サイトを新しくするとき、問い合わせフォームは最後に回されがちです。デザインが固まり、ページの実装が進んだころに「フォームは今のものを移せばよいですね」と決まり、そのまま公開を迎えます。
ところが問い合わせは、ボタンを見つける、フォームを開く、入力を始める、送信する、返信を受け取る、という連続した段で起きます。どの段を誰が設計するのかを決めないままだと、新しいサイトでも同じところで人が帰ってしまいます。
この記事では、リニューアルの中で導線とフォームを設計する手順を7段階に分け、公開された調査と公式の基準をもとに判断の材料を並べます。
この記事が主に根拠にした情報
- Zuko のフォーム分析データ(2022年1月〜2025年4月、約9,300万セッション)
- Nielsen Norman Group の視線調査と問い合わせページの指針、Baymard Institute の入力フォーム調査
- W3C の WCAG 2.2、web.dev、GOV.UK とデジタル庁のデザイン指針
- GDPR の条文、オランダの AP・ACM の案内、日本の個人情報保護委員会の Q&A
| この記事で分かること | 答えの要点 |
|---|---|
| どこで問い合わせが減るのか | 入口・経路・フォーム・返信の4か所(第1章) |
| 項目をどう減らすのか | 2つの問いで必須・任意・聞かないに分ける(第6章) |
| 法令で何を書くのか | GDPR 第13条の情報、宣伝メールの同意、日本の利用目的(第9章) |
| 費用はいくらか | 通しで52〜142時間、€3,796〜15,052 の目安(第11章) |
見た目の刷新だけでは数字が動かない理由はデザインだけのリニューアルで成果が出ない理由で、日本と欧州の買い手の違いは日本とヨーロッパの問い合わせ導線の比較で解説しています。ここでは、設計の手順に絞ります。
1. 問い合わせは4か所で減る
問い合わせを増やす話は、すぐに「フォームの項目を減らしましょう」になりがちです。しかし、フォームは最後の段にすぎません。まず、どこでどれだけ減っているのかを見ます。
公開データで見るフォームの歩留まり
英国のフォーム分析サービス Zuko は、自社の計測データを集計して公開しています。2022年1月〜2025年4月のデータでは、問い合わせフォーム(Contact)を見た人のうち送信を完了した人は14.5%でした。入力を始めた人に限ると、完了率は47.4%です。
ここから計算すると、フォームを見た人のうち入力を始めたのは約31%です。つまり、約7割は入力を始めずに離れています。
端末でも差があります。同じデータで入力を始めた人の完了率は、問い合わせフォームでパソコン51.2%、スマホ39.4%でした。
数字の読み方と限界
Zuko はフォーム分析を売る会社で、データは同社の顧客のものです。金融や通販など消費者向けが多く、B2B の問い合わせだけの数字ではありません。同社も、端末の差には客層や流入元の違いが含まれうると書いています。
また、連絡先ページを開く人の多くは電話番号や住所を探しているだけかもしれない、と同社は指摘しています。14.5%は目標値ではなく、自社の数字を置く枠として使ってください。
4か所それぞれで、何が起きているか
減り方は場所ごとに原因が違います。次の表は、4か所の症状と、見る数字をまとめたものです。
| 場所 | 起きていること | 見る数字 | 主な打ち手 |
|---|---|---|---|
| 入口 | ボタンに気づかない、押す理由がない | ページ→フォームの移動率 | 配置と言葉(第5章) |
| 経路 | 材料が足りず、後回しにする | 問い合わせ前に読むページ | 料金・事例の配置(第5章) |
| フォーム | 始めない、途中でやめる | 開始率・完了率 | 項目と部品(第6〜7章) |
| 返信 | 届かない、遅い、次が分からない | 商談化の件数 | 送信後の設計(第8章) |
どの段を直しても掛け算で効く
段の数字は掛け算でつながります。次の表は、月4,000回見られるサービスページを持つ架空の会社で、各段を2割ずつ伸ばした場合の計算です。
| 直す段(架空の例) | 変化 | 月の完了件数 |
|---|---|---|
| 現状 | 移動5%・開始30%・完了47% | 約28件 |
| 入口を直す | 移動5%→6% | 約34件 |
| フォームの見え方を直す | 開始30%→36% | 約34件 |
| 入力の負担を直す | 完了47%→56% | 約34件 |
同じ2割なら、どの段でも増える件数はほぼ同じです。そうであれば、いちばん安く直せる段から手を付けるのが合理的です。
2. 全体像:設計の7手順
リニューアルの工程に、次の7つの手順を組み込みます。制作全体の流れはリニューアルの流れとスケジュールにあり、この7手順はその中の要件定義から公開後までに重なります。
