に決定通知の写しをもらっておくと安心です。
給与基準と上限額
| 項目 | 2026年 | 2027年 |
|---|---|---|
| 給与基準(一般) | 48,013ユーロ | 50,436ユーロ(指数化前) |
| 給与基準(30歳未満・修士) | 36,497ユーロ | 38,388ユーロ(指数化前) |
| 非課税の上限の基準となる給与 | 262,000ユーロ | 273,000ユーロと報道 |
| 非課税にできる上限額 | 78,600ユーロ(30%) | 73,710ユーロ(27%)と報道 |
2027年の給与基準は物価に合わせて毎年指数化されるため、実際の額は上の数字より高くなります。確定額は年末から年初にかけて Belastingdienst が公表します。
30歳未満・修士の基準は、Ondernemersplein が38,388ユーロ、IamExpat と給与専門誌 Salaris Vanmorgen が38,338ユーロと、媒体によって50ユーロ食い違っています。この記事では政府サイトの38,388ユーロを表に載せましたが、境界付近の給与の人は確定額で確認してください。
給与基準は「非課税手当を引いた後」で判定する
IamExpat の解説が強調しているのは、給与基準が非課税手当を差し引いた後の課税給与に対して適用される点です。額面が基準を少し上回るだけだと、27%を満額使えないことがあります。
古い情報が残っているページに注意
Expatica の 給与・税金の計算ページは、2027年から27%になると書く一方で、新規申請者には「30/20/10」の段階的な縮小が当てはまるという説明も残しています(2026年10月21日確認)。これは現在の制度とは食い違います。計算ツールの結果を使う前に、前提の説明が最新かを確認してください。
5. 医療保険:自己負担は400ユーロ、保険料は月169ユーロ前後
オランダでは住民登録した人に基本医療保険(basisverzekering)への加入義務があります。予算案で家計に最も直接響くのが、この保険の費用です。
自己負担(eigen risico)は385ユーロから400ユーロへ
eigen risico(エイヘン・リシコ、強制自己負担額) は、家庭医の診察などを除く医療費のうち、年間で最初に自分で払う額です。保健省は2027年にこれを 385ユーロから400ユーロへ上げるとしています。インフレに合わせた改定です。
2026年の春には、さらに60ユーロを上乗せする案が検討されていました。6月の法案の説明では、物価改定後の395ユーロに60ユーロを足した455ユーロが想定されていました。予算案ではこの上乗せが2028年に先送りされ、IamExpat と The Hague International Centre もこの点を伝えています。
図のとおり、2027年の上げ幅は15ユーロにとどまります。ただし2028年には60ユーロの上乗せが再び検討される見込みで、2年続けて上がる可能性があります。
保険料と医療費手当
| 項目 | 2026年 | 2027年の見込み | 出典 |
|---|---|---|---|
| 基本保険料(月・平均) | 約156.50ユーロ | 約169ユーロ(+12.50) | Rijksoverheid |
| 強制自己負担額(年) | 385ユーロ | 400ユーロ | Rijksoverheid |
| 医療費手当の上限(単身・月) | 129ユーロ | 140ユーロ | Rijksoverheid |
| 医療費手当の上限(パートナーあり・月) | 246ユーロ | 約268ユーロと報道 | 専門サイトの報道 |
| 薬の自己負担の上限(年) | 250ユーロ | 250ユーロ(据え置き) | Rijksoverheid |
2026年の保険料は、2027年の見込み額から上げ幅を引いて逆算した目安です。保険料は国ではなく各保険会社が決め、11月12日までに公表されます。
保険料の上げ幅も、媒体で少し違います。政府は月12.50ユーロ、The Hague International Centre と IamExpat は「約12ユーロ」、NL Times は月169ユーロのほかに約171.50ユーロという数字も紹介しています。前者は保健省の見込み、後者は別の試算と考えられ、実際の額は保険会社の発表で決まります。
保険を見直すなら年内に
基本保険は毎年12月31日までに乗り換えられます。保険料が発表されたら、自己負担を任意で上乗せして保険料を下げる「vrijwillig eigen risico(任意の自己負担)」を選ぶか、補足保険(aanvullende verzekering)を続けるかを、受診の頻度と合わせて考えます。
6. 手当(toeslagen):予算案での変更点
所得が一定以下の世帯に支給される toeslagen(トゥースラーヘン、各種手当) にも変更があります。制度の全体像と申請の方法は、DevNJ の別の記事「オランダの手当(toeslagen)を取りこぼしていませんか」で詳しく扱っています。ここでは2027年予算案で変わる点に絞ります。