営業の運用は制作会社には分からないので、手順2・4・6は発注側が決めます。飛ばされやすいのは1と6です。画面の見た目に現れないので、予算の話になると削られがちです。
3. 手順1:数字を段ごとに取る
最初にするのは、旧サイトの数字を段ごとに分けて残すことです。公開してしまうと、旧サイトの数字は取り直せません。保存期間と基準値の残し方はデザインだけのリニューアルで成果が出ない理由の第7章にあるので、ここでは段の分け方を説明します。
段ごとの計測の定義
Google アナリティクス 4(GA4)の拡張計測は、フォームを最初に操作したときに form_start を、送信したときに form_submit を記録します。さらに Google の推奨イベントには、見込み客の発生を表す generate_lead、適格と判断した qualify_lead、顧客になった close_convert_lead があります。
| 段 | 記録するもの | 手段 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 入口 | ボタンのクリック、フォームの表示 | クリックとページ表示 | どのページから来たかも残す |
| 開始 | form_start |
拡張計測 | セッションごとに最初の1回 |
| 送信 | form_submit |
拡張計測 | 送信の操作であり受理の確認ではない |
| 完了 | generate_lead |
受理後に記録 | 完了画面またはサーバー応答で |
| 商談化 | qualify_lead または社内記録 |
CRM・表計算 | 営業が週1回入力する |
form_submit と generate_lead を分ける理由は、送信ボタンが押されても、サーバーがエラーを返せば問い合わせは届いていないからです。両方の差を見ると、公開後の不具合にも気づけます。
読み違えやすい点
欧州向けでは、Cookie の同意の有無で GA4 に記録される人数が変わります。同意率が変わると、問い合わせが増えていなくても数字が動きます。設定はGA4 は GDPR で使えるかを確認し、件数は社内の受信記録と必ず照合してください。
電話やメールでの連絡も数えます。
過去の問い合わせを読む
数字に加えて、過去6〜12か月の問い合わせを50件ほど読みます。分けるのは、用件、最初の返信で追加確認が必要だった点、商談になったかどうかの3つです。
分かるのは、削っても困らない項目と、毎回聞き返している情報です。後者こそ、フォームに置く価値があります。
4. 手順2:問い合わせの種類と次の一歩を決める
「お問い合わせ」のボタン1つでは、検討の初期段階の人には重すぎ、急いでいる人には遠すぎます。訪問者の段階と求めているもので、入口を分けます。
種類ごとに入口を決める
次の表は、B2B サイトでよくある用件と向いている入口です。手順1で読んだ問い合わせの中で、件数が多いものを選びます。
| 訪問者の状態 | 欲しいもの | 向いている入口 |
|---|---|---|
| 予算を確かめたい | 金額の目安 | 料金の幅を載せたページ |
| 要件が決まっている | 見積もり | 見積もり依頼フォーム |
| 課題だけがある | 相談相手 | 相談フォームと日程予約 |
| 急いでいる | すぐの回答 | 電話番号 |
| 社内で説明したい | 持ち帰る資料 | 登録不要の PDF |
1番目の行は、問い合わせを減らす設計に見えるかもしれません。しかし、HubSpot Japan の2026年の調査(1,573人)では、Web や資料に期待することの1位が「価格や費用の目安がわかる」(42.9%)で、初めて売り手に接触する目的の1位も価格・見積もりの確認(42.4%)でした。料金が分からないから連絡する人を、ページで先に答えられれば、残る問い合わせは本題に近づきます。
ボタンの言葉は、押した後に起きることを書く
Nielsen Norman Group(NN/g)は「Get Started」という言葉が利用者を止める、と報告しています。何でも当てはまる言葉は約束が曖昧で、押した先が予想と違うと信頼を失うためです。同社は、リンクは約束であるとして、何が手に入るのかを具体的に書くよう勧めています。
次の表は、よくあるボタンの言葉を、押した後に起きることが分かる形に直した例です。
| 避けたい言葉 | 直した例 | 伝わること |
|---|---|---|
| 詳しくはこちら | 料金の例を見る | 行き先の中身 |
| お問い合わせ | 見積もりを依頼する(2営業日以内に返信) | 用件と返信の時期 |
| 今すぐ始める | 30分の相談を予約する | 所要時間 |
| 送信 | この内容で相談を送る | 操作の結果 |
返信の時期を書くなら、守れる日数を書きます。
5. 手順3:導線を描く
導線は、ページごとに「来た人は何を知っていて、次に何をしたいのか」を決める作業です。問い合わせ前によく読まれる上位10ページほどから始めます。
入口はどこに置くか
NN/g の視線調査(2018年、120人)では、閲覧時間の57%が最初の1画面、17%が2画面目に集まり、残り26%がその先に分布していました。パソコンの画面(1920×1080)での調査ですが、長いページの最下部だけにボタンを置くのが弱いことは読み取れます。
ただし、1画面目にボタンがあれば足りるわけではありません。押す理由がまだないからです。ボタンは、1画面目に小さく1つ、材料を読み終えた場所に大きく1つ置きます。
連絡先へのリンクの位置には、利用者の慣れがあります。NN/g の2019年の指針は、主要なナビゲーションかユーティリティナビゲーションと、フッターに目立つリンクを置くよう勧めています。利用者は右上か足元を探し、「会社概要」の中に隠すと見つかりません。
スマホでは、メニューの中に隠すと使われにくくなります。NN/g の調査(2016年、179人、6サイト)では、ナビゲーションが使われた割合は、隠れたメニューで57%、一部を見せたメニューで86%でした。問い合わせを増やしたいサイトなら、スマホのヘッダーに連絡の入口を1つ出すかどうかを検討します。
ページの種類ごとに、材料と次の一歩を決める
次の表は導線表の見本です。実際には上位10ページの URL を行に入れます。
| ページの種類 | 来た人の問い | ボタンの前に置く材料 | 次の一歩 |
|---|---|---|---|
| サービス | 自社に合うか | 対象・対象外・進め方 | 見積もり依頼 |
| 料金 | 予算に収まるか | 幅・変動要因・追加費用 | 相談の予約 |
| 事例 | 似た例はあるか | 業種・規模・期間 | 同じサービスの依頼 |
| コラム | 問題の解き方 | 本文の内容 | 関連サービスの案内 |
| 連絡先 | どう連絡するか | 電話・メール・返信の目安 | フォーム |
コラムから直接フォームへ送ると、検討の初期段階の人には唐突です。関連するサービスページをはさみます。
料金と材料を、ボタンの手前に置く
NN/g の Fessenden 氏は2019年の記事で、B2B サイトが価格を隠して「見積もりを依頼」に誘導すると、手間が増え、高そうに見え、信頼を損なうと書いています。勧めているのは、価格が変動するなら典型的な場合や幅を示すことです。
料金の出し方の詳細は日欧比較の記事の第12章にあります。導線の設計で決めるのは、どのボタンの手前に、どの材料を置くかです。
連絡手段はフォームだけにしない
NN/g は、連絡先ページには少なくとも電話番号とメールアドレスを載せ、フォームは追加の手段として置くよう勧めています。
6. 手順4:項目を仕分ける
項目の議論は、感覚で進めると「念のため」が積み重なります。GOV.UK のサービスマニュアルは、なぜ聞くのか、何に使うのか、正しいかをどう確かめるのかが分かるときだけ質問を足すよう書き、この一覧を質問の点検表(question protocol)と呼んでいます。
2つの問いで分ける
項目は、次の順で問います。「いいえ」が続いた項目は、最初の連絡では聞きません。
項目ごとの仕分けの見本
NN/g は問い合わせフォームを3〜5項目に抑え、返信に必要な情報だけを聞くよう勧めています。次の表は、B2B の問い合わせでの仕分けの見本です。自動入力の値は、第7章で説明する autocomplete の指定です。
| 項目 | 判定の目安 | 理由 | 自動入力の値 |
|---|---|---|---|
| 氏名 | 必須 | 返信の宛名 | name |
| メールアドレス | 必須 | 返信先 | email |
| ご用件(選択式) | 必須 | 担当への振り分け | ― |
| 相談内容 | 必須 | 返信の中身 | ― |
| 会社名 | 必須か任意 | B2B なら判断に使う | organization |
| 電話番号 | 任意 | 折り返す運用があるときだけ | tel |
| 予算・時期 | 任意 | 見積もり依頼なら役立つ | ― |
| 役職・部署 | 聞かない | 最初の返信に使わない | organization-title |
| 住所・郵便番号 | 聞かない | 郵送するまで不要 | ― |
個人事業者も相手にする会社なら、会社名は任意が自然です。日本向けと欧州向けの項目の違いは、日欧比較の記事の第7章を参照してください。
電話番号と理由の書き方
電話番号は、もっとも議論になる項目です。Baymard の調査(ネット通販の利用者1,026人)では、14%が店に電話番号を決して教えないと答えました。同社は、必須にするなら項目のすぐ近くに理由を書くか、任意にするか、なくせないかを検討するよう勧めています。
Zuko の項目別の調査(2023年5月〜2024年4月、1,362フォーム)では、電話番号の項目で止まる割合の平均は6.28%でした。どちらも消費者向けが中心ですが、聞くなら理由を添えるという判断の材料にはなります。
たとえば「お急ぎの場合に、お電話で折り返します(任意)」と添えると、使い道が一度に伝わります。