資産上限が大きく下がる
最も影響が大きいのは、医療費手当と kindgebonden budget(子ども関連の手当)の資産上限の引き下げです。手当の窓口である Dienst Toeslagen は、上限が約2万7,000ユーロ下がると案内しています。
図の「夫婦」は、手当の上でのパートナー(toeslagpartner)がいる場合です。資産は1月1日時点で判定され、年の途中で減っても、その年の受給資格は戻らないと報じられています。日本の口座の預金も資産に含まれる点は、2026年までと同じです。
Dienst Toeslagen は、上限を超えそうな人に11月末に通知を送り、資産の見込みをできれば12月8日までに Mijn toeslagen で届け出るよう案内しています。専門サイトの報道では、4万〜5万世帯が手当を受け取れなくなる可能性があるとされています。
そのほかの手当の変更
| 手当 | 2027年の変更 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 医療費手当 | 上限が単身で月140ユーロに | 案 | Rijksoverheid |
| kindgebonden budget | 子ども1人あたりの額が73ユーロ増。高所得層の減額を2段階で強める | 案 | 専門誌の報道 |
| 保育手当 | 増額は予定より小さく(財源が3億5,000万ユーロ減) | 案 | NL Times |
| 保育手当の例 | 子2人・所得が標準の2倍・週2日で約700ユーロ増 | 案 | Rijksoverheid |
| 児童手当(kinderbijslag) | 年90ユーロ前後の増額と報道 | 案 | 専門誌の報道 |
| 家賃手当 | 2027年の額は11月末に公表予定 | 未定 | 専門サイトの報道 |
| パートナーの定義 | 同居人に未成年の子がいても自動的にパートナー扱いにしない | 準備中 | Dienst Toeslagen |
7. 最低賃金と働き方
給与で暮らす人、アルバイトをする学生や配偶者、自営業者で、それぞれ関わる変更があります。
21歳以上の最低賃金
オランダの最低賃金は時給で決まり、年2回(1月1日と7月1日)改定されます。Rijksoverheid によると、21歳以上は2026年1月から時給14.71ユーロ、7月から14.99ユーロです。2027年1月の額は、この記事の確認時点ではまだ公表されていません。
16〜20歳は割合が上がる(決定済み)
政府は2026年4月、若年最低賃金を2027年1月1日から引き上げると発表しました。成人の最低賃金に対する割合が次のように上がります。
| 年齢 | 現在の割合 | 2027年1月から |
|---|---|---|
| 20歳 | 80% | 87.5% |
| 19歳 | 60% | 75% |
| 18歳 | 50% | 62.5% |
| 17歳 | 39.5% | 50% |
| 16歳 | 34.5% | 40% |
| 15歳 | 30% | 30%(変わらず) |
子どもがスーパーやカフェでアルバイトをしている家庭では、時給がはっきり上がる変更です。金額は成人の最低賃金の改定額が決まってから計算されます。
最低賃金のパートタイムは手取りが少し減るという試算
NL Times は、給与計算会社 Youforce の試算として、最低賃金で週24〜32時間働く人の手取りが月5.16〜11.83ユーロ減ると報じました。週40時間なら月17.17ユーロ増えるとされています。原因は税額控除の調整です。
ただし、この試算には1月の最低賃金の物価改定が含まれていません。改定で額面が上がれば、実際の手取りは増える可能性があります。「最低賃金のパートは損をする」と単純に受け取らないほうがよい数字です。
通勤手当・福利厚生・自営業者
| 項目 | 2027年の内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 非課税の通勤手当 | 1kmあたり0.02ユーロ増の0.25ユーロ | 案 |
| 社員割引・クリスマスギフト等の非課税枠 | 廃止または複雑化と報道 | 案 |
| 自営業者控除(zelfstandigenaftrek) | 900ユーロに縮小 | 確定(過去の法改正) |
| 開業者控除(startersaftrek) | 廃止(時期は媒体で違う) | 案 |
| 高所得者の年金積立の税優遇 | 137,800ユーロ以上の所得で6年間縮小 | 案 |
開業者控除は、The Hague International Centre が「完全に廃止」、NL Times が「2027年は2,123ユーロから10ユーロに、その翌年に廃止」、政府のリリースが「2028年に廃止」と、書き方が三者三様です。2027年に実質的にほぼゼロになり、2028年に制度ごとなくなると読むと、3つの記述が矛盾なく収まります。
8. 住まい:家賃・住宅購入・住宅供給