営業とすり合わせる
項目の削減は、営業の不安とぶつかります。話を「減らすかどうか」にせず、最初の返信に何が要るかに置き換え、過去の返信で本当に使ったかを確かめます。
用件ごとに項目を変えると、全員に全項目を見せずに済みます。「見積もり」を選んだ人にだけ予算と時期を見せる形です。
7. 手順5:フォームの部品を組む
項目が決まったら、部品を組みます。ここは公式の基準がいちばん揃っている部分です。W3C の WCAG 2.2 の中で、問い合わせフォームに関わる基準を抜き出しました。
| 基準 | レベル | フォームでやること |
|---|---|---|
| 1.3.5 入力目的の特定 | AA | 氏名やメールに autocomplete を指定する |
| 2.5.8 ターゲットサイズ | AA | 押す対象を24×24 CSSピクセル以上にする(例外あり) |
| 3.3.1 エラーの特定 | A | どの項目が誤りかを文字で伝える |
| 3.3.2 ラベルまたは説明 | A | 入力欄にラベルか説明を付ける |
| 3.3.3 エラー修正の提案 | AA | 分かる場合は直し方を示す |
| 3.3.7 同じ入力の繰り返し | A | 入力済みの情報を再度入力させない(例外あり) |
| 4.1.3 ステータスメッセージ | AA | 完了やエラーを読み上げにも伝える |
B2B だけのサイトが欧州アクセシビリティ法の対象になるとは限りません(EAA の記事参照)。それでも、上の基準は入力しやすさの仕様として使えます。
ラベルとヒント
web.dev は、プレースホルダーをラベルの代わりにしないよう書いています。入力を始めると消えるからです。デジタル庁のデザインシステムも、サポートテキストの代わりに使ってはならないとしています。
ラベルは入力欄の外に常に見える形で置き、形式の例は欄の下に書きます。
自動入力
HTML の autocomplete に値を指定すると、ブラウザが保存している情報を提案できます。web.dev は、type="email" と type="tel" でスマホのキーボードを合わせることも勧めています。
Zuko の分析(215フォーム)では、自動入力を使った人の完了率は71%、使わなかった人は59%でした。ただし、同社は相関であって因果ではないと明記しています。この差を効果の見積もりに使うべきではありません。
名前と文字の扱い
W3C は、できるなら氏名を1つの欄で受け、文字を制限しないよう勧めています。ふりがなは、読みの確認が必要なら別の欄で聞きます。
デジタル庁のデザインシステムは、入力できる文字種を原則として限定しないよう書いています。変換が必要なら、送信時か確認画面の表示時に自動で行います。ハイフンで送信を拒むようなチェックは外してください。
必須と任意の表示
Baymard の調査では、必須と任意の両方を明示しているサイトはパソコンで14%、スマホで6%でした。片方だけの表示では勘違いや入力エラーが起きるとして、同社は両方を明示するよう勧めています。
エラーの出し方
Baymard は、入力中の確認(インライン検証)がないサイトが31%あると報告しています(2024年公開)。ただし、入力の途中でエラーを出すのは逆効果です。次の表に、NN/g と Baymard の指針をまとめました。
| タイミング | やること | 避けること |
|---|---|---|
| 入力前 | 形式と例を欄の下に書く | エラーを見て初めて条件が分かる |
| 入力中 | 何も出さない | 打っている途中で誤りと表示 |
| 欄を離れた時 | その欄の誤りを近くに出す | ツールチップだけで示す |
| 修正中 | 直った瞬間にエラーを消す | 再送信まで消えない |
| 送信時 | 一覧と各欄の両方で示す | 一覧だけ、または色だけ |
エラーの後で入力内容を消さないことも大切です。
1ページか、分割か
W3C のチュートリアルは、長いフォームを段階に分け、進み具合を示すよう勧めています。ただし、問い合わせフォームで分割が効くことを示す原典は確認できませんでした。目安として、5項目以下なら1ページ、用件で項目が変わるなら枝分かれ、8項目以上や添付があるなら2〜3段階とします。分割するなら、前の段階の入力を保持してください(WCAG 3.3.7)。
確認画面は要るか
日本のサイトには確認画面の習慣があります。項目が少なければ同じ画面で見直せ、控えメールがあれば誤りにも後から気づけます。自動変換の結果を見せたい場合や、金額を含む依頼の場合は、置く理由があります。
8. 手順6:送信後を設計する
ここが整っていないと、届いた問い合わせが商談になりません。自動返信の文面と振り分けの詳細は問い合わせ対応の自動化にあるので、ここでは要点を挙げます。
完了画面に書くこと
NN/g の指針によると、多くの利用者はフォームへの返信を24時間以内に期待しています。24時間で返せないなら、返せる日数を書きます。期待を調整することも導線の一部です。
| 書くこと | 例 | 理由 |
|---|---|---|
| 受け付けたこと | 「ご相談を受け付けました」 | 送れたか不安にさせない |
| 次に起きること | 「担当から2営業日以内に返信します」 | 待ち時間が分かる |
| 控えの案内 | 「控えを登録のメールに送りました」 | 迷惑メールの確認を促す |
| 急ぎの連絡先 | 電話番号と受付時間 | 急ぎの人を逃さない |
完了のメッセージは、画面だけでなく読み上げソフトにも伝わるように作ります(WCAG 4.1.3)。
控えメールと社内通知が届くか
リニューアルで見落としやすいのは、メールの送り方です。フォームのサービスが自社ドメインを名乗って送る場合、SPF や DKIM の設定が新環境に引き継がれていないことがあります。Google は Gmail 宛ての送信者に SPF か DKIM の設定を求めています。
社内通知は共有の受信箱に送り、担当者と代理を決めておきます。個人のアドレスだけだと、その人が休むと止まります。
スパム対策は負担の小さいものから
リニューアル後のフォームには、スパムが届き始めます。W3C の2021年のノートは、CAPTCHA が障害のある人を締め出すことを指摘し、ハニーポット(人には見えない隠し項目)など負担の小さい手段から使い、攻撃があれば強めるよう書いています。手段の比較は問い合わせ対応の自動化の第4章にあります。
9. 法令:フォームに書くことと、やってはいけないこと
法令は項目と文面に直接関わるので、手順4と同時に確認します。以下は一般的な整理であり、個別の判断は専門家に確認してください。
GDPR:項目と説明の根拠
欧州の個人から問い合わせを受けるフォームでは、次の条文がそのまま設計の要件になります。
| 条文 | 求めていること | フォームでの対応 |
|---|---|---|
| 第5条第1項(c) | 必要な範囲に限る | 第6章の仕分けをそのまま根拠にする |
| 第6条第1項 | 法的根拠を持つ | 返信の根拠を1つ選ぶ |
| 第13条 | 取得時に情報を提供 | 運営者・目的・根拠・期間・権利などを示す |
オランダの当局 AP は、GDPR には決まった保管期間がなく、各組織が決めて説明するものとしています。期間を決めずに受信箱に残し続けるのは、説明がつきません。フォームのサービスや外部の判定サービスを使うなら、委託先としての契約と、域外移転の有無も確かめます。
同意のチェックボックスは要るのか
「問い合わせフォームには同意のチェックボックスが必須」と思われがちですが、条文はそう書いていません。問い合わせへの返信なら、本人の依頼に応じる契約前の対応(第6条第1項(b))や、正当な利益(同(f))を根拠にできる場合があります。
AP は、根拠は1つを選ぶものとし、事前にチェックされた欄は同意にならないとしています。必要なのはチェックボックスではなく、第13条の情報を送信前に見える場所に置くことです。
宣伝メールは別に同意を取る
返信と宣伝は分けます。オランダの ACM は、宣伝メールを送るには事前の同意が必要で、事前にチェックされた欄や利用規約への記載では足りず、送信後5年まで同意を証明できるようにするよう案内しています。既存顧客への案内には例外があります。
企業宛てなら自由だと考えるのは危険です。ACM の前身 OPTA の2012年の処分(Companeo)は、2009年10月1日以降、法は法人と自然人を区別していないと述べています。問い合わせをくれた相手を、自動的に宣伝メールの配信先に入れないでください。
日本:利用目的と広告メール
日本の個人情報保護法では、入力画面から本人が直接入力する場合、利用目的の明示が原則です(第21条第2項)。個人情報保護委員会の Q&A は、申込内容の確認や結果の通知のように目的が明らかなら明示が不要な場合があるとしつつ、新たなサービスの案内や提携先への提供は自明とは限らないと注意しています。ガイドラインは、送信ボタンを押す前に目に留まるように置くことが望ましいとしています。
広告・宣伝のメールには特定電子メール法があり、原則として事前の同意が必要です。
フォームの近くに置く文面の例
送信ボタンの上に短く書き、プライバシーポリシーへリンクします。次の表は構成の例で、文面は自社の運用に合わせます。
| 書く要素 | 文面の例 |
|---|---|
| 目的 | ご入力の内容は、このご相談への返信にだけ使います。 |
| 保管 | 商談にならなかった場合は、当社で決めた期間の後に削除します。 |
| 宣伝(送る場合のみ) | 未チェックの欄:「事例の案内メールを受け取る」 |
10. 手順7:公開前に試し、公開後に見直す
フォームは、見た目の確認だけでは検収できません。実際に送って、受け取って、記録されるところまで試します。
公開前のテスト
本番に近い環境で、次の項目を確かめます。
| テスト | やり方 | 合格の条件 |