住宅は予算案の大きな柱の一つですが、借りて住む人の家賃に直接効く変更はあまりありません。
家賃はどうなるか
2027年7月の家賃の改定上限は、例年どおりなら年明け以降に公表されます。予算案の段階では示されていません。家賃手当の2027年の金額も、11月末に公表される予定です。
住宅を買う人・貸す人
| 項目 | 2026年 | 2027年の案 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 不動産取得税(自宅用) | 2% | 2%(変わらず) | NL Times |
| 不動産取得税(自宅以外) | 8% | 7% | Rijksoverheid |
| 初回購入者の非課税の価格上限 | 555,000ユーロ | 615,000ユーロと報道 | NL Times |
| 中間家賃住宅の開発業者への補助 | — | 1戸最大1万ユーロ(2029〜2033年) | THIC・IamExpat |
自宅以外の取得税の引き下げは、投資用の住宅を買う人に関わります。初回購入者の価格上限の引き上げは NL Times の報道で、政府のリリースでは確認できませんでした。購入を考えている人は、契約前に税理士か公証人に確認してください。
9. 資産・年金・その他の生活費
Box 3(貯蓄・投資の課税)は先送り
貯蓄や投資にかかる Box 3 の新制度は、実際の運用益に課税する方式への移行をめぐって意見が分かれ、上院で2027年春まで保留されています(The Hague International Centre、IamExpat)。2027年は現行の仕組みが続く見込みです。
非課税枠の額は、報道によって数字が違います。NL Times は単身で約61,000ユーロ、パートナーありで約122,000ユーロと書いています。オランダ語の金融系サイトの中には60,098ユーロとするものや、さらに大きな引き下げ案を伝えるものもあります。確定値は Belastingdienst の公表を待つのが安全です。
年金・失業手当
公的年金(AOW)受給年齢の前倒しと、出産・障害給付の日額上限の引き下げは撤回されました。失業手当(WW)の最長期間を2年から1年にする案は2029年へ、雇用主への退職金補填の廃止は2028年1月1日へ延期されています。出産を予定している人には、2026年までと同じ条件が続くという意味です。
消費・エネルギー・交通
| 項目 | 2027年の内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 長距離便の航空券税 | 1人74.81ユーロ→59.43ユーロ | 案 |
| ガソリン・軽油の減税 | 2027年も継続 | 案 |
| 花・観葉植物の付加価値税 | 9%→21%(政府リリースでは2028年) | 案 |
| エネルギー緊急基金 | 低所得・高光熱費の世帯に1億9,300万ユーロ | 案 |
日本への一時帰国が多い家庭には、長距離便の航空券税の引き下げが関わります。政府のリリースでは1人74.81ユーロから59.43ユーロで、当初予定の70ユーロ台より低く抑えられます。花の付加価値税は、IamExpat が時期を書かずに紹介しているのに対し、政府のリリースは2028年からとしています。
学生と研究者
国際人材の受け入れに関する削減は撤回され、親元を離れた学生の基本奨学金は2028年から月50ユーロ増えます。基本奨学金の増額を The Hague International Centre は「non-resident students」向けと書いていますが、IamExpat は「親元を離れて暮らす学生」としています。オランダ語の「uitwonend(親元を離れた)」の訳し方の違いとみられ、国外に住む学生向けという意味ではないと考えられます。
10. 家計への影響:CPB の見通し
個々の措置を足し合わせると家計はどうなるのか。独立機関の CPB(経済政策分析局)が、9月の見通しで答えを出しています。
| 指標 | 2026年 | 2027年の見通し |
|---|---|---|
| 購買力(中央値) | +0.6% | −0.1% |
| 物価上昇率(CPI) | — | 2.7% |
| 失業率 | 3.9% | 4.0% |
| 協約賃金の上昇率 | — | 3.8%(NL Times) |
8月の暫定見通し(−0.3%)から、予算案の措置で0.2ポイント改善したというのが CPB の説明です。
−0.1%は「ほぼ横ばい」と読める数字です。ただし平均の話で、医療保険の負担増は誰にでもかかり、手当の資産上限の引き下げは一部の世帯に大きく効きます。政府の購買力ページも、貧困状態の人数は横ばい、子どもの貧困は0.1%減の見込みとしています。
11. 媒体ごとに食い違う数字
ここまでに出てきた食い違いを、一つの表にまとめます。どれも「どちらかが誤り」というより、基準や時点が違う数字です。
| 項目 | 媒体ごとの表現 | 読み方 |
|---|---|---|