|---|---|---|
| 送信 | 用件ごとに実際に送る | 担当の受信箱に届く |
| 控えメール | Gmail と社用メールで受ける | 迷惑メールに入らない |
| 計測 | 計測の確認画面で見る | form_start と generate_lead が記録される |
| エラー | 空欄と誤った形式で送る | 入力内容が残り、直し方が分かる |
| キーボード | Tab と Enter だけで送る | フォーカスが見え、完了できる |
| 旧URL | 旧フォームの URL を開く | 新しいフォームへ転送される |
旧フォームは、広告やメールの署名からリンクされていることがあります。転送の手順は301リダイレクトの記事を参照してください。
加えて、社外の人3〜5人に、スマホで実際に送ってもらいます。社内の人は項目の意味を知っているので、つまずきに気づけません。
公開後の90日
公開後は、段ごとの数字を週次で見ます。次の表は見直しの予定です。
| 時期 | 見るもの | 判断 |
|---|---|---|
| 公開日〜1週間 | 送信と受信の件数の一致、エラー | 不具合があれば即修正 |
| 2〜4週間 | 移動率・開始率・完了率 | 大きく下がった段を点検 |
| 5〜8週間 | 商談化の件数、用件の内訳 | 項目と入口を調整 |
| 9〜13週間 | 旧サイト・前年同期との比較 | 次に直す段を決める |
比較の方法はデザインだけのリニューアルで成果が出ない理由の第8〜9章にあります。A/B テストに必要な訪問数が足りないサイトでは、段ごとの前後比較と操作テストで判断します。
件数だけで判断しない
項目を減らせば、件数は増えても質が下がることがあります。完了件数、商談になった件数、最初の返信で追加確認が必要だった割合をセットで見ます。追加確認が増えたなら、その情報を任意の項目として戻します。項目は戻してよいものです。
11. 費用と期間の幅
導線とフォームの設計は、全面リニューアルの一部としても、単独の改修としても進められます。次の表は、従業員数十人規模の事業者サイトで、主要10ページとフォーム1種類を対象にした目安です。
工数は DevNJ が見積もった目安です。時間単価はオランダのフリーランス Web 開発者の平均€73(Knab、2026年、税抜)と、制作会社の平均基本単価€106(Simplicate、2025年第4四半期)を使いました。円は2026年10月30日の欧州中央銀行の参照レート(1ユーロ=175.68円)で換算しています。
| 作業 | 工数(時間) | 費用(€) | 円換算の目安 |
|---|---|---|---|
| 現状把握(数字と文面) | 8〜16 | 584〜1,696 | 約10万〜30万円 |
| 導線の設計(主要10ページ) | 12〜32 | 876〜3,392 | 約15万〜60万円 |
| 項目と文面の設計 | 6〜16 | 438〜1,696 | 約8万〜30万円 |
| フォームの実装と完了画面 | 8〜24 | 584〜2,544 | 約10万〜45万円 |
| アクセシビリティの点検 | 4〜12 | 292〜1,272 | 約5万〜22万円 |
| 計測の実装 | 4〜12 | 292〜1,272 | 約5万〜22万円 |
| 法令まわりの文面の整理 | 4〜12 | 292〜1,272 | 約5万〜22万円 |
| 公開後90日の見直し | 6〜18 | 438〜1,908 | 約8万〜34万円 |
| 合計 | 52〜142 | 3,796〜15,052 | 約67万〜264万円 |
弁護士の確認、ツールの月額、翻訳の費用は含みません。全面リニューアルの中で行うなら、他の作業と重なってこの合計より小さくなることがあります。費用全体はリニューアルの費用相場の記事で解説しています。
過去の問い合わせを読む作業と項目の仕分けは、自社で進めやすい部分です。計測の設計と法令の確認は、外部の確認を入れるほうが安全です。期間は、導線とフォームだけなら準備を含めて4〜8週間、公開後の見直しに90日を見ます。
12. よくある失敗
起きやすい失敗を、防ぎ方と並べました。リニューアル全体の失敗は失敗の典型例の記事にあります。
| 失敗 | 何が起きるか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 項目を減らす数を目標にする | 返信に要る情報まで消える | 2つの問いで仕分ける |
| 電話番号を消す | 探していた人が帰る | 電話とメールも載せる |
| 他社の伸び率で見積もる | 計画が合わなくなる | 自社の数字で試算する |
| 通知メールが届かない | 止まっても気づかない | 週次で受信数と計測を照合 |
| 全角や短い名前を拒否する | 正しい入力が弾かれる | 文字種を限定しない |
「項目を減らして○%増えた」という話はよく引用されますが、原典の条件が分からないものも多く、この記事では使っていません。
いちばん怖いのは通知の不達です。問い合わせは毎日来るものではないので、止まっても数日は気づきません。週1回のテスト送信を担当の予定に入れてください。
13. ケースで考える(架空の例)
ここからは説明のための架空の3社で考えます。実在の企業ではありません。効果の数字は示さず、判断の流れだけを書きます。
ケースA:日本の部品メーカー(日本語のみ)
製品ページからフォームへの移動率が低く、過去の問い合わせの半分はロットと納期の確認でした。製品ページにその目安を載せ、ボタンを「この製品の見積もりを依頼する」に変えました。項目はそのままです。
ケースB:オランダのコンサルティング会社(英語・オランダ語)
フォームは12項目で電話番号が必須でしたが、最初の連絡はいつもメールでした。項目を5つに減らして電話を任意にし、保管期間をプライバシーポリシーに書きました。宣伝メールへの自動登録は、未チェックの別の欄に分けました。
ケースC:日本と欧州で販売するソフトウェア会社
応募や売り込みが営業の受信箱に混ざっていたので、用件の選択肢で宛先を分けました。日本語版にだけふりがなの任意欄を置き、前後比較は同意率の影響を受けない社内の受信記録で行います。
| ケース | 詰まっていた段 | 最初の一手 | 触らなかったもの |
|---|---|---|---|
| A 製造 | 入口・経路 | 製品ページの材料とボタン | フォームの項目 |
| B コンサル | フォーム | 項目の仕分けと保管期間 | ページの見た目 |
| C ソフトウェア | 入口・返信 | 用件の分岐と振り分け | 全体の構成 |
3社とも最初の一手が違います。段ごとの数字を見ないまま「項目を減らす」と決めると、ケースAのように的を外します。
14. チェックリスト
リニューアルの要件書に、そのまま写して使えます。
準備と導線
- 移動・開始・完了・商談化の数字を段ごとに残した
- 過去の問い合わせを50件読み、用件を分類した
- ボタンの言葉が、押した後に起きることを示している
- 料金の幅や事例を、ボタンの手前に置いた
- 電話番号とメールアドレスも載せた
フォーム
- 全項目を必須・任意・聞かないに分けた
- ラベルが常に見え、
autocompleteとtypeを指定した - エラーは欄を離れた後に、直し方と一緒に出る
- 押す対象が24×24 CSSピクセル以上ある
送信後と法令
- 完了画面に次に起きることと返信の目安がある
- 控えメールと通知が届くことを確かめ、代理の担当を決めた
- 送信前に目的と保管の説明が見える
- 宣伝メールの同意は未チェックの別の欄で取る
公開前後
- 用件ごとに実際に送り、キーボードだけでも送信できた
- 社外の3〜5人に実機で試してもらった
- 公開後90日の見直しの担当を決めた
まとめ
- 問い合わせは入口・経路・フォーム・返信の4か所で減る。公開データでは、問い合わせフォームを見た人の約7割が入力を始めていない
- 段の数字は掛け算でつながるので、同じ伸びならいちばん安く直せる段から直す
- ボタンは材料の後に置き、言葉は押した後に起きることを書く。電話とメールも載せる
- 項目は「返信に欠かせないか」「あると質が上がるか」で仕分ける。削減自体を目標にしない
- 返信のための同意は必須とは限らないが、説明は要る。宣伝メールの同意は別に取る
- 導線とフォームの設計は通しで52〜142時間が目安。公開後90日の見直しまでを計画に入れる
参考にした情報源
フォームと導線の調査
- Online Form Statistics & Conversion Benchmarks — Zuko:14.5%と47.4%、電話番号の6.28%
- Form type benchmarking — Zuko:種類・端末別の値
- Does using browser autofill affect form conversion rate? — Zuko:自動入力の差
- Scrolling and Attention — NN/g:閲覧時間の分布
- Hamburger Menus and Hidden Navigation — NN/g:隠れたメニュー
- "Get Started" Stops Users — NN/g:ボタンの言葉
- "Contact Us" Page Guidelines — NN/g:3〜5項目、24時間
- Building Trust in B2B — NN/g:価格の見せ方
- HubSpot Japan の購買調査 — CommercePick:42.9%と42.4%
フォームの作り
- WCAG 2.2 — W3C:達成基準
- Target Size (Minimum) — W3C:24×24 CSSピクセル
- Forms Tutorial — W3C WAI:複数ページ
- Inaccessibility of CAPTCHA — W3C:代替手段