| 所得税率 | 「0.06ポイント下げ」(THIC・IamExpat)/「36.23%に上げ」(NL Times) | 引き下げ措置と予定済みの引き上げの合計が上昇 |
| 保険料の上げ幅 | 月12.50ユーロ(政府)/約12ユーロ(THIC)/約171.50ユーロの数字も(NL Times) | 保健省の見込み。確定は保険会社の発表 |
| 開業者控除 | 完全廃止(THIC)/2027年10ユーロ(NL Times)/2028年廃止(政府) | 2027年にほぼゼロ、2028年に廃止 |
| 30%ルールの若手基準 | 38,388ユーロ(政府)/38,338ユーロ(IamExpat) | 確定額で確認 |
| 30%ルールの段階縮小 | 実施しない(THIC)/30/20/10の説明が残る(Expatica) | 現行制度は27%への一律引き下げ |
| Box 3 の非課税枠 | 約61,000ユーロ(NL Times)/60,098ユーロ(金融サイト) | 未確定。公表を待つ |
| 奨学金の対象 | non-resident(THIC)/親元を離れた学生(IamExpat) | 訳語の違い |
媒体の要約は便利ですが、同じ記事を何度も読み返すより、一次情報の該当ページを1回開くほうが確実です。この記事の末尾に、確認に使ったページを並べています。
12. 日本の予算・税制改正と比べると
日本の予算と税制改正の流れを知っている人には、時期と決まり方の違いを押さえると、オランダのニュースが読みやすくなります。
| 項目 | 日本 | オランダ |
|---|---|---|
| 会計年度 | 4月〜翌3月 | 1月〜12月(暦年) |
| 予算の提出 | 1月の通常国会 | 9月第3火曜日(Prinsjesdag) |
| 税制改正の方向が見える時期 | 12月の与党税制改正大綱 | 9月の Belastingplan |
| 成立の時期 | 3月末までが一般的 | 12月の上院可決が一般的 |
| 上院の位置づけ | 予算は衆議院の議決が優先 | 上院が否決すれば成立しない |
| 施行の時期 | 4月1日が多い | 1月1日が多い |
最も大きな違いは、オランダでは上院(Eerste Kamer)が税制法案を否決できる点です。上院は修正はできない代わりに、法案全体を可決するか否決するかを決めます。
もう一つの違いは、発表から施行までの短さです。日本の税制改正は12月の大綱から4月の施行まで約4か月ありますが、オランダは9月の発表から1月の施行まで3か月半で、その間に審議も挟まります。12月に法案が確定し、翌月には給与の源泉徴収に反映される、という速さです。
13. 日本の家族にどう伝えるか
オランダで暮らしていると、日本の家族から「そっちは増税なの?」「生活は大丈夫?」と聞かれることがあります。ニュースの見出しだけを伝えると、実態以上に心配させることも、逆に楽観させることもあります。
| 伝えたいこと | 伝え方の例 |
|---|---|
| まだ決まっていない | 「日本でいうと12月の政府予算案の段階で、国会でまだ変わる」 |
| 税金の影響 | 「税率は少し上がるけれど、働いている人向けの控除も増える」 |
| 医療費 | 「年間の自己負担が約6万5,000円から約6万8,000円くらいに上がる程度」(1ユーロ170円で換算した場合) |
| 30%ルール | 「会社経由の税の優遇が少し小さくなるのは、2年前から決まっていたこと」 |
円に換算するときは、為替レートを決めて、そのレートを添えて伝えるのがおすすめです。ユーロ円は動きが大きく、同じ400ユーロでも換算時期で数千円変わります。上の表の換算は説明のための目安で、実際のレートで計算し直してください。
今回の予算案はオランダ国内の税と給付の話で、日本の住民税や年金の手続きを直接変えるものではありません。ただし日本に資産がある人は、手当の資産判定に日本の預金も含まれる点を家族と共有しておくと、残高証明などの書類集めが楽になります。
14. ケースで考える(架空の例)
ここからは架空の3人を例に、2027年に何が変わるかを考えます。実在の人物ではなく、条件を組み合わせた想定です。
ケースA:2025年に着任した駐在員(30代・単身)
2025年に30%ルールの適用を受けたため、2027年1月から上限は27%、給与基準も新しい額になります。額面が基準を少し上回る程度なら、27%を満額使えるかを人事に確認しておきます。
ケースB:現地採用の共働き世帯(子ども2人)
保育手当の増額は予定より小さいものの、政府の例(所得が標準の2倍、週2日)では年約700ユーロ増えます。夫婦の資産が158,748ユーロを超えると、医療費手当と kindgebonden budget は受け取れなくなる見込みです。
ケースC:配偶者の帯同で来た人(パートタイム勤務)
週24時間、最低賃金に近い時給で働いています。試算では手取りが月数ユーロ減る可能性がありますが、1月の最低賃金の改定で相殺されるかもしれません。
| ケース | 主な変更 | 年内にやること |
|---|---|---|
| A:駐在員・単身 | 30%→27%、新しい給与基準 | 人事に適用条件を確認、保険の見直し |