- Personal names around the world — W3C:氏名の欄
- Payment and address form best practices — web.dev:ラベルと自動入力
- autocomplete 属性 — MDN:値の一覧
- Reporting Errors in Forms — NN/g:エラーの出し方
- Inline Form Validation — Baymard:31%
- Required and Optional Fields — Baymard:14%と6%
- Explain the Phone Field — Baymard:14%(1,026人)
- Form structure — GOV.UK:質問の点検表
- インプットテキスト — デジタル庁:文字種、プレースホルダー
計測とメール
- Enhanced measurement — Google:
form_start、form_submit - Recommended events — Google:
generate_leadなど - Email sender guidelines — Google:SPF と DKIM
法令
- GDPR 第5条・第6条・第13条:原則、根拠、取得時の情報
- Retention of personal data — AP:保管期間
- Legal basis of consent — AP:同意の条件
- Spam voorkomen in uw reclame — ACM:事前同意と5年の証明
- Companeo の処分(2012年)— ACM:法人宛てにも適用
- 入力画面と利用目的の明示(Q&A)— 個人情報保護委員会:明示の原則
- ガイドライン(通則編)— 個人情報保護委員会:送信ボタンの前の配置
- 特定電子メール法のパンフレット — 総務省:オプトインの原則
費用
- Web developer zzp の時間単価 — Knab:€73(税抜)
- Benchmark report Q4 2025 — Simplicate:€106(費用の記事で整理した値)
- ユーロの参照レート — 欧州中央銀行:175.68円(2026年10月30日)
いずれも2026年11月1日に確認しました。Zuko と Baymard の数字は消費者向けが中心で、B2B の問い合わせにそのまま当てはまるとは限りません。工数の目安は DevNJ の見積もりで、法令の整理は一般的な説明です。実装の前に、最新の案内と自社の数字で確かめてください。
よくある質問
- リニューアルで問い合わせを増やすには、何から始めればよいですか?
- 問い合わせまでの段ごとの数字を取るところから始めます。ページからフォームへ進んだ数、入力を始めた数、送信を完了した数、返信して商談になった数を分けて見ます。どの段で減っているかが分かれば、ボタンの位置を直すのか、項目を減らすのか、返信を速くするのかを判断できます。
- 問い合わせフォームの項目はいくつが適切ですか?
- 一律の正解はありません。Nielsen Norman Group は問い合わせフォームを3〜5項目に抑え、返信に必要な情報だけを聞くよう勧めています。実務では、項目ごとに「返信に欠かせないか」「あると返信の質が上がるか」を問い、前者を必須、後者を任意とし、どちらでもない項目は聞きません。
- 問い合わせフォームに同意のチェックボックスは必要ですか?
- 問い合わせへの返信だけに使うなら、必ずしも必要ではありません。GDPRでは契約前の依頼への対応や正当な利益を根拠にできる場合があり、根拠は1つ選びます。ただし目的などの情報提供は必要です。宣伝メールを送るなら、返信とは別に、事前にチェックされていない欄で同意を取ります。
- 電話番号は必須にしたほうがよいですか?
- 電話で折り返す運用が決まっていなければ、任意にするか、聞かないのが基本です。Baymardの調査では、ネット通販の利用者の14%が店に電話番号を決して教えないと答えています。必須にするなら、何のために使うのかを項目のすぐ近くに短く書きます。
- 問い合わせフォームの改善にかかる費用はどれくらいですか?
- 現状把握、導線設計、フォームの実装、計測、公開後の見直しまで通して、52〜142時間が目安です。オランダの時間単価€73〜106で計算すると€3,796〜15,052、約67万〜264万円になります。主要ページとフォーム1種類に絞れば、費用はこの幅の下側に近づきます。
- 訪問数が少ないサイトでも効果を確かめられますか?
- 確かめられます。送信完了だけを見ると件数が足りないので、件数の多い手前の段(フォームへの移動、入力の開始)を見ます。あわせて問い合わせの商談化の件数を記録し、少人数の操作テストで迷う箇所を確かめます。A/Bテストができなくても、段ごとの前後比較で判断の材料はそろいます。
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