| B:共働き・子2人 | 保育手当・子ども手当の変化、資産上限 | 資産の確認、手当の見込みの更新 |
| C:パート勤務 | 手取りの小さな変化 | 1月の給与明細の確認 |
15. 年末までにやること
予算案の確定を待たずにできることを、時期の順に並べます。
- 11月12日以降:加入している保険会社の2027年の保険料を確認する。比較サイトで他社と並べ、乗り換えるなら12月31日までに申し込む
- 11月中:会社の人事・給与担当に、30%ルールの2027年の扱い(27%か30%か、給与基準)を確認する
- 11月末:Dienst Toeslagen から通知が届いたら内容を読む。届かなくても、自分の資産が新しい上限に近いなら自分で確認する
- 12月8日まで(目安):Mijn toeslagen で2027年の所得と資産の見込みを更新する
- 1月の最初の給与日:給与明細で、税額・控除・30%ルールの手当が想定どおりかを確認する
手当の届け出の詳しい方法は、手当の記事の手順の章にまとめています。
16. やってはいけないこと
予算案のニュースを読んだあとに起きやすい失敗を、理由つきでまとめます。
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 見出しの数字だけで家計の計画を決める | 多くは案で、上院の採決まで変わり得る |
| 30%ルールの変更を「今回の予算で決まった」と考える | 2024年に成立済み。予算審議の結果に左右されない |
| 資産の判定から日本の預金を外す | 手当の資産には国外の資産も含まれる |
| 保険料の発表前に乗り換えを決める | 各社の2027年保険料は11月12日まで出そろわない |
| 古い計算ツールの結果をそのまま使う | 30/20/10など、廃案の前提が残るページがある |
| 1月の給与明細を確認しない | 控除や手当の設定ミスは早く見つけるほど直しやすい |
17. まとめ
- 2027年予算案の大半は議会で審議中の案で、12月の上院採決で確定する
- 30%ルールの27%化(2027年1月1日から)は2024年に成立済みで、適用開始の時期で扱いが3つに分かれる
- 所得税は「0.06ポイント引き下げ」を含みつつ、全体としては税率が上がる形で、労働控除の増額と合わせて影響は人による
- 医療保険は自己負担400ユーロ、保険料は月169ユーロ前後の見込み。60ユーロの上乗せは2028年に先送り
- 手当は資産上限が単身で約2万7,000ユーロ下がる。11月末の通知と12月8日までの届け出が目安
- 16〜20歳の最低賃金は2027年1月から割合が上がる(決定済み)
- 媒体ごとに数字が食い違うときは、基準と時点の違いを疑い、一次情報で確かめる
参考にした情報源
在住者向け媒体
- Prinsjesdag - Budget Day plans for 2027 — The Hague International Centre:国際的な住民に関わる措置
- Prinsjesdag 2026: What's proposed, postponed & scrapped in new budget — IamExpat:購買力の見通し
- 30% ruling changes in 2027: what employers and expats should know — IamExpat:適用時期ごとの扱い
- Two dozen ways the 2027 budget could impact Dutch household wallets — NL Times:税率・区分
- Part-time workers on minimum wage will have take home pay reduced — NL Times:Youforce の手取り試算
- Full text of King Willem-Alexander's Prinsjesdag 2026 speech in English — NL Times:施政方針演説の英訳
- These are the Dutch budget changes coming in 2027 — DutchReview:医療費手当
- What is Prinsjesdag? — ACCESS:行事の流れと会場
- Netherlands Income Tax/Salary Calculator — Expatica:30%ルールの説明
政府・当局・統計
- Belastingplan 2027: voorstellen… — Rijksoverheid:税制案の要点
- Kabinet zet in op gezondheid… — Rijksoverheid:自己負担・保険料・医療費手当
- Prinsjesdag: Zorg — Rijksoverheid:医療分野の数字
- Prinsjesdag: Koopkracht — Rijksoverheid:購買力
- Prinsjesdag: Wonen — Rijksoverheid:住宅供給の予算
- Prinsjesdag — Rijksoverheid:テーマ別ページの一覧
- Soorten inkomstenbelasting — Rijksoverheid:2026年の税率と区分
- Expatregeling hoogopgeleide buitenlandse werknemers — Rijksoverheid:30%ルールの適用時期ごとの表
- Vergoeding 30%-regeling expats wordt 27% — Ondernemersplein:法律の成立と給与基準
- Bedragen minimumloon 2026 — Rijksoverheid:2026年の最低時給
- Hoger minimumjeugdloon vanaf 2027 — Rijksoverheid:若年最低賃金の割合
- Vermogensgrens gaat omlaag en partnerbegrip wordt eenvoudiger — Dienst Toeslagen:資産上限とパートナーの定義
- Belastingplan 2027 — Belastingdienst:税務当局の案内
- September projection 2026 (MEV 2027) — CPB:購買力・物価・失業率の見通し
- Miljoenennota 2027 — Rijksfinanciën:予算書の本文
- 37022 Belastingplan 2027 — Eerste Kamer:上院での審議状況
- Speech from the Throne 2026 — Government.nl:施政方針演説の英語版
- Prinsjesdag — Business.gov.nl:事業者向けの変更一覧
専門誌・その他
- Prinsjesdag 2026: Toeslagen onder druk — FiscAlert:子ども関連手当・児童手当の変更
いずれも2026年10月21日に確認したものです。予算案は12月の上院採決まで変わる可能性があり、保険料・手当・最低賃金の確定額は11月から1月にかけて順に公表されます。手続きの前に、公式サイトで最新の数値を確認してください。
元記事はこちら
Prinsjesdag unpacked: what it means for internationals — The Hague International Centre
よくある質問
- Prinsjesdag で発表された内容は、もう決まったことですか?
- 多くは政府の「案」です。税制の変更は Belastingplan 2027 という法案として下院(Tweede Kamer)と上院(Eerste Kamer)で審議され、両院が可決して初めて確定します。連立与党は両院で過半数を持たないため、修正の可能性があります。一方、30%ルールの27%化のように、前年までに法律が成立している変更もあります。
- 30%ルールは2027年からどうなりますか?
- 2024年以降に適用が始まった人は、2027年1月1日から非課税の上限が給与の27%になります。これは2024年に成立した法律で決まっており、今回の予算案の対象ではありません。2025年以降に適用された人は、給与基準も一般で50,436ユーロ(指数化前)に上がります。2023年末までに適用された人は30%のままです。
- 2027年の医療保険の自己負担(eigen risico)はいくらですか?
- 政府は385ユーロから400ユーロへの引き上げを示しています。インフレに合わせた改定で、当初検討されていた60ユーロの上乗せは2028年に先送りされました。基本保険料は平均で月12.50ユーロ上がり、月169ユーロ前後になると保健省は見込んでいます。実際の保険料は各保険会社が11月12日までに発表します。
- 医療費手当(zorgtoeslag)の条件は2027年に変わりますか?
- 支給の上限は単身で月140ユーロに上がる見込みです。一方で資産の上限は大きく下がり、2027年1月1日時点で単身119,122ユーロ、パートナーありで158,748ユーロを超えると受け取れなくなる予定です。対象になりそうな人には11月末に手当の窓口から通知が届きます。
- 所得税は上がるのですか、下がるのですか?
- 予算案には第1・第2区分の税率を0.06ポイント下げる措置が入っていますが、ほかの変更と合わせた法案の税率は、第1区分で35.75%から36.23%、第2区分で37.56%から38.16%へと上がる形です。労働控除(arbeidskorting)の拡大と合わせて、手取りへの影響は所得と働き方で変わります。
- 最低賃金は2027年に上がりますか?
- 21歳以上の最低時給は年2回、1月1日と7月1日に改定されます。2026年7月からは時給14.99ユーロです。2027年1月の額はまだ公表されていません。16〜20歳の若年最低賃金は、2027年1月1日から割合が引き上げられることが決まっています